小さな命の看取り、親の「できた」を支える看護
看護師国家試験 第109回 午後 第60問 / 小児看護学 / エンド・オブ・ライフにある子どもと家族への看護
国試問題にチャレンジ
Aちゃん( 5 歳、女児)は、インフルエンザ脳症( influenza encephalopathy )の終末期である。Aちゃんに意識はなく、付き添っている母親は「私がもっと早く病院に連れて来ればこんなことにならなかったのに」と病室で泣いている。 Aちゃんの母親への対応で適切なのはどれか。
- 1.母親に受診が遅くなった状況を聞く。
- 2.母親がAちゃんに対してできるケアを提案する。
- 3.病気で亡くなった子どもの親の会を母親に紹介する。
- 4.母親が泣いている間はAちゃんの病室に居ることができないと母親に説明する。
対話形式の解説
博士
つらい事例じゃ。5歳のAちゃんがインフルエンザ脳症の終末期で意識はない。母親は「もっと早く病院に連れてくれば」と泣いておる。どう対応すべきかな。
アユム
声をかけにくい場面ですね…どの選択肢も難しく感じます。
博士
正解は2の「母親がAちゃんに対してできるケアを提案する」じゃ。
アユム
なぜでしょう?
博士
母親は深い自責感に苦しんでおる。そこへ「そんなことありませんよ」と否定するだけでは罪悪感は消えない。むしろ「今できること」に目を向けてもらうほうが心の支えになるのじゃ。
アユム
意識がなくても、できるケアってあるんですか?
博士
たくさんある。手を握る、髪を梳く、身体を拭く、好きだった絵本を読む、音楽を流す、一緒に写真を撮る、清潔を整える——どれも親にしかできない愛情表現じゃ。
アユム
それが「親としてやり切った」という感覚につながるんですね。
博士
そう。これはメモリーメイキングと呼ばれる看護で、手形や足形、髪の毛を残すこともその一つじゃ。死別後の悲嘆を支える大切な足場になる。
アユム
他の選択肢はなぜダメなんですか?
博士
1の受診が遅くなった状況を聞くのは最悪じゃ。医療者から問われれば「責められている」と感じ罪悪感が増すだけ。原因究明より家族の今の苦しみを受け止めるのが先じゃ。
アユム
3の親の会の紹介は?
博士
死別後のグリーフケアとしては非常に有効じゃが、まだAちゃんが生きているこの時期に紹介すると「もう助からないと見られている」と希望を奪ってしまう。タイミングが重要じゃ。
アユム
4の「泣いているなら部屋に居られない」は明らかに違いますね。
博士
その通り。泣くことは自然な感情表出で、親子が共に過ごす時間こそ最優先で守るべきもの。引き離すなどあってはならない。
アユム
インフルエンザ脳症って、子どもに多いんですよね?
博士
そう、5歳以下に多い重篤な合併症じゃ。発熱後数時間から1日で痙攣・意識障害・多臓器不全へ進行し、死亡率10〜30%、後遺症も高率。予防にはワクチン接種と早期のノイラミニダーゼ阻害薬投与、解熱剤ではアセトアミノフェンのみ使用し、アスピリン系は禁忌じゃ。
アユム
親が自分を責めてしまうことが多いんですね。
博士
急な経過だから「なぜ気づけなかったか」と後悔する家族は少なくない。看護師は責めない姿勢で寄り添い、「できるケアを一緒に」と声をかけることじゃ。
アユム
グリーフケアは亡くなった後も続きますか?
博士
もちろん。命日カードの送付、電話連絡、遺族外来、親の会紹介などで長期的に支える。兄弟児や父親のケアも忘れてはならんのじゃ。
アユム
悲しみに寄り添う看護の奥深さを感じました。
POINT
小児終末期の家族看護は、家族が「親として精一杯関わった」という記憶を残せるよう支援することが中核となります。本問のAちゃんの母親が抱く「もっと早く連れて来れば」という自責感に対し、看護師は受診遅延の経緯を問うのではなく、手を握る・髪を梳く・好きな絵本を読むなど今できる具体的なケアを共に行うことで、罪悪感を抱えながらも意味ある時間を過ごせるよう導きます。これはメモリーメイキングと呼ばれ、後のグリーフワークの基盤となる重要なケアです。亡くなった子の親の会の紹介は死別後に行うべきで、終末期の今は親子の時間を最大限守ることが優先されます。インフルエンザ脳症は急速に進行する重篤な病態であり、看護師は家族の感情表出を受容し、長期的な悲嘆ケアにつなぐ姿勢が求められます。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:Aちゃん( 5 歳、女児)は、インフルエンザ脳症( influenza encephalopathy )の終末期である。Aちゃんに意識はなく、付き添っている母親は「私がもっと早く病院に連れて来ればこんなことにならなかったのに」と病室で泣いている。 Aちゃんの母親への対応で適切なのはどれか。
解説:正解は2の「母親がAちゃんに対してできるケアを提案する」である。小児終末期における家族看護では、限られた時間の中で家族が「親としてできることをやり切った」と感じられるよう支援することが、その後の悲嘆過程(グリーフ)を穏やかに経るために重要である。意識のないAちゃんに対しても母親ができるケアはたくさんある——髪を梳く、手を握る、好きだった絵本を読む、身体を拭く、好きな音楽を流す、写真を一緒に撮る、清潔を整える、など。母親の自責感に正面から「そんなことはありません」と否定するのではなく、今できる行為に意識を向けてもらうことで、罪悪感を少しずつ抱えながら関わりの中に意味を見出すことができる。こうした関わりは子どもとの最期の時間を尊い記憶に変え、グリーフワークの基礎を築く。
選択肢考察
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× 1. 母親に受診が遅くなった状況を聞く。
終末期に受診遅延の経緯を聞くことは、自責感を強めさせるだけで治療にも家族支援にも資さない。医療者から問われることで「責められている」と受け止め、後悔と罪悪感を深めてしまう。
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○ 2. 母親がAちゃんに対してできるケアを提案する。
親として今できることを具体的に提案し、子どもとの最期の時間を意味あるものにする支援が最も適切。行為を通じて自責感の軽減、愛情の表出、グリーフワークの基礎形成につながる。
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× 3. 病気で亡くなった子どもの親の会を母親に紹介する。
死別後の悲嘆ケアとしては有効なリソースだが、まだ生きているAちゃんの看取り期にこれを紹介すると「もう助からない」という医療者の判断を突きつけることになり、家族の希望を奪う。死別後のフォロー段階で活用する。
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× 4. 母親が泣いている間はAちゃんの病室に居ることができないと母親に説明する。
終末期の家族を子どもから引き離すのは絶対に不適切。親子が共に過ごす時間こそがこの段階で最も守るべきもの。感情表出は自然な反応であり、受容的に寄り添うのが看護の基本。
インフルエンザ脳症は小児に急性発症する重篤な中枢神経合併症で、発熱後数時間〜1日で痙攣・意識障害・多臓器不全へと進行し、死亡率は約10〜30%、後遺症を残す割合も高い。確立した特異的治療はなく、早期の解熱剤選択(アスピリン・ジクロフェナク・メフェナム酸は避ける)、ステロイドパルス、低体温療法などの集学的治療が行われる。小児緊急死別における家族ケアは、メモリーメイキング(手形・足形・髪の毛・写真)、家族の同席・タッチング支援、兄弟児への配慮、グリーフフォロー(死別後の電話連絡、親の会紹介、命日カード)など継続的な関わりが重要。看護師自身のセルフケアも含め、多職種で支援する体制が必要である。
小児終末期の家族看護の基本——自責感を持つ家族に対し「できるケア」を共に見つけ、最期の時間を意味あるものにする支援が最優先となる。