StudyNurse

揺れる関係を支える看護の知恵 ボーダーラインパーソナリティ障害とチームアプローチ

看護師国家試験 第115午後113(状況設定問題)

国試問題にチャレンジ

115午後113

状況設定

Aさん(26歳、女性)は高校生のころからリストカットを繰り返し、ボーダーラインパーソナリティ障害〈境界性パーソナリティ障害〉の診断を受けている。最近仕事が忙しくなったパートナーに見捨てられる不安を感じるようになり、Aさんはメールを送り続け、帰宅したパートナーが、手首から血を流しているAさんを見つけた。パートナーに救急搬送されて総合病院の救急外来を受診したAさんは、意識清明で、手首の処置をした看護師に「消えてしまいたい、生きている意味がない」と話した。

Aさんは希死念慮が続いたため、精神科医の診察を受け、入院となった。入院後は担当のB看護師に何度も声をかけていた。入院3日の深夜、Aさんはナースステーションに来て「B看護師が電話に出掛けているので、私の代わりに電話してほしい」などと繰り返し頼むようになった。B看護師はすぐに対応できないために「私だけしか分からない。Aさんを困らせてしまった」と話していた。 看護チームの対応として適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. 1.B看護師の担当患者を減らす。
  2. 2.Aさんの希望に応じて担当者を変更する。
  3. 3.パートナーに、Aさんに電話をするよう連絡する。
  4. 4.カンファレンスでチーム内の看護師の感情を共有する。
  5. 5.日中に時間を決めて話を聞くことを、Aさんに伝える。

対話形式の解説

博士博士
今回は境界性パーソナリティ障害、通称BPDの患者さんへの看護チームの関わり方を考えるぞ。26歳のAさんは入院後、担当のB看護師にだけ何度も声をかけ、深夜にも『代わりに電話して』と繰り返し頼んでいる。そしてB看護師は『私だけしか分からない、Aさんを困らせてしまった』と話しておるんじゃ。
サクラサクラ
えっと…AさんがすごくB看護師を頼っていて、B看護師もそれに応えようと頑張っているように見えますけど、なんだか苦しそうですね。
博士博士
鋭いのう。これがBPDの看護でよく見られる『スプリッティング』、日本語では分裂と呼ばれる現象の一場面じゃ。患者さんが特定のスタッフを理想化し、他のスタッフを冷たい・分かってくれないと感じてしまう。理想化された側は『私が支えなきゃ』という万能感や罪悪感に巻き込まれていくのじゃ。
サクラサクラ
B看護師の『私だけしか分からない』って、まさにそれですね…。本人は親切のつもりでも、結果的にAさんの依存を強めてしまうんですか?
博士博士
そうじゃ。BPDの中核には『見捨てられ不安』『不安定な対人関係』『感情調整の困難さ』があってな、安心できる相手を見つけると今度はそれを失う恐怖が強まり、距離が一気に縮まったり爆発したりする。Aさんがリストカットに至った経緯もまさにそれじゃろう。
サクラサクラ
じゃあ選択肢を考えてみます。1のB看護師の担当患者を減らすのは…B看護師がもっとAさんに集中してしまいそうで、逆効果な気がします。
博士博士
その通り。問題の本質は人数ではなく、関わり方の構造なのじゃ。2のAさんの希望で担当者を変更するのはどうじゃ?
サクラサクラ
それも患者さんの要求どおりに動くと、『言えば変えてくれる人/変えてくれない人』みたいに分裂を強めちゃう気がします。一貫性が崩れますよね。
博士博士
うむ、よくわかっておるな。3のパートナーに電話してもらうのは?
サクラサクラ
Aさんが入院する前、パートナーへのメールが止まらなくなって自傷に至ったんですよね。ここで看護師が橋渡しすると、また同じパターンに戻ってしまいそうです。
博士博士
その通り。まずは病棟という安全な枠の中で治療的な関係を整えるのが先決じゃ。では4のカンファレンスで看護師の感情を共有するのは?
サクラサクラ
B看護師が一人で抱え込んでいるのを、チームで受け止めるってことですね。看護師側のしんどさを言葉にできる場って、すごく大事だと思います。
博士博士
まさに正解の一つじゃ。BPDの患者と関わると、看護師側にも苛立ち・無力感・特別視されたうれしさといった逆転移感情が起こりやすい。これを個人で抱えず、カンファレンスで言語化することで、スタッフが冷静さと一貫性を取り戻せるんじゃ。
サクラサクラ
もう一つの正解の5は、日中に時間を決めて話を聞くことを伝える、ですね。これはどうしてですか?
博士博士
これは『リミットセッティング(限界設定)』と呼ばれる、BPD看護の基本技法じゃ。『いつでも・誰でも対応します』ではなく、『毎日◯時から◯分間、話を聞きますね』と枠を提示する。患者さんには見通しと安心が生まれ、看護師は深夜帯などの過剰要求に巻き込まれずに済む。突き放すのではなく、構造で支えるんじゃな。
サクラサクラ
『話を聞かない』じゃなくて、『この時間にしっかり聞くよ』って約束するのが大事なんですね。冷たくするのではなく、決めた枠を一緒に守ることで安心してもらう…奥が深いです。
博士博士
そうじゃ。BPD看護の3本柱は『一貫した対応』『限界設定』『チームアプローチ』。この3つは試験でも臨床でも繰り返し問われる重要ポイントじゃから、しっかり覚えておくのじゃぞ。

POINT

境界性パーソナリティ障害の患者にみられる『特定スタッフへの依存・分裂操作』と、それに巻き込まれそうな看護師への対応として、チームでの感情共有と枠組みのある関わり(限界設定)が問われている問題。

解答・解説

正解は4です

問題文:Aさんは希死念慮が続いたため、精神科医の診察を受け、入院となった。入院後は担当のB看護師に何度も声をかけていた。入院3日の深夜、Aさんはナースステーションに来て「B看護師が電話に出掛けているので、私の代わりに電話してほしい」などと繰り返し頼むようになった。B看護師はすぐに対応できないために「私だけしか分からない。Aさんを困らせてしまった」と話していた。 看護チームの対応として適切なのはどれか。2つ選べ。

解説:正解は 4 と 5 です。境界性パーソナリティ障害(BPD)の看護では、患者が特定のスタッフに過度に依存したり、「良いスタッフ/悪いスタッフ」と評価を分けてしまう「分裂(スプリッティング)」が起こりやすいのが特徴です。本事例のB看護師は『私だけしか分からない』『Aさんを困らせてしまった』と語っており、患者の依存に巻き込まれ、罪悪感や万能感を抱え込んでしまっている状態です。このようなときは、(4)カンファレンスでチーム内の感情を共有して認識を揃え、(5)対応の枠組み(いつ・どのくらい話を聞くか)を構造化してAさんに明示することで、チームとして一貫した対応をとることが不可欠です。

選択肢考察

  1. ×1.  B看護師の担当患者を減らす。

    担当数を減らすだけでは、特定の看護師にAさんの依存が集中している構造的な問題は解決しません。むしろB看護師がさらに濃密に関わることで依存と分裂がより強固になる可能性があり、本質的な対処ではありません。

  2. ×2.  Aさんの希望に応じて担当者を変更する。

    患者の要求に合わせて担当者を変えると、『自分の思い通りになる人/ならない人』という分裂操作を助長してしまいます。BPDの看護で重要なのは対応の一貫性であり、希望どおりに担当者を入れ替えるのは適切ではありません。

  3. ×3.  パートナーに、Aさんに電話をするよう連絡する。

    今回の入院契機は、パートナーへの見捨てられ不安と過度な依存的接触からの自傷でした。看護師が外部からパートナーを呼び寄せる形で介入すると、依存的対人関係パターンを強化しかねません。まず病棟内での治療的な枠組みを整えることが先です。

  4. 4.  カンファレンスでチーム内の看護師の感情を共有する。

    BPDの患者と関わる看護師には、無力感・罪悪感・苛立ち・特別視されている高揚感など、さまざまな逆転移感情が生じやすくなります。カンファレンスでこれらの感情を率直に共有し、特定のスタッフだけが抱え込まない体制をつくることが、巻き込まれや分裂を防ぐ基本となります。

  5. 5.  日中に時間を決めて話を聞くことを、Aさんに伝える。

    『いつでも・誰でも対応する』のではなく、『日中の決まった時間に話を聞く』という枠組み(リミットセッティング)を明確に伝えることが大切です。Aさんに見通しと安心感を与えると同時に、深夜帯の頻回な要求を制限し、一貫した対応を可能にします。

境界性パーソナリティ障害の中核的特徴は、見捨てられ不安、不安定で激しい対人関係、同一性の混乱、衝動性、自傷・自殺企図、感情の不安定さなどです。看護の3本柱は『限界設定(リミットセッティング)』『一貫した対応』『チームアプローチ』とされます。特に『スプリッティング(分裂)』では、ある看護師を理想化し別の看護師をこき下ろすといった行動が現れるため、スタッフ間で情報と感情を共有し、対応のばらつきを最小限にすることが治療的環境の維持につながります。また、看護師自身のセルフケアと、必要時にスーパービジョンを受けられる体制づくりも重要です。

境界性パーソナリティ障害の患者にみられる『特定スタッフへの依存・分裂操作』と、それに巻き込まれそうな看護師への対応として、チームでの感情共有と枠組みのある関わり(限界設定)が問われている問題。

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。