終末期の家族支援とグリーフケア
成人看護学 / がん・緩和・終末期
解説
今回は終末期の家族支援とグリーフケアについて解説します。終末期とは、治癒を目指した治療が困難となり、死が近づいた時期を指し、この時期に行われる医療・看護をエンドオブライフケアと呼びます。緩和ケアは身体的苦痛のみならず、精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛(全人的苦痛)を和らげ、患者と家族のQOLを高めることを目的とする包括的ケアであり、終末期に限らず病の診断時から提供されます。看護師は患者本人だけでなく、ともに病いを生きる家族をもケアの対象として捉え、死別前から死別後まで継続的に支援する役割を担います。
在宅看取りを支える体制
近年は住み慣れた自宅で最期を迎えたいと希望する人が増え、在宅看取りを支える体制づくりが重要となっています。在宅看取りの成立には、第一に患者本人と家族の意思確認が不可欠です。延命処置の希望や急変時の対応について、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)として繰り返し話し合います。第二に、疼痛や呼吸困難などに対する症状マネジメントを徹底し、苦痛の少ない療養を支えます。第三に、夜間や急変時に対応できる24時間対応の訪問看護・訪問診療の体制を整え、家族が孤立しないようにします。第四に、後述する臨死期の身体徴候について家族にあらかじめ説明しておくことで、不必要な救急要請や動揺を防ぎます。最後に、死別後のグリーフケアまでを視野に入れた継続的な関わりが、在宅看取りを支える基盤となります。
臨死期の身体徴候
死が数日から数時間に迫った時期に現れる身体徴候を臨死期徴候(Agonal signs)といいます。代表的なものに、下顎を動かして喘ぐような下顎呼吸、深く速い呼吸と無呼吸を周期的に繰り返すチェーンストークス呼吸、咽頭部に貯留した分泌物がゴロゴロと鳴る死前喘鳴、四肢冷感とチアノーゼ、意識レベルの低下、尿量の減少、血圧低下、橈骨動脈の触知不能などがあります。これらは死に向かう自然な経過であり、患者本人の苦痛を意味するものではないことを家族に丁寧に説明します。事前の説明があることで家族は予期悲嘆を整理でき、最期の時間を落ち着いて過ごすことができます。
終末期の栄養・水分管理
終末期では消化吸収能力が低下し、必要エネルギー量も減少します。このため「食べさせる」ことを目標にせず、「味わえるものを届ける」発想への転換が求められます。アイスや氷片、少量の果物など患者の嗜好品を用い、口腔ケアを併せて行うことで口腔内の湿潤と満足感が得られます。家族が好物を持参してともに味わう関わりは、関係性を支える重要なケアとなります。一方、過度な輸液は溢水・浮腫・胸水・気道分泌物の増加を招き、かえって苦痛を強めるため、日本緩和医療学会のガイドラインでも控えることが推奨されています。
臨終直前の看護
臨終が近づいた段階で看護師がまず行うべきは、家族が患者のそばで穏やかに過ごせる環境を整えることです。聴覚は最期まで保たれるとされているため、家族には患者に話しかけ、手を握り、これまでの感謝を伝えるよう促します。死を間近にして生じる家族の悲しみを予期悲嘆といい、これを十分に表出できるよう支援することが、後のグリーフケアの基盤となります。
悲嘆のプロセスとグリーフケア
グリーフケアとは、大切な人を喪失した遺族の悲嘆過程に寄り添い、回復を支援するケアをいいます。悲嘆過程を理解するための代表的理論として、キューブラー・ロスの5段階(否認・怒り・取引・抑うつ・受容)、ボウルビィの4段階(無感覚・思慕と探索・混乱と絶望・再建)、ウォーデンの4つの課題(喪失の事実の受容・悲嘆の苦痛の経験・故人のいない環境への適応・新しい生活への再投資)があります。通常の悲嘆は時間とともに緩和しますが、6か月以上強い症状が持続し日常生活に支障をきたす状態を複雑性悲嘆といい、専門医や心理職による介入が必要となります。
死別後の具体的支援
死別直後の重要なケアに**エンゼルケア(死後の処置)**があります。家族の希望に応じて一緒に行うことで、別れの実感と悲嘆の表出を促し、後悔の少ない看取り体験につながります。さらに看護師は、遺族へのねぎらいと傾聴、グリーフカウンセラーや遺族会(サポートグループ)の紹介、遺族訪問や追悼会の開催などを通じて、死別後も継続的に支援します。
まとめ
終末期の家族支援とグリーフケアでは、患者と家族を一つの単位として捉え、死別前の予期悲嘆から死別後の悲嘆過程までを切れ目なく支えることが看護の中心となります。臨死期徴候の事前説明、聴覚保持を踏まえた語りかけの促し、エンゼルケアへの家族参加、悲嘆理論に基づく傾聴と継続的フォローを押さえておけば、国家試験で問われる本領域の問題に対応できます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
終末期において全人的苦痛を和らげ、患者と家族のQOL向上を目的とする包括的ケアをという。
- 2.
死が数日から数時間に迫った時期に現れる、下顎呼吸やチェーンストークス呼吸、死前喘鳴などの身体徴候を総称して(Agonal signs)という。
- 3.
深く速い呼吸と無呼吸を周期的に繰り返す呼吸パターンをという。
- 4.
終末期の輸液は過度に行うと溢水・浮腫・胸水やの増加を招くため、控えることが推奨される。
- 5.
臨終直前まで保たれているとされる感覚はであり、家族に話しかけてもらうことが重要である。
- 6.
死を間近にして生じる家族の悲しみをという。
- 7.
キューブラー・ロスによる悲嘆の5段階は、否認・怒り・取引・・受容である。
- 8.
ウォーデンは、悲嘆を乗り越えるための4つのとして、喪失の事実の受容、悲嘆の苦痛の経験、故人のいない環境への適応、新しい生活への再投資を提唱した。
- 9.
6か月以上強い悲嘆症状が持続し日常生活に支障をきたす状態をといい、専門的介入が必要となる。
- 10.
死別直後に家族の希望に応じて一緒に行うことで、別れの実感と悲嘆の表出を促すケアをという。
