心臓血管外科術後の看護
看護の統合と実践 / 救命救急・急変・その他
解説
今回は心臓血管外科術後の看護について解説します。心臓血管外科手術は、心臓弁置換術や冠動脈バイパス術、大動脈手術など、生命維持に直結する臓器を扱うため、術後管理が予後を大きく左右します。看護師は循環動態の維持、呼吸管理、各種ライン・ドレーン管理、合併症の早期発見、早期離床の支援を多面的に行う必要があります。
術後の集中治療室(ICU)管理
心臓血管外科術後の患者は、手術直後から数日間ICUで集中管理されます。中心静脈ライン、動脈ライン、複数の末梢静脈ライン、心囊・縦隔ドレーン、胸腔ドレーン、膀胱留置カテーテル、気管挿管チューブなど、多くの医療機器が留置されているのが特徴です。これらは循環動態のモニタリングや薬剤投与、排液管理などに必要不可欠ですが、長期間の留置は感染、身体拘束感、**ICUシンドローム(せん妄)**のリスクを高めます。
ライン類の管理と自己抜去予防
意識が清明な患者では、多数のラインに対する不快感や拘束感から自己抜去が起こりやすくなります。自己抜去を予防する最も根本的な対応は、不要となったラインを早期に抜去することです。看護師は患者の循環・呼吸状態をアセスメントし、抜去可能なラインがないか医師と相談することが重要です。身体拘束は最終手段であり、安易に選択してはなりません。鎮静を最小限にとどめ、早期離床を促すPADバンドルやABCDEFバンドルの考え方が標準となっています。
ドレーン管理
心臓血管外科術後には、心囊ドレーン、縦隔ドレーン、胸腔ドレーンなどが挿入されます。それぞれ目的が異なりますが、共通して排液量・性状の観察、閉塞・屈曲の防止、感染予防が看護の基本となります。
胸腔ドレーンの原理と管理
胸腔ドレーンは、胸腔内に貯留した血液・滲出液・空気を体外へ排出し、虚脱した肺の再膨張を促す目的で挿入されます。管理の中核は胸腔内陰圧の維持であり、通常は低圧持続吸引器を用いて−10〜−15cmH₂O程度の陰圧をかけます。 胸腔ドレーンの回路には3つの部屋があり、それぞれ排液室、水封(ウォーターシール)室、吸引圧調整室の役割を担います。水封室は大気と胸腔内の遮断を行い、空気の逆流を防ぐ重要な構造です。看護師は吸引圧の設定値、水封室の水位、エアリーク(気泡)の有無、呼吸性移動の有無、排液の量と性状を定期的に観察します。ドレーンバッグは逆流を防ぐため、必ず挿入部位より低い位置に保ちます。
ドレーン挿入中の体位と移動
ドレーンが屈曲・閉塞しないように体位を整え、移動時はバッグの転倒や持ち上げによる逆流に注意します。ミルキングは閉塞予防のために行われますが、不必要な強い操作は陰圧の変動や組織損傷を招くため、医師の指示に従い適応を判断します。
術後合併症の早期発見
心臓血管外科術後の代表的な合併症には、不整脈(特に心房細動)、出血、心タンポナーデ、感染、せん妄、低心拍出量症候群があります。心タンポナーデは心囊内に血液や滲出液が貯留して心臓が圧迫される病態で、血圧低下、頻脈、中心静脈圧上昇、心音減弱(ベックの三徴)が特徴です。ドレーンからの急激な排液増加や逆に突然の排液停止は危険なサインであり、速やかに医師へ報告します。
早期離床と安全管理
術後の早期離床は、肺合併症の予防、深部静脈血栓症の予防、廃用症候群の予防、心機能の回復に重要です。心臓血管外科術後はリハビリテーション計画に沿って段階的に進められます。
胸腔ドレーン挿入中の歩行
胸腔ドレーンが挿入されている状態での歩行には、ドレーンの引っ張りによる事故抜去、吸引器のコンセント抜去、ドレーンバッグの転倒・破損、急な循環変動などの特有のリスクがあります。そのため、歩行開始時には患者にナースコールで看護師を呼んでもらい、付き添いまたは介助下で安全に行うことが原則です。患者自身にもナースコール使用の徹底を指導します。歩行中に不整脈や息切れ、めまいが出現した場合はただちに中断し、安静と観察を行います。
まとめ
心臓血管外科術後の看護では、ICUにおける多数のライン・ドレーン管理と早期抜去によるせん妄・感染予防、胸腔ドレーンにおける陰圧維持と逆流防止、不整脈や心タンポナーデなど重篤な合併症の早期発見、そして段階的な早期離床と安全管理が中心となります。特に胸腔ドレーンは水封の原理を理解したうえで、ドレーンバッグを挿入部より低い位置に保ち、観察項目を漏らさないことが重要です。早期離床は患者の予後を改善しますが、ドレーン挿入中は必ず介助下で行い、安全と回復促進の両立を図ることが求められます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
心臓血管外科術後にICUで多数のラインを留置している意識清明な患者の自己抜去予防として最も根本的な対応は、不要となったラインをことである。
- 2.
ICU管理においてせん妄予防のために重視される、痛み・不穏・せん妄を統合的に管理するバンドルをという。
- 3.
胸腔ドレーンは胸腔内の血液・滲出液・空気を排出し、肺の再膨張を促すためにを維持することが管理の中核となる。
- 4.
胸腔ドレーン回路において、大気と胸腔内の遮断を行い空気の逆流を防ぐ部分をという。
- 5.
胸腔ドレーンバッグは逆流防止のため、挿入部位より位置に保つ必要がある。
- 6.
心囊内に血液や滲出液が貯留して心臓が圧迫され、血圧低下・頻脈・心音減弱(ベックの三徴)を呈する心臓血管外科術後の重篤な合併症をという。
- 7.
心臓血管外科術後に出現しやすい不整脈の代表はである。
- 8.
胸腔ドレーン挿入中の患者が歩行を開始する際は、事故抜去や転倒を予防するため、看護師ののもとで行うことが原則である。
