レビー小体型認知症の幻視
精神看護学 / 発達・知的障害・その他
解説
今回はレビー小体型認知症の幻視について解説します。レビー小体型認知症は、脳神経細胞内にレビー小体とよばれる異常なたんぱく質(α–シヌクレイン)が蓄積することで生じる変性性認知症で、アルツハイマー型認知症に次いで頻度が高い疾患です。英語名のdementia with Lewy bodiesを略してDLBともよばれます。国家試験では特徴的な4つの中核症状、なかでも具体的で繰り返される幻視と、それに対する看護のあり方が繰り返し問われています。
レビー小体型認知症の中核症状
レビー小体型認知症の臨床像を理解するうえで欠かせないのが、4つの中核症状です。すなわち、認知機能の動揺、繰り返し出現する具体的な幻視、パーキンソニズム、そしてレム睡眠行動障害の4つです。これらは単独ではなく重なり合って出現し、患者の生活機能と安全性に大きな影響を与えます。
認知機能の動揺
認知機能の動揺とは、注意力や覚醒度、思考の明瞭さが日内あるいは日ごとに大きく変化する状態を指します。会話がしっかりできていた人が数時間後にはぼんやりして反応が乏しくなる、といった変化が典型例です。アルツハイマー型認知症では症状が緩やかに進行するのに対し、レビー小体型認知症では「よい時間」と「悪い時間」が交互に現れる点が特徴で、家族の観察情報が診断の手がかりになります。
具体的な幻視
レビー小体型認知症で最も特徴的な症状が幻視です。本来そこに存在しないものが、ありありと見えてしまう症状を指し、内容が具体的で、しかも繰り返し出現する点が他疾患の幻覚と異なります。「子どもが部屋の中で遊んでいる」「虫が壁を這っている」「亡くなった家族がそばにいる」など、人物や小動物がはっきり見えるのが典型像です。患者本人は実体験として認識しているため、強く否定すると混乱や興奮を招きます。
幻視と関連が深い現象に**パレイドリア(錯視)**があります。これは、実在する模様や物体を別のものに見間違える現象で、ご飯にかかったゴマを虫と認識する、カーペットの細かい柄が動物に見える、壁のシミが人の顔に見えるなどが代表例です。レビー小体型認知症では視覚認知に関わる後頭葉の機能低下が背景にあり、細かい模様や複雑な柄、薄暗い照明などが幻視・錯視のきっかけとなります。
パーキンソニズム
パーキンソニズムは、安静時振戦、筋強剛、無動・寡動、姿勢反射障害といったパーキンソン病様の運動症状の総称です。レビー小体型認知症ではこのうち筋強剛と動作緩慢、小刻み歩行、すり足が目立ち、転倒のリスクが高くなります。幻視で床の人や物をよけようとしてバランスを崩す場面も多く、運動症状と幻視が複合して転倒事故につながりやすい点に注意が必要です。
レム睡眠行動障害
**レム睡眠行動障害(RBD)**は、入眠後おおむね90分以上経過したレム睡眠中に、本来は抑制されているはずの骨格筋活動が抑制されず、夢の内容を実際の行動として表してしまう睡眠障害です。大声で叫ぶ、腕や足を激しく振り回す、隣で寝ている家族をたたく、ベッドから飛び出すといった行動がみられます。昼寝では起こらず夜間就寝中のみに生じる点が特徴で、認知症の発症より数年から十数年早く出現することもあり、早期診断の手がかりとなります。治療にはクロナゼパムやメラトニンが用いられます。
支持症状と薬剤過敏性
中核症状以外にもいくつかの特徴的な所見があります。自律神経症状として起立性低血圧や便秘、失神、頻尿が現れやすく、抑うつや無気力もしばしばみられます。臨床上きわめて重要なのが抗精神病薬への過敏性です。幻視や興奮を抑える目的で定型抗精神病薬を投与すると、重篤な錐体外路症状や意識障害を起こすことがあり、原則として禁忌とされます。認知機能の改善にはドネペジルが保険適応となっており、レビー小体型認知症に対して使用できる代表的な薬剤です。
幻視への看護と環境調整
看護の基本は、幻視を頭から否定せず、患者の体験を受容的に受けとめる姿勢です。「そんなものはいません」と強く否定すれば、本人にとっては自分の感覚を全否定されることになり、興奮や不安、家族との関係悪化を招きます。「そう見えるのですね」「怖くないようにしましょうか」と寄り添いつつ、安心できる声かけと触れ合いで落ち着きを取り戻せるよう支援します。
そのうえで欠かせないのが、幻視を誘発するきっかけを減らす環境調整です。具体的には、ご飯のゴマやカーペット・壁紙の細かい模様、ハンガーにかかった衣類、観葉植物の影など、錯視を起こしやすい刺激を視界から取り除きます。照明はやや明るめに保ち、夜間も廊下や室内に常夜灯を用いて影や暗がりを減らす工夫が有効です。新しい環境は幻視を誘発しやすいため、入院やショートステイなど環境が変化する場面では特に注意して整えます。
転倒予防と生活上の安全管理
パーキンソニズムによる歩行障害に幻視が重なるため、レビー小体型認知症の患者は転倒リスクが非常に高い集団です。床に幻視が見えてよけようとして転倒する、夜間にレム睡眠行動障害でベッドから飛び出すといった事故が代表的で、安全確保が看護の最優先課題となります。歩行時には看護師が付き添い、ベッド周囲や床に物を置かない、足元を明るく照らす、段差や敷物を取り除く、夜間はベッド柵やセンサーマットを活用するといった環境整備が基本です。
介護者支援と社会資源
レビー小体型認知症は症状の変動が大きく、幻視やレム睡眠行動障害への対応で家族介護者の負担が増大しやすい疾患です。主介護者が一時的に介護を行えない場面では、要介護認定を受けた高齢者が短期間施設に入所して入浴・食事・排泄などの介護を受けられる**短期入所生活介護(ショートステイ)**の活用が有効です。介護者の入院や冠婚葬祭、休養(レスパイトケア)を目的に利用でき、介護保険サービスの一つとして位置づけられています。
まとめ
レビー小体型認知症は、脳内にレビー小体が蓄積して生じる変性性認知症で、認知機能の動揺、繰り返す具体的な幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害の4つを中核症状とします。幻視は人物や小動物が具体的に見えることが特徴で、ご飯のゴマを虫と見間違えるなどのパレイドリアも頻発します。看護では幻視を否定せず受容的に対応すること、細かい模様を片付け照明を明るくするなどの環境調整を行うこと、パーキンソニズムと幻視が重なる転倒リスクへの安全確保、抗精神病薬過敏性への注意、介護者支援としてのショートステイ活用が国試対策の要点となります。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
脳神経細胞内にα–シヌクレインが蓄積して生じ、アルツハイマー型に次いで頻度の高い変性性認知症をという。
- 2.
レビー小体型認知症の4大中核症状は、認知機能の動揺、具体的な幻視、パーキンソニズム、である。
- 3.
レビー小体型認知症で最も特徴的な症状で、人物や小動物などが具体的かつ繰り返し見える症状をという。
- 4.
ご飯のゴマを虫と認識する、カーペットの模様を動物と見間違えるように、実在する刺激を別のものに見誤る現象をという。
- 5.
レビー小体型認知症で幻視が出現している患者への看護では、幻視のトリガーとなるのある物を片付けるなどの環境調整が有効である。
- 6.
入眠後90分以上経過したレム睡眠中に大声を出し、腕や足を振り回すなど夢の内容を実際の行動として表す睡眠障害をという。
- 7.
レビー小体型認知症は抗精神病薬へのがあり、定型抗精神病薬の使用で重篤な錐体外路症状を起こすため原則禁忌である。
- 8.
レビー小体型認知症ではパーキンソニズムと幻視が重なるためのリスクが高く、歩行時には看護師が付き添うなど安全確保が最優先となる。
- 9.
主介護者が一時的に不在となる場合に、要介護認定を受けた高齢者が短期間施設に入所して介護を受けられる介護保険サービスをという。
