脳梗塞後遺症の生活援助
老年看護学 / 運動器・転倒・リハビリ
解説
脳梗塞とは、脳の動脈が血栓などで詰まり、その血管が栄養する脳組織が壊死する疾患です。今回は脳梗塞後遺症の生活援助について解説します。脳梗塞は急性期を脱しても、麻痺・感覚障害・高次脳機能障害・排泄障害などさまざまな後遺症を残し、日常生活動作(ADL)の自立を妨げます。看護師は残存機能を活かしながら、安全と自立を両立させる援助を行う必要があります。
脳梗塞後遺症の基本的理解
脳は左右の半球に分かれ、それぞれが反対側の身体運動・感覚を支配しています。したがって右中大脳動脈領域の梗塞では、左半身に運動麻痺や感覚障害が出現します。中大脳動脈は前頭葉外側・側頭葉・頭頂葉に広く血液を送るため、運動・感覚障害だけでなく、言語機能や空間認知機能の障害も生じます。
後遺症の代表例として、片麻痺、感覚障害(しびれ)、失語症、半側空間無視、着衣失行、嚥下障害、排尿障害、認知機能低下などが挙げられます。これらは単独ではなく複数が重複して出現することが多く、患者ごとに評価する必要があります。生活機能の評価には、認知機能を見る改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R、30点満点で20点以下が認知症疑い)や、ADL自立度を示すBarthelインデックス(100点満点)が用いられます。
言語障害(失語症)と看護
失語症とは、大脳の言語中枢の障害により「話す・聞く・読む・書く」のいずれか、もしくは複数が障害される状態です。代表的な分類として、ブローカ失語(運動性失語)とウェルニッケ失語(感覚性失語)があります。
ブローカ失語は前頭葉下部のブローカ野の障害で生じ、相手の話は理解できるものの、自分の発話が非流暢で努力性となります。一方、ウェルニッケ失語は側頭葉後上部のウェルニッケ野の障害で生じ、発話は流暢で多弁ですが、話の理解が悪く、意味不明な内容や言い間違いが多くなります。
ここで重要な用語が錯語です。錯語とは、言いたい言葉が別の音や語に置き換わってしまう症状で、「めがね」を「めとね」のように音が入れ替わるものを音韻性錯語(字性錯語)、「りんご」を「みかん」のように別の語に置き換わるものを語性錯語(意味性錯語)といいます。錯語はウェルニッケ失語で頻繁にみられます。発話が乏しくなる喚語困難や、声を出す筋肉そのものの問題で構音が崩れる構音障害とは区別が必要です。
失語症患者への援助では、短い文でゆっくり話す、絵・文字カード・ジェスチャーを併用する、患者の意図を聞き返して確認するなど、伝達手段を補強することが大切です。
半側空間無視への援助
半側空間無視とは、病巣と反対側の空間に注意が向かなくなり、その側の物や出来事を認識できない症状です。右半球(特に下頭頂小葉)の障害で左空間を無視するパターンが多くみられます。
特徴的な所見として、線分2等分試験で線の中央を右寄りに印をつける、模写で左側を描き落とす、食事で皿の左側を残す、ヒゲ剃りや化粧で左側を行わない、車椅子で左側にぶつかるなどが挙げられます。患者本人は無視していることに気づかないため、麻痺の存在自体を認めない病態失認を合併することもあり、転倒リスクが非常に高くなります。
食事援助では、左側に置かれた食器に手をつけないという場面に遭遇します。このとき、食事の途中で食器の配置を変えて、認知できている右側視野に食器を移動すれば残さず食べられます。声かけは無視側から行って注意を促す、左端に赤テープなど視覚的手がかりをつけるといった工夫も有効です。
更衣動作と着衣失行への援助
脳梗塞後の更衣動作の障害は、半側空間無視のほか、着衣失行(特に頭頂葉病変)によっても生じます。着衣失行は服の空間的構造を理解できず、裏表・前後・袖の位置がわからなくなる症状です。片麻痺がある場合の更衣の原則は、着るときは麻痺側から袖を通し、脱ぐときは健側から脱ぐ「着患脱健」です。
援助の基本は、先回りしすぎず動作が滞った部分だけを補助することです。服を渡す際は、襟を上、前身頃を手前など着やすい向きにそろえて手渡すと、患者が自力で続きの動作を再開しやすくなります。全介助にせず自立の機会を残すことが、ADL維持とリハビリ効果につながります。
排尿障害への援助
脳血管障害後は橋にある排尿中枢への大脳からの抑制が失われ、排尿反射が亢進して過活動膀胱となりやすく、強い尿意を我慢できずに大量に漏れる切迫性尿失禁が出現します。尿失禁は、咳・くしゃみで漏れる腹圧性、突然の強い尿意で漏れる切迫性、残尿過多で少量ずつ漏れる溢流性、認知・運動障害でトイレに間に合わない機能性の4つに大別されます。脳梗塞後の典型像は切迫性であることを押さえましょう。
治療には抗コリン薬やβ3作動薬(ミラベグロン)、膀胱訓練、骨盤底筋体操が用いられます。看護では、トイレまでの動線を整え、ポータブルトイレの活用や衣服を脱ぎやすいものに変えるなど、環境整備で転倒を予防しながら自立した排泄を支援します。
まとめ
脳梗塞後遺症の生活援助では、失語症・半側空間無視・着衣失行・切迫性尿失禁といった症状の病態を理解したうえで、残存機能を最大限活かす関わりが求められます。患者本人が気づきにくい症状もあるため、看護師は安全を確保しつつ、自立を支える環境調整と段階的な介助を行うことが大切です。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
脳の言語中枢の障害により、話す・聞く・読む・書くが障害される状態をという。
- 2.
前頭葉下部のブローカ野の障害で生じ、発話が非流暢になる失語を(運動性失語)という。
- 3.
側頭葉後上部の障害で生じ、発話は流暢で多弁だが理解が悪く錯語が多い失語を(感覚性失語)という。
- 4.
「めがね」を「めとね」のように音が入れ替わって発話される症状をという。
- 5.
右半球(特に下頭頂小葉)の障害により、左側空間の物や出来事を認識できなくなる症状をという。
- 6.
服の空間的構造を理解できず、裏表・前後・袖の位置がわからなくなる症状をという。
- 7.
片麻痺患者の更衣の原則は、着るときは麻痺側から、脱ぐときは健側から行うである。
- 8.
脳血管障害後に大脳からの抑制が失われ、強い尿意を我慢できず大量に漏れる尿失禁をという。
- 9.
切迫性尿失禁の背景にある、膀胱が不随意に収縮して強い尿意を生じる病態をという。
- 10.
ADLの自立度を100点満点で評価する指標を(バーセルインデックス)という。
