多発性硬化症の入浴はなぜシャワー浴?ウートフ現象とは
看護師国家試験 第106回 午後 第58問 / 地域・在宅看護論 / 症状・疾患・治療に応じた看護
国試問題にチャレンジ
Aさん(55歳、女性)は、夫と2人で暮らしている。進行性の多発性硬化症( multiple sclerosis )で在宅療養をしている。脊髄系の症状が主で、両下肢の麻痺、膀胱直腸障害および尿閉がある。最近は座位の保持が難しく、疲れやすくなってきている。排尿はセルフカテーテルを使用してAさんが自己導尿を行い、排便は訪問看護師が浣腸を行っている。夫は仕事のため日中は不在である。 Aさんの身体状態に合わせた療養生活で適切なのはどれか。
- 1.入浴はシャワー浴とする。
- 2.介助型の車椅子を利用する。
- 3.ベッドの高さは最低の位置で固定する。
- 4.セルフカテーテルはトイレに保管する。
対話形式の解説
博士
今回は多発性硬化症(MS)の在宅療養じゃ。MS特有の「ウートフ現象」を知っているかがカギじゃぞ。
アユム
ウートフ現象?初めて聞きました。
博士
体温が上昇するとMSの神経症状が一時的に悪化する現象じゃ。ドイツの眼科医ウートフが視神経炎患者で発見したことから名付けられた。
アユム
なぜ体温が上がると悪化するんですか?
博士
脱髄した神経線維は熱に弱く、伝導がブロックされやすくなるためじゃ。健常神経では問題ないレベルの体温上昇でも、脱髄神経では症状が出る。
アユム
じゃあ入浴で湯船に浸かると症状が悪化するってことですか?
博士
その通り。湯船で体温が上がると、ふらつき・しびれ・視力低下などが増悪する。だから選択肢1の「シャワー浴」が正解じゃ。
アユム
入浴そのものを禁止するわけじゃないんですね。
博士
禁止ではない。ぬるめのお湯、短時間、シャワー中心が原則じゃ。入浴後に冷却すれば症状は元に戻ることが多い。
アユム
夏場の外出や発熱時も注意ですね。
博士
その通り。運動・サウナ・夏期の屋外活動も要注意じゃ。
アユム
MSってどんな病気なんですか?
博士
中枢神経(脳・視神経・脊髄)の脱髄疾患じゃ。若年女性に多く、再発と寛解を繰り返す指定難病。視神経炎、四肢麻痺、膀胱直腸障害、小脳失調など多彩な症状を呈する。
アユム
Aさんは脊髄系の症状が主ということは…
博士
両下肢麻痺、膀胱直腸障害が出ておる。排尿は自己導尿、排便は浣腸を要する状態じゃ。
アユム
介助型の車椅子はダメなんですか?
博士
Aさんは上肢麻痺はなく、日中は夫不在で一人。介助型だと自分で動けなくなる。自走式か電動車椅子で自立を促す方がよいのじゃ。
アユム
ベッドの高さを最低位置で固定、っていうのは?
博士
これも不適切じゃ。移乗のしやすい高さに変えられる方がよい。訪問看護師の介助時には高く、本人の移乗時には低く、という柔軟な設定が必要じゃ。
アユム
セルフカテーテルをトイレ保管は?
博士
Aさんは座位保持も困難で、毎回トイレまで移動するのは非現実的。ベッド周りの手の届く清潔な場所に置くべきじゃ。
アユム
MSの治療にはどんなものがありますか?
博士
急性増悪時はステロイドパルス療法、再発予防にはインターフェロンβ、フィンゴリモド、ナタリズマブなどの疾患修飾薬(DMD)が使われる。
アユム
在宅看護では、症状の悪化を防ぐ環境づくりが本当に大事ですね。
POINT
多発性硬化症では体温上昇によって神経症状が一過性に悪化する「ウートフ現象」が知られており、入浴は湯船に浸からずシャワー浴とすることで症状増悪を予防できます。両下肢麻痺があっても上肢機能が保たれていれば自走や電動車椅子で自立が可能であり、ベッドの高さは移乗や介護のしやすさに応じて調整することが望まれます。自己導尿に必要なカテーテルは、本人の動作能力に合わせて手の届く清潔な場所に配置することが現実的です。在宅看護では、疾患特性の理解に基づいた生活環境の工夫と残存機能の活用が療養生活の質を大きく左右する重要な視点となります。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:Aさん(55歳、女性)は、夫と2人で暮らしている。進行性の多発性硬化症( multiple sclerosis )で在宅療養をしている。脊髄系の症状が主で、両下肢の麻痺、膀胱直腸障害および尿閉がある。最近は座位の保持が難しく、疲れやすくなってきている。排尿はセルフカテーテルを使用してAさんが自己導尿を行い、排便は訪問看護師が浣腸を行っている。夫は仕事のため日中は不在である。 Aさんの身体状態に合わせた療養生活で適切なのはどれか。
解説:正解は 1 です。多発性硬化症(MS)では体温が上昇すると一時的に神経症状が増悪する「ウートフ現象(Uhthoff徴候)」が知られています。入浴で湯に浸かると体温が上昇しやすく症状悪化の原因となるため、Aさんには湯船に浸からないシャワー浴が望ましいとされます。また疲労しやすい状況にも配慮でき、安全性・負担軽減の両面で適切な選択です。
選択肢考察
-
○ 1. 入浴はシャワー浴とする。
MSでは体温上昇で神経症状が悪化するウートフ現象があり、湯船への長時間の浸漬は避けるべき。シャワー浴で体温上昇を抑え、ぬるめの湯・短時間での入浴が推奨される。
-
× 2. 介助型の車椅子を利用する。
Aさんは両下肢麻痺だが上肢の麻痺はなく、自分で車椅子を操作できる可能性が高い。日中は夫が不在で介助者がいないため、自走可能な自走式または電動車椅子の方が自立した生活につながる。
-
× 3. ベッドの高さは最低の位置で固定する。
移乗のしやすさや介護者の負担軽減のためには高さを調整できるようにしておく方がよい。最低位置に固定すると車椅子への移乗が困難になり、介護者も腰を痛めやすい。
-
× 4. セルフカテーテルはトイレに保管する。
Aさんは座位保持も難しく日中は一人で過ごしている。トイレまで移動して自己導尿するのは困難で、ベッド上で行える環境を整える方が現実的。手の届く清潔な場所に保管するのが望ましい。
多発性硬化症は中枢神経(脳、視神経、脊髄)の脱髄疾患で、視神経炎、眼球運動障害、四肢のしびれ・麻痺、小脳失調、膀胱直腸障害など多彩な症状を呈する。20〜40歳代の若年女性に多く、再発と寛解を繰り返しながら進行する。国の指定難病。治療は再発時のステロイドパルス療法、再発予防のインターフェロンβ、フィンゴリモド、ナタリズマブなどの疾患修飾薬(DMD)。療養上の注意として、体温上昇(入浴、発熱、運動、夏期)を避ける、ストレスや過労を避ける、規則正しい生活を送る、が重要となる。
多発性硬化症のウートフ現象(体温上昇による症状増悪)を知っているかを問う問題。在宅療養でのADL支援と組み合わせた状況設定問題でもある。
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