低位鎖肛の手術と看護
小児看護学 / 小児消化器疾患・先天性消化器奇形
解説
今回は低位鎖肛の手術と看護について解説します。鎖肛は直腸肛門奇形ともよばれ、胎生期の後腸の発達異常により直腸末端が正常な肛門位置に開口しない先天奇形です。新生児期に発見される代表的な消化管奇形の一つであり、術前管理・手術術式の選択・術後ケア・退院後の継続指導まで、看護師が長期的に関わる疾患として国試でも繰り返し問われます。
鎖肛(直腸肛門奇形)とは
鎖肛とは直腸盲端が正常な肛門位置に達せず、肛門が閉鎖あるいは欠如している先天奇形の総称です。多くの症例では直腸盲端が皮膚や尿道・腟・膀胱などに瘻孔を形成し、その瘻孔を介して胎便や便が排出されます。瘻孔の有無や開口部位、直腸盲端の高さによって病型が分類されます。
鎖肛は他の奇形を合併することもあり、VACTERL連合(脊椎・肛門・心・気管食道・腎・四肢の奇形)として知られています。診断後はまず他臓器奇形の有無を評価し、それを踏まえて治療計画が立てられます。
病型分類と術式の対応
鎖肛は直腸盲端が**恥骨直腸筋(骨盤底筋群)**を貫いているか否かによって、低位・中間位・高位の3型に分けられます(Peñaの分類)。
低位鎖肛は直腸盲端が骨盤底筋群より尾側(肛門側)に位置し、瘻孔は会陰皮膚、男児では会陰皮膚・陰嚢、女児では腟前庭部などに開口します。骨盤底筋群より下にあるため筋層との位置関係が比較的整っており、出生後の体重増加を待って会陰式肛門形成術を一期的に行うのが原則です。人工肛門造設は通常必要ありません。
中間位・高位鎖肛では直腸盲端が骨盤底筋群を越えて頭側にあるため、新生児期にまず人工肛門を造設して便排泄路を確保し、その後二期的に肛門形成術を行います。低位鎖肛で人工肛門が原則不要である点は国試で問われる重要事項です。
術前の観察と看護
低位鎖肛では、瘻孔を介して便が排出されているとはいえ、瘻孔は本来の肛門ではないため径が狭く、便の通過が不十分になりやすい状態です。便やガスが腸管内に貯留すれば腹部膨満・嘔吐・哺乳不良・体重増加不良が出現し、放置すればイレウスや腸管穿孔につながる危険があります。
したがって、術前の定期受診時には腹部膨満の有無を最優先で観察します。あわせて、瘻孔からの排便の回数と性状、哺乳量、体重増加、嘔吐の有無、不機嫌や啼泣の様子などを総合的にアセスメントします。便の排出が滞っている場合は、医師の指示のもとで浣腸や瘻孔の拡張により排便を促します。
手術は通常、児の全身状態が安定し、十分な体重増加が得られた時期に予定されます。会陰式肛門形成術では、瘻孔を切除して直腸を本来の肛門位置まで誘導し、外肛門括約筋の中心に肛門を形成します。
術後の創部ケア
肛門形成術後の早期は、縫合部の組織が脆弱で、しかも乳児では1日に何度も排便があるため、肛門周囲皮膚炎を起こしやすい時期となります。便中の消化酵素やアルカリ成分が皮膚に化学的刺激を与え、おむつや拭き取りによる物理的摩擦も加わって、肛門周囲に発赤・びらんを生じます。
排便後の処置では、強くこすらず刺激を最小限にすることが鉄則です。具体的には、人肌程度(37〜38℃)の微温湯で陰部洗浄を行い、便を流し落とした後、清潔なガーゼやコットンで押さえ拭きして水分を除去します。乾燥を確認したうえで、必要に応じて白色ワセリンや亜鉛華軟膏などの皮膚保護剤を塗布し、皮膚バリアを補います。
アルコール綿や消毒薬による頻回の清拭、ナイロンや化学繊維を含むウェットティッシュでのこすり拭きは、術後早期の脆弱な皮膚にとって過度な刺激となるため避けます。膿性分泌物、強い発赤の拡大、創部の離開、発熱などの感染徴候があれば、ただちに医師へ報告します。哺乳は継続し、水分摂取を十分に保って便を適度に柔らかく保つことも、皮膚刺激の軽減につながります。
退院後のブジー(肛門拡張)指導
肛門形成術後は、創部の治癒過程で瘢痕が収縮することによって、形成した肛門が狭窄しやすいという特徴があります。この狭窄を予防するために、術後概ね2週ごろから金属製のヘガールなどを用いて**ブジー(肛門拡張)**を開始し、徐々にサイズを大きくしながら数か月にわたって継続します。退院後は家庭で母親(養育者)が継続実施するため、退院前の指導が看護師の重要な役割となります。
実施の時間帯
ブジーは食事や授乳の直後を避け、食前や授乳前の児が比較的機嫌のよい時間帯に行います。食後は腸蠕動が亢進しており、ブジー挿入の刺激で嘔吐や排便を誘発しやすく、また満腹時の処置は児の苦痛も大きくなるためです。毎日同じ時間帯に行うと、児にとっても養育者にとっても生活リズムに組み込みやすく、継続しやすくなります。
体位と挿入方法
体位は仰臥位で両膝を立てるか、股関節を屈曲・外転させ、直腸の走行を整える姿勢をとります。ブジーには潤滑剤を十分に塗布し、児の力みが抜けたタイミングを見計らって、直腸の走行に沿ってゆっくり挿入します。指示された深さ・サイズを守り、決められた時間保持してから抜去します。
挿入時に強い疼痛を訴える、出血がみられる、肛門周囲に強い発赤や腫脹がある、発熱があるといった異常があれば、その日のブジーは中止し受診するよう指導します。家庭でのブジーは長期にわたるため、養育者の負担にも配慮し、実施手技を実際に見守って自信をもって行えるよう段階的に支援することが大切です。
まとめ
低位鎖肛は直腸盲端が骨盤底筋群より尾側にあり、瘻孔から排便がみられる病型で、体重増加を待って会陰式肛門形成術を一期的に行います。術前は瘻孔からの排便不良に伴う腹部膨満を最優先で観察し、術後早期は微温湯洗浄と押さえ拭き、皮膚保護剤による肛門周囲皮膚炎の予防が看護の中心となります。退院後は瘢痕収縮による肛門狭窄を防ぐため、食前など児の機嫌のよい時間帯に潤滑剤を用いてブジーを継続し、出血や強い疼痛があれば受診するという指導を、家庭で実施可能な形に整えて伝えることが、低位鎖肛の看護の要点です。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
直腸盲端が正常な肛門位置に達せず、肛門が閉鎖または欠如している先天奇形を(直腸肛門奇形)という。
- 2.
鎖肛では直腸盲端が皮膚や尿道・腟などに開口するを形成し、ここから胎便や便が排出されることが多い。
- 3.
鎖肛は直腸盲端が骨盤底筋群(恥骨直腸筋)より尾側にある鎖肛と、中間位・高位鎖肛に分類される。
- 4.
低位鎖肛では体重増加を待って一期的にが行われ、人工肛門造設は原則として不要である。
- 5.
低位鎖肛の術前定期受診時に、瘻孔からの排便不良に伴うイレウスを早期に発見するため最も優先して観察するのはである。
- 6.
肛門形成術後早期の排便後ケアでは、刺激を最小限にするためで洗浄し、こすらずに押さえ拭きで水分を除去する。
- 7.
肛門形成術後は瘢痕収縮による肛門のを予防するため、ヘガールなどによる肛門拡張(ブジー)を退院後も継続する。
- 8.
家庭でのブジーは腸蠕動亢進による嘔吐や排便を避けるため、食後ではなく(授乳前)の児の機嫌がよい時間帯に行うよう指導する。
