在宅看取りと遺族グリーフケア
地域・在宅看護論 / 訪問看護・在宅看取り
解説
今回は在宅看取りと遺族グリーフケアについて解説します。
在宅看取りとは
在宅看取りとは、終末期の療養者が病院や施設ではなく住み慣れた自宅で人生の最期を迎えること、およびそれを支える医療・介護・看護の総合的な営みを指します。「最期は自宅で過ごしたい」という本人の希望をかなえるためには、本人の意思、家族の介護力、医療・介護資源の三つがかみ合う必要があります。訪問看護師は、症状緩和や日常生活援助だけでなく、家族の意思決定支援や死亡前後のケア、死別後の遺族支援まで一連の過程に関わります。
意思決定支援とACP
在宅看取りを実現する前提となるのが**アドバンス・ケア・プランニング(ACP)**です。ACPとは、本人が大切にしている価値観や望む医療・ケアについて、家族や医療者と繰り返し話し合い、共有していく過程のことです。療養場所は「自宅」「施設」「病院」のいずれであっても、状況や本人の気持ちの変化に応じて変更可能であり、一度決めたら終わりではない点が重要です。 家族が在宅看取りを選択する際には、「本人の希望に応えたい」という思いと「自分たちだけで支えきれるか」という不安が同時に存在します。訪問看護師はまず、二十四時間連絡体制、訪問頻度、訪問診療や訪問介護との連携、急変時対応、看取り後の支援までを含む具体的な支援体制を提示し、家族が現実的に判断できるよう情報提供することが基本です。
在宅看取りを支える資源
中核となるのが在宅療養支援診療所です。在宅療養支援診療所は二十四時間の連絡・往診体制、訪問看護ステーションとの連携、緊急時の入院先確保などを要件としており、通院が困難になった終末期療養者にも自宅で医師の診察と症状緩和を継続して提供できます。これに加えて、二十四時間対応の訪問看護ステーション、訪問介護、福祉用具貸与、看取り加算などの制度を組み合わせて療養生活を支えます。
終末期から死亡確認までのケア
終末期で意識レベルが低下した状態でも、聴覚と触覚は最期まで残るとされています。視覚や言語応答が失われても、馴染んだ声で語りかけたり、手を握ったり頬に触れたりするタッチングを通じて、本人に安心感を伝えることができます。家族にとってもこの関わりは「最期まで一緒にいた」という肯定的な記憶となり、その後の悲嘆の回復にも良い影響を与えます。 経口摂取がほとんどなくなった療養者でも、口腔内の自浄作用が低下し細菌が繁殖しやすいため、誤嚥性肺炎予防の観点から口腔ケアは継続します。スポンジブラシや保湿剤を用いた清拭であれば、高齢の家族介護者でも毎日続けやすい現実的な援助です。 死亡が予測される段階では、主治医が死亡診断を行います。死亡診断書をもとに、家族は七日以内に市町村役場へ死亡届を提出します。
エンゼルケア
エンゼルケアとは、死亡確認後に行う死後の処置を中心とした遺体への一連のケアのことです。清拭、整容、着替え、必要に応じた創部の処置などを含みます。在宅では、まず家族と故人だけの静かな時間を確保し、家族の希望を聞きながらケアの内容と進め方を相談します。家族が一緒に体を拭いたり髪を整えたりすることは、別れを受け入れる過程を助け、グリーフケアの一部としても意義があります。
遺族グリーフケア
グリーフとは、大切な人を失ったときに生じる悲嘆反応のことであり、悲しみだけでなく、自責感、怒り、不眠、食欲不振などの心身の反応を含みます。これに対する支援がグリーフケアです。
悲嘆作業(グリーフワーク)
グリーフワークとは、遺族が喪失を受け入れ、新たな生活を再構築していく心理的な作業を指します。Wordenの四つの課題が代表的な枠組みで、(1)喪失の事実の受容、(2)悲嘆の苦痛を味わうこと、(3)故人のいない環境への適応、(4)故人を心の中に再配置し新たな人生に向かうこと、で構成されます。 死亡確認直後は急性悲嘆期にあたり、遺族は強い喪失感や自責感、混乱を抱えています。この時期のグリーフケアでは、助言や行動促進ではなく、傾聴と共感が最優先となります。沈黙を共有することも大切な関わりです。「もっとできることがあったのではないか」と自責の念を語る遺族に対しては、これまでの介護の努力を具体的に認め、労う言葉をかけることが基本姿勢です。否定したり原因を分析したりする対応は避けます。
複雑性悲嘆と専門的支援
通常の悲嘆は時間とともに少しずつ和らいでいきますが、六か月以上にわたって強い悲嘆症状が持続し、日常生活に支障をきたす状態を複雑性悲嘆といいます。複雑性悲嘆が疑われる場合は、精神科や心療内科などの専門機関への紹介を検討します。訪問看護ステーションによっては遺族訪問や遺族の集いを実施しており、四十九日以降を目安に遺族会などを案内することもあります。
まとめ
在宅看取りは、本人の意思(ACP)、家族の介護力、医療・介護資源の調整によって成立します。訪問看護師は、在宅療養支援診療所などの支援体制を提示して家族の意思決定を支え、終末期には聴覚・触覚を活かした関わりを家族に伝えます。死亡確認後はエンゼルケアを家族とともに行い、急性悲嘆期の遺族には傾聴と労いを中心としたグリーフケアを提供します。Wordenの四課題を念頭に、必要に応じて複雑性悲嘆への専門的支援につなげることも、訪問看護師の重要な役割です。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
在宅看取りを進めるうえで、本人が望む医療やケアについて本人・家族・医療者が繰り返し話し合い共有していく過程をという。
- 2.
二十四時間の連絡・往診体制をもち、訪問看護ステーションと連携して在宅看取りを中心的に支える医療機関をという。
- 3.
終末期で意識レベルが低下した状態でも最期まで残るとされる感覚は、聴覚とである。
- 4.
経口摂取がほとんどなくても、誤嚥性肺炎の予防のために継続することが推奨される日常的なケアはである。
- 5.
死亡確認後に行う、清拭・整容・着替えなどの遺体への一連のケアをという。
- 6.
死亡診断書をもとに、家族が市町村役場へ提出しなければならない書類をといい、死亡を知った日から七日以内に提出する。
- 7.
大切な人との死別によって生じる悲嘆反応に対し、遺族の心理過程に寄り添って行う支援をという。
- 8.
遺族が喪失を受け入れ、新たな生活を再構築していく心理的作業の枠組みとして知られる、Wordenが示した課題の数はである。
- 9.
死亡確認直後の急性悲嘆期にある遺族へのグリーフケアでは、助言や行動促進よりもが最優先となる。
- 10.
通常の悲嘆と異なり、強い悲嘆症状が長期にわたり持続して日常生活に支障をきたす状態をといい、専門機関への紹介を検討する。
