渡航医療と熱帯感染症
看護の統合と実践 / 国際看護・多文化看護
解説
国境を越えた人の移動が日常になった現代では、看護師も渡航者の健康管理や帰国後の発熱対応に関わる機会が増えています。渡航医療とは、海外渡航前のワクチン接種や予防薬の処方、健康相談、そして帰国後の感染症診療までを含む幅広い分野を指します。熱帯地域には日本では遭遇しない感染症が数多く存在するため、渡航先・潜伏期・症状の組み合わせから疾患を絞り込む臨床推論が欠かせません。
マラリアと周期熱
熱帯感染症のなかで最も警戒すべき疾患がマラリアです。マラリアはハマダラカ(雌のアノフェレス蚊)に媒介されるマラリア原虫(Plasmodium属)による感染症で、サハラ以南アフリカが最大の流行地となっています。原虫が赤血球内で分裂・破壊を繰り返す周期に一致して高熱と解熱が反復する周期熱が典型的な症状で、悪寒戦慄を伴う発熱、続く発汗と解熱という発熱発作が48〜72時間ごとに出現します。
マラリアの種類と特徴
マラリア原虫には大きく四種類があります。熱帯熱マラリア(P. falciparum)は最も悪性で、放置すると脳マラリアや多臓器不全をきたし致死率が高くなります。三日熱マラリア(P. vivax)は48時間周期、四日熱マラリア(P. malariae)は72時間周期、卵形マラリア(P. ovale)は48時間周期で発熱を繰り返します。潜伏期は原虫の種類により1〜4週間程度であり、アフリカ渡航後1〜2週間で発熱があり腹部症状を伴わない場合は、まずマラリアを疑うことが原則です。日本では4類感染症に分類され、診断した医師には直ちに保健所への届出義務があります。
予防と治療
マラリアの予防には抗マラリア薬の予防内服(メフロキン、ドキシサイクリン、アトバコン・プログアニル合剤など)と、長袖衣類・虫よけ剤・蚊帳の使用といった防蚊対策が基本となります。帰国後に発熱した場合は、最終曝露から1か月以内であればマラリアの可能性を必ず考え、速やかに医療機関を受診するよう指導します。
渡航前の看護指導
慢性疾患を持つ人が長期間海外に渡航する際には、現地で薬を切らさない工夫が安全管理の要となります。高血圧症や糖尿病などで内服治療を継続している場合、出発前にかかりつけ医に相談して滞在期間に応じた必要量を処方してもらい、現地で受診が必要になった場合の対応も確認しておくよう助言します。常用薬は機内持ち込み手荷物に入れ、英文の処方箋や診断書を携帯すると入国審査や現地受診時に役立ちます。向精神薬や麻薬成分を含む薬剤には持ち込み規制があるため、医師の証明書を準備することも重要です。海外旅行保険への加入、現地医療機関の情報収集、必要なワクチン接種の確認も渡航前に整えておくべき項目となります。
世界三大感染症
国際保健の基本知識として押さえておきたいのが世界三大感染症です。これはHIV/エイズ、結核、マラリアの三つを指し、世界全体で年間数百万人の死亡をもたらしています。2002年には国際的な資金供給の枠組みとして「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」が設立され、国連の持続可能な開発目標(SDGs)でも終息が目標とされています。結核は単一感染症としては世界最多クラスの死亡数を出しており、マラリアの死亡はサハラ以南アフリカの5歳未満児に集中しているという特徴があります。日本もグローバルファンドへの拠出やJICAを通じた技術協力で国際貢献を行っています。
まとめ
渡航医療では、渡航前の予防接種・予防内服・常用薬管理から、帰国後の発熱鑑別までを包括的に支援する視点が求められます。アフリカ渡航歴と周期熱、腹部症状なしという組み合わせからは熱帯熱マラリアを真っ先に想起し、致死的疾患を見逃さない姿勢が看護師にも必要です。慢性疾患患者への渡航前指導では、薬剤の確保と現地受診の準備を中心に具体的な助言を行います。世界三大感染症であるHIV/エイズ、結核、マラリアは国際保健の基本として確実に押さえておきましょう。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
アフリカ渡航後1週間で39度の発熱と解熱を繰り返す周期熱を呈する場合、最も疑うべき感染症はである。 マラリアを媒介する蚊はである。
- 2.
マラリア原虫のうち最も重症化しやすく致死率が高いのはである。 三日熱マラリアは約時間周期で発熱発作を繰り返す。
- 3.
日本ではマラリアは感染症法上の類感染症に分類され届出が必要である。 マラリア予防の基本は抗マラリア薬の予防内服と対策である。
- 4.
世界三大感染症とは、HIV/エイズ、結核、の三つを指す。 長期海外渡航する慢性疾患患者には、出発前にに相談し必要量の薬を処方してもらうよう助言する。
