廃用症候群とリロケーション
成人看護学 / 成人看護総論・その他
解説
今回は廃用症候群とリロケーションダメージについて解説します。どちらも高齢者看護で頻出のテーマで、長期臥床や生活環境の変化が心身に与える影響を理解することが国試対策の鍵となります。
廃用症候群とは
廃用症候群とは、長期間にわたる安静臥床や活動性の低下によって生じる二次的な心身機能の低下の総称です。英語ではdisuse syndromeと呼ばれ、もともと健常であった機能が「使わないこと」によって衰えていく状態を指します。原因疾患そのものによる障害(一次的障害)とは区別され、不動・低活動という生活様式自体が引き起こす障害である点が特徴です。 高齢者では予備能力が低いため、数日間の臥床でも顕著に機能低下が進み、いったん廃用症候群が成立すると回復に長期間を要します。そのため看護の場面では、発症してからの治療よりも予防的介入が重視されます。
廃用症候群で生じる主な症状
廃用症候群は全身の多臓器に影響を及ぼします。運動器系では筋萎縮・筋力低下、関節拘縮、骨萎縮(廃用性骨粗鬆症)が生じます。筋力は安静臥床により1週間で約10〜15%低下するとされ、回復には低下した期間の数倍を要します。 循環器系では心機能の低下に加え、自律神経機能の調節が低下することで起立性低血圧を起こしやすくなります。これは臥位から立位への姿勢変換時に血圧が十分に維持できず、めまいや失神を生じる状態です。また下肢静脈のうっ滞から深部静脈血栓症(DVT)のリスクも高まり、これが肺塞栓症につながると致命的になります。 呼吸器系では換気量の低下や気道分泌物の貯留により誤嚥性肺炎や無気肺が起こりやすくなります。消化器系では食欲低下や腸蠕動の低下から便秘が、泌尿器系では尿の停滞から尿路感染が生じやすくなります。皮膚では持続的な圧迫により褥瘡が発生します。 精神・神経系では抑うつ、意欲低下、見当識障害、せん妄などの変化が現れ、認知機能の低下も進みます。これらの症状は互いに連鎖し、悪循環を形成する点が廃用症候群の怖さです。
予防と看護
予防の基本は早期離床と活動性の維持です。具体的には、関節可動域訓練(ROM訓練)、体位変換、座位・立位の保持、可能な範囲での歩行訓練を計画的に行います。同時に、十分な栄養摂取、コミュニケーションによる精神面の刺激、生活リズムの確立も欠かせません。看護師は安静の必要性とのバランスを取りながら、最小限の安静で最大限の活動を引き出す視点が求められます。
リロケーションダメージとは
リロケーションダメージ(リロケーションストレス)とは、生活の場が大きく変わることに伴って高齢者に生じる心身の不調を指します。リロケーション(relocation)とは「移転・住み替え」を意味し、長年慣れ親しんだ環境を離れて新しい環境に移ることで、ストレス反応として身体症状や精神症状が出現します。 入院、施設入所、子ども世帯との同居開始など、高齢者にとって生活環境の変化は珍しくありません。しかし、地域社会との結びつきや日課、馴染みの人間関係といった心理社会的資源を一度に失うことは、大きな喪失体験となります。
症状と影響
リロケーションダメージでは、不安や抑うつ、孤独感、口数の減少といった精神症状に加え、食欲低下、不眠、活動性の低下といった身体症状が現れます。高齢者では認知機能の低下やせん妄を誘発することもあり、ときに身体機能の急速な悪化につながります。新しい環境に対する「ここでやっていけるだろうか」という不安や、旧来の人間関係を失った喪失感が背景にあり、表面的にはわかりにくい場合もあるため、わずかな変化を見逃さない観察が重要です。
予防と支援
予防には、移転前から本人が新しい環境について情報を得て主体的に関われるよう支援することが大切です。馴染みのある家具や写真、思い出の品を新しい生活空間に持ち込むことで、環境変化の衝撃を和らげられます。また、以前からの友人との交流を電話や手紙で継続できるよう調整し、新たな地域活動や趣味のサークルへの参加を促すことで、新しい人間関係を築く機会を提供します。家族には本人の気持ちを傾聴する姿勢を伝え、医療者は早期から介入することで深刻化を防ぎます。
まとめ
廃用症候群は長期臥床や活動性低下による二次的障害の総称で、筋萎縮、関節拘縮、骨萎縮、起立性低血圧、深部静脈血栓症、誤嚥性肺炎、褥瘡、抑うつなど多臓器に及びます。予防の基本は早期離床と関節可動域訓練です。一方、リロケーションダメージは生活環境の変化によって高齢者に生じる心身の不調で、不安や抑うつ、活動性低下として現れます。馴染みの品の持ち込みや旧知の交流継続、新環境への段階的適応支援が予防の鍵となります。どちらも高齢者の生活と心身を多角的に捉える視点が求められる重要概念です。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
長期臥床や活動性の低下によって生じる二次的な心身機能の低下の総称をという。
- 2.
廃用症候群では自律神経機能の調節低下により、臥位から立位への姿勢変換時に血圧が維持できず、を起こしやすくなる。
- 3.
廃用症候群でみられる運動器系の症状として、筋萎縮のほかに関節が動かしにくくなるや、骨密度が低下する廃用性骨粗鬆症がある。
- 4.
廃用症候群の予防の基本はであり、関節可動域訓練や体位変換を計画的に行うことが重要である。
- 5.
生活の場が大きく変わることに伴って高齢者に生じる心身の不調をという。
- 6.
リロケーションダメージの予防として、新しい生活環境に(写真や思い出の品など)を持ち込むことが有効である。
- 7.
高齢者では廃用症候群によって下肢静脈のうっ滞からを生じ、肺塞栓症の原因となることがある。
