高齢者の死亡と看取りの場
老年看護学 / 高齢者の精神・心理・看取り
解説
今回は高齢者の死亡と看取りの場について解説します。日本は世界でも有数の長寿国となり、年間死亡者数の約9割を65歳以上の高齢者が占めるようになりました。これに伴い、「どこで最期を迎えるか」という看取りの場の問題と、高齢者特有の死亡原因への対応が、看護における重要なテーマとなっています。
看取りの場に対する希望と実態
看取りとは、終末期にある人に対し、苦痛を和らげ、本人の意思や尊厳を尊重しながら穏やかに最期を迎えられるよう支援することをいいます。内閣府が平成24年(2012年)に実施した『高齢者の健康に関する意識調査』では、最期を迎える場として希望が最も多かったのは自宅で約55%を占めました。次いで医療施設が約28%、特別養護老人ホームなどの福祉施設、ケア付き住宅と続いています。
しかし実態は希望と大きく異なります。人口動態統計によると、現在も死亡場所の約7割は病院であり、自宅死は徐々に増加しているもののまだ少数です。住み慣れた場所で最期を迎えたいという希望と、実際には医療機関で亡くなる現実との間に乖離があることが、日本の看取りをめぐる大きな課題です。
在宅看取りを支える仕組み
この乖離を縮めるために整備が進められているのが地域包括ケアシステムです。これは、住み慣れた地域で医療・介護・予防・生活支援・住まいを一体的に提供する仕組みで、高齢者ができる限り自宅や地域で暮らし続けられることを目指します。具体的な支援として、在宅医療を担う訪問診療、訪問看護ステーションによる二十四時間対応、介護報酬・診療報酬上の看取り加算などが整えられています。
また近年重視されているのがアドバンス・ケア・プランニング(ACP)、いわゆる人生会議です。これは本人・家族・医療従事者が、将来の医療やケアについて繰り返し話し合い、本人の価値観や意向を共有していくプロセスを指します。意思決定能力が低下する前から対話を重ねることで、希望する場所で希望する形の最期を迎えることが可能になります。
高齢者の不慮の事故による死亡
高齢者の死亡では、悪性新生物や心疾患などの主要死因に加え、不慮の事故も大きな割合を占めます。令和3年(2021年)の人口動態統計によると、65歳以上の不慮の事故による死亡で最も多いのは溺死及び溺水で、次いで窒息、転倒・転落・墜落、交通事故の順です。かつて高齢者の事故死といえば交通事故が中心でしたが、現在は家庭内、特に浴室での溺死が最多となっています。
高齢者の溺死の約9割は家庭の浴槽内で発生し、冬場の11月から2月に集中します。原因の中心はヒートショックで、暖かい居室から寒い脱衣所・浴室に移動し、熱い湯に浸かることで急激な血圧変動が起こり、失神や心筋梗塞、脳血管障害を引き起こして浴槽内で溺水に至ります。予防には、脱衣所と浴室の暖房、湯温を四十一度以下に保つこと、入浴前後の水分補給、長湯を避けること、家族の声かけなどが重要です。
まとめ
高齢者の最期を迎える場として希望が最も多いのは自宅ですが、実際の死亡場所は病院が約7割を占めており、希望と実態には乖離があります。これを埋めるため、地域包括ケアシステム、在宅医療、訪問看護、看取り加算、ACPなどの仕組みが整えられています。また高齢者の不慮の事故死は溺死が最多であり、ヒートショックによる入浴中の事故予防が看護上の重要な課題です。看護師には、本人の意思を尊重した看取りの実現と、生活の中の事故予防という両面からの支援が求められます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
内閣府『平成24年 高齢者の健康に関する意識調査』において、最期を迎える場として希望が最も多かったのはである。
- 2.
現在の日本における実際の死亡場所として最も多いのはであり、希望と実態の間に乖離がある。
- 3.
住み慣れた地域で医療・介護・予防・生活支援・住まいを一体的に提供する仕組みをという。
- 4.
本人・家族・医療従事者が将来の医療やケアについて繰り返し話し合い、本人の意向を共有していく過程を(人生会議)という。
- 5.
令和3年(2021年)の人口動態統計で、65歳以上の不慮の事故による死亡原因として最も多いのはである。
- 6.
高齢者の不慮の事故死の原因順位は、溺死及び溺水>>転倒・転落・墜落>交通事故である。
- 7.
冬場の入浴時に、暖かい居室から寒い脱衣所・浴室への移動と熱い湯への入浴により急激な血圧変動が起き、失神や心血管障害を生じる現象をという。
- 8.
ヒートショック予防のため、入浴時の湯温は度以下に保つことが推奨される。
