切断術後の管理と幻肢痛
成人看護学 / 運動器
解説
今回は切断術後の管理と幻肢痛について解説します。四肢切断術は、外傷・末梢動脈疾患・悪性腫瘍・重症感染症などにより四肢の温存が困難となった場合に行われる手術です。術後の看護では、切断によって生じた断端(残された四肢の先端部分)を義肢装着に適した形に整えること、そして切断後に特有の感覚異常である幻肢痛に対応することが重要なテーマとなります。
切断術後の断端管理
切断術後早期の看護で最も基本となるのが断端管理です。断端管理の目的は大きく三つあり、術後の浮腫を予防すること、断端を義肢装着に適した円錐形(円柱形ではなく先がやや細くなる形)に整えること、そして関節拘縮や筋萎縮を防ぐことです。
弾力包帯による断端形成
断端管理の中核となる手技が弾力包帯(弾性包帯)の巻き直しです。弾力包帯は術後早期から開始され、末梢から中枢へ向かって均等な圧で巻き上げます。末梢ほど圧を強めにして中枢に向かうにつれて圧を弱める「圧勾配」をつくることで、静脈・リンパの還流を促し、術後の浮腫を効率よく軽減します。包帯の圧が均等でないと一部にうっ血や皮膚障害を生じるため、定期的に巻き直し、断端皮膚の色調や温度、創部の状態を観察します。
この弾力包帯による圧迫は、断端を義肢のソケットに収まりやすい円錐形に整える効果ももちます。浮腫が残ったまま義肢を製作すると、適合不良の原因となるため、断端形成は義肢装着に向けた重要な準備です。
関節拘縮・筋力低下の予防
断端を保護しようとして関節を曲げたままにすると、関節拘縮が生じて義肢装着後の歩行や動作に支障をきたします。たとえば下肢切断では股関節や膝関節の屈曲拘縮、上肢切断では肩関節や肘関節の屈曲拘縮が起こりやすいため、術後早期から良肢位の保持と関節可動域訓練を行います。残存肢の筋力維持も重要で、廃用症候群を予防するために早期離床と全身的なリハビリテーションを進めます。
幻肢痛と関連概念
切断術後に特有の感覚異常として、幻肢痛(phantom limb pain)があります。幻肢痛とは、切断によって失われ存在しないはずの四肢部分に、灼熱感・電撃痛・締め付け感などの痛みを知覚する現象です。切断者の50〜80%が経験するとされ、看護師が必ず理解しておくべき症状です。
幻肢痛・幻肢覚・断端痛の区別
切断後に生じる感覚は三つに整理されます。一つ目が幻肢痛で、失われた四肢に痛みを感じるものです。二つ目が幻肢覚で、切断された四肢がまだそこに存在しているように感じられる現象ですが、痛みは伴いません。三つ目が断端痛で、これは実在する断端そのものに生じる痛みです。これらは併存することもあり、看護師は患者の訴えを丁寧に聞き取り、どの感覚を表現しているかを区別してアセスメントする必要があります。
幻肢痛の発生機序
幻肢痛の発生機序には、末梢神経の異常発火(切断端における神経腫の形成)、脊髄後角での感作、そして大脳の体性感覚野における神経回路の再構築(中枢神経の可塑的変化)が関与すると考えられています。「気のせい」や「精神的な訴え」ではなく、神経系の変化に基づく実在する痛みであることを、患者・家族・医療スタッフが共有することが大切です。
幻肢痛への対応
幻肢痛の治療は薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行います。薬物療法では、神経障害性疼痛に有効な三環系抗うつ薬、SNRI、ガバペンチノイドなどの抗けいれん薬、状況に応じてオピオイドが用いられます。通常の鎮痛薬(NSAIDs)は神経障害性疼痛には効きにくい点が特徴です。
非薬物療法には、健側の四肢を鏡に映して切断側があるように錯覚させるミラー療法(ミラーセラピー)、経皮的電気神経刺激(TENS)、認知行動療法、リラクセーション、神経ブロックなどがあります。断端が治癒したあとの断端マッサージや、義肢装着による感覚入力も中枢の再組織化を助けると考えられています。看護師は患者の痛みを否定せず傾聴し、多職種チームと連携して心理的支援も含めた全人的ケアを提供します。
義肢装着とリハビリテーション
切断術後の社会復帰には、義肢装着と段階的なリハビリテーションが欠かせません。義肢は装着すればすぐに使えるものではなく、断端と義肢ソケットの適合調整、残存筋の再教育、義肢を含めた身体イメージの再構築、日常生活動作(ADL)への応用と、段階を追って習得していく必要があります。
退院後もリハビリテーションを継続することが重要で、訓練を中断すると筋力低下や関節拘縮、義肢の不適合を招きます。看護師は退院指導において、計画的・段階的な動作訓練の継続が社会復帰に不可欠であることを伝え、地域のリハビリ資源、身体障害者手帳、補装具費支給制度などの社会資源情報も提供します。下肢骨折に対して用いられる膝蓋腱支持ギプス(PTBギプス)のように、患肢に荷重をかけながら骨癒合を促す装具もあり、上下肢の状態に合わせた指導が必要です。
まとめ
切断術後の管理では、弾力包帯を末梢から中枢に向かって巻き、浮腫予防と円錐形の断端形成を行うことが基本ケアとなります。関節拘縮予防と筋力維持のための早期リハビリも欠かせません。幻肢痛は切断者の多くが経験する神経障害性疼痛で、末梢から中枢に至る神経系の可塑的変化が関与する実在する痛みです。三環系抗うつ薬や抗けいれん薬などの薬物療法、ミラー療法やTENSなどの非薬物療法、心理的サポートを組み合わせて対応します。義肢装着後は計画的・継続的なリハビリテーションが社会復帰の鍵となり、看護師は身体的・心理的・社会的側面を踏まえた全人的支援を行うことが求められます。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
切断術後早期に断端の浮腫を予防し、義肢装着に適した円錐形に整える目的で、末梢から中枢に向かって巻く包帯を包帯という。
- 2.
切断によって失われ、存在しないはずの四肢部分に灼熱感や電撃痛などの痛みを知覚する現象をという。
- 3.
幻肢痛と区別すべき概念で、実在する断端そのものに生じる痛みをという。
- 4.
幻肢痛の発生には末梢神経の異常発火に加え、大脳の体性感覚野などにおける神経回路の再構築、すなわち中枢神経の変化が関与する。
- 5.
幻肢痛の薬物療法では、神経障害性疼痛に有効なやガバペンチノイドなどの抗けいれん薬が用いられる。
- 6.
健側の四肢を鏡に映して切断側があるように錯覚させ、幻肢痛を軽減する非薬物療法をという。
- 7.
切断術後に義肢を装着して退院する患者への指導では、筋力低下や関節拘縮、義肢の不適合を防ぐため、計画的・段階的なを継続する必要があることを伝える。
- 8.
下腿骨折後に体重を膝蓋腱で支持し、患肢に荷重をかけつつ骨癒合を促す機能的ギプスをギプス(PTBギプス)という。
