脊髄損傷の在宅ケア 初回訪問で最優先に確認すべき情報は?
看護師国家試験 第106回 午前 第66問 / 地域・在宅看護論 / 症状・疾患・治療に応じた看護
国試問題にチャレンジ
Aさん(42歳、女性)は、交通事故による脊髄損傷( spinal cord injury )で入院し、リハビリテーションを受けた。Aさんの排泄の状況は、間欠的導尿による排尿と、坐薬による3日に1回の排便である。同居する夫と実母が導尿の指導を受け、退院することになった。初回の訪問看護は退院後3日目とし、その後は訪問看護を週2回受けることになった。入院していた医療機関から提供された患者情報のうち、初回訪問のケア計画を立案するのに最も優先度の高い情報はどれか。
- 1.食事の摂取量
- 2.1日の導尿回数
- 3.最終排便の日時
- 4.リハビリテーションの内容
対話形式の解説
博士
今日の事例はAさん42歳女性、交通事故による脊髄損傷で入院リハビリ後に退院じゃ。排尿は間欠的導尿、排便は坐薬で3日に1回。
アユム
夫と実母が導尿の指導を受けて、退院後3日目から訪問看護が始まるんですね。
博士
うむ。問いは「初回訪問のケア計画に最も優先度の高い情報」じゃ。選択肢は食事摂取量・導尿回数・最終排便日時・リハビリ内容。
アユム
どれも必要そうに見えますが…どう考えたらいいですか?
博士
ポイントは「初回訪問日=退院後3日目」という条件じゃ。ここに「3日に1回の坐薬排便」という情報を重ねると、何が見えてくる?
アユム
あ、ちょうど排便のタイミングですね!
博士
その通り。もし最終排便が退院前日ならその日はまだ間があるが、退院のタイミング次第で当日に坐薬が必要かもしれん。逆に「もう4日便が出ていない」なら緊急対応が必要じゃ。
アユム
なるほど、最終排便日時を知らないとケア計画が立てられないんですね。
博士
うむ。さらに脊髄損傷の怖いところは、排便が滞ると合併症が多いことじゃ。腹部膨満、悪心、麻痺性イレウス、そしてT6以上の損傷では「自律神経過反射」が起こることもある。
アユム
自律神経過反射?初めて聞きました。
博士
膀胱や直腸が過伸展すると、損傷部位より下の交感神経が過剰に興奮して血圧が急上昇し、頭痛・顔面紅潮・発汗・徐脈などを起こす。最悪脳出血まで至ることもある病態じゃ。
アユム
だから排便管理は単なる便秘対策じゃなくて、命に関わる管理なんですね。
博士
その通り。選択肢2の導尿回数も重要じゃが、家族が手技を指導されており、初回訪問で実際の手技を確認すれば足りる。緊急性では排便の方が高い。
アユム
食事摂取量やリハビリ内容も、初回でなくても少しずつ情報収集できそうですね。
博士
うむ、優先順位の考え方じゃな。「今日のケア計画に直結する情報」と「継続的に把握していく情報」は別物じゃ。
アユム
先生、在宅では排便コントロールはどうしていくんですか?
博士
一般的には、毎朝の食事後や決まった時間に坐薬や摘便を行い、生活リズムと合わせる。水分摂取、食物繊維、腹部マッサージ、離床や車椅子姿勢での腸蠕動促進も組み合わせる。
アユム
家族だけでは大変そうですが…。
博士
だからこそ訪問看護の存在意義があるのじゃ。摘便が必要なケースや、坐薬使用のタイミングの見極めは看護師の役割が大きい。
アユム
改めて、初回訪問で最も大切な情報は最終排便日時、納得です。
博士
うむ、現場感覚を養う良問じゃな。
POINT
脊髄損傷患者の在宅ケアでは、排尿管理と排便管理が二本柱となります。本事例では「坐薬による3日に1回の排便」と「退院後3日目の初回訪問」という条件が重なり、訪問日がちょうど排便タイミングに当たるため、最終排便日時の把握が当日のケア計画(坐薬投与、摘便、緊急対応の要否)に直結します。排便が滞ると便秘や腹部膨満だけでなく、T6以上の損傷では自律神経過反射という重篤な合併症リスクもあり、身体的安全の確保が最優先です。導尿回数・食事摂取量・リハビリ内容もいずれ重要ですが、初回訪問の優先度としては最終排便日時に及びません。こうした「今日のケアに直結する情報」と「継続的に把握する情報」を分けて考える視点は、在宅看護における優先順位判断の基本です。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:Aさん(42歳、女性)は、交通事故による脊髄損傷( spinal cord injury )で入院し、リハビリテーションを受けた。Aさんの排泄の状況は、間欠的導尿による排尿と、坐薬による3日に1回の排便である。同居する夫と実母が導尿の指導を受け、退院することになった。初回の訪問看護は退院後3日目とし、その後は訪問看護を週2回受けることになった。入院していた医療機関から提供された患者情報のうち、初回訪問のケア計画を立案するのに最も優先度の高い情報はどれか。
解説:正解は 3 の「最終排便の日時」です。Aさんは脊髄損傷のため、自力での排便コントロールが困難であり、「坐薬による3日に1回の排便」が入院中のパターンです。初回訪問は退院後3日目であるため、ちょうど次の排便介助のタイミングに当たります。最終排便日時が分からなければ、すでに3日以上経過しているのか、坐薬投与を当日に行うべきか、摘便が必要かなどを判断できません。便秘が続けば腹部膨満、悪心、自律神経過反射(麻痺レベルT6以上での血圧急上昇)、麻痺性イレウスといった重篤な合併症を招くおそれがあり、排便状況の把握は身体的リスク管理として最優先となります。
選択肢考察
-
× 1. 食事の摂取量
食事量は栄養状態や便の性状に影響するため大切だが、問題文に食事に関する特別な注意点がなく、緊急性は高くない。初回訪問で別途確認すればよい項目。
-
× 2. 1日の導尿回数
導尿回数は重要な情報だが、家族が指導を受けて手技を獲得しているため、初回訪問で手技確認を行えばよく、最優先とまではいえない。
-
○ 3. 最終排便の日時
3日に1回の坐薬排便で、退院後3日目の訪問時がちょうど排便タイミングに当たる。未排便が続けば便秘・腹部膨満・自律神経過反射・イレウスなどの合併症リスクがあり、当日のケア計画(坐薬投与や摘便の必要性)を立てるうえで最も重要な情報となる。
-
× 4. リハビリテーションの内容
リハビリ内容は長期的な機能維持やADL拡大には必要だが、初回訪問の直接のケア計画には排便管理ほどの優先度はない。継続して情報収集していけばよい。
脊髄損傷患者の排泄管理は生涯にわたるテーマであり、導尿と排便コントロールが二本柱になる。T6以上の高位脊髄損傷では自律神経過反射(AD)が起こり得、膀胱・直腸の過伸展がトリガーとなって血圧急上昇・頭痛・発汗・徐脈などを引き起こす。初回訪問ではまず身体的リスクを回避する項目から情報収集する、という優先順位の考え方を押さえておきたい。
脊髄損傷の在宅ケア計画における優先度を問う問題。坐薬排便の周期と訪問日の関係から、最終排便日時がその日のケア計画に直結することを読み解く。
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