人工関節置換術後の看護
成人看護学 / 運動器
解説
今回は人工関節置換術後の看護について解説します。
人工関節置換術とは
人工関節置換術とは、変形や破壊が進行した関節を金属やポリエチレン製のインプラントに置き換える手術のことです。代表的なものに人工股関節全置換術(THA)と人工骨頭置換術があります。THAは寛骨臼側と大腿骨側の両方を人工物に置き換える術式で、変形性股関節症や関節リウマチが主な適応となります。人工骨頭置換術は大腿骨側のみを置き換える術式で、主に大腿骨頸部骨折の高齢者に行われます。いずれも術後の脱臼・感染・深部静脈血栓症(DVT)の予防が看護の中心課題となります。
術式(アプローチ)と禁忌肢位
股関節への到達経路には後方アプローチと前方アプローチがあり、それぞれ術後に避けるべき肢位(禁忌肢位)が異なります。後方アプローチでは関節包後方を切開するため、過屈曲(股関節90°以上の屈曲)・内転・内旋が禁忌となります。前方アプローチでは関節包前方を切開するため、過伸展・外旋が禁忌となります。国試では「後方アプローチ後に避けるべき動作」が頻出のため、過屈曲・内転・内旋の3つは確実に押さえます。
最大の合併症:脱臼予防
人工股関節置換術後の最も重要な合併症は脱臼です。特に術後3か月以内は周囲の組織がまだ修復段階にあるため脱臼リスクが高く、日常動作の指導が看護の要となります。
推奨される肢位と動作
推奨されるのは下肢の外転位保持です。臥床時は両大腿の間に外転枕を挟み、寝返りの際も外転枕を保持したまま両下肢を一緒に動かすよう指導します。
避けるべき動作(後方アプローチの場合)
低い椅子に座る、和式トイレを使う、正座、横座り、足を組む、床の物をかがんで拾うなどは過屈曲・内転・内旋を生じるため避けます。靴下を履く動作も股関節を深く曲げるため、ソックスエイドという補助具を使用します。浴槽のまたぎ動作や体を患側にねじる動作も禁忌肢位を誘発するため指導が必要です。
移乗と環境整備
移乗動作は健側を軸にして行うのが原則です。ベッドからの起き上がりやポータブルトイレへの移乗では、健側下肢に体重をかけて回転します。そのためポータブルトイレは健側に設置します。夜間の転倒予防として足元照明を確保し、転倒予防グッズを活用します。
深部静脈血栓症(DVT)の予防と評価
DVTとは下肢の深部静脈に血栓が形成される病態で、下肢の手術後・肥満・運動不足が主なリスク因子です。離床遅延により下腿の筋ポンプ作用が働かないことが大きな要因となります。 評価ではHomans徴候(足関節を背屈させたときの下腿後面の疼痛)が古くから用いられますが、感度・特異度は高くないため、腫脹・左右差・皮膚色調変化・D-ダイマー値と合わせて総合的に判断します。 予防としては弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫装置の使用、低分子ヘパリンによる抗凝固療法、早期離床、十分な水分摂取が柱となります。
術後発熱の鑑別と感染対策
術後1〜2日の発熱は吸収熱と呼ばれ、組織破壊産物が吸収される過程で生じる生理的な発熱です。経過観察で軽快します。 一方、末梢静脈カテーテル刺入部に発赤・熱感がある場合は**カテーテル関連血流感染症(CRBSI)**を疑います。予防には原則72〜96時間ごとのカテーテル入れ替え、確実な手指衛生、刺入時のマキシマルバリアプレコーションが重要です。CRBSIを疑った場合は速やかに抜去し、カテーテル先端培養と血液培養2セットを採取します。
高齢者の術後せん妄
術後せん妄とは、手術侵襲を契機に術後数時間〜数日で出現する一過性の意識・注意・認知障害です。午前は傾眠傾向で午後から多弁・落ち着きのなさが目立つなど、日内変動を示すのが特徴です。誘因として手術侵襲・疼痛・薬剤・環境変化・身体拘束的な医療デバイス・感覚遮断(眼鏡や補聴器を外している状態)などがあります。 対応の柱は、(1)誘因の除去(疼痛コントロール、不要なラインやカテーテルの抜去、薬剤見直し)、(2)環境調整(昼夜のリズム、見当識を保つ声かけ)、(3)感覚補助(眼鏡・補聴器・義歯の装着)、(4)早期離床、です。薬物療法よりも非薬物的アプローチが第一選択となります。
高齢者の疼痛評価と薬効管理
高齢者は遠慮や我慢により疼痛を過小報告しやすいため、本人の訴えだけでなく非言語サイン(顔をしかめる、患肢を動かさない、食事量の低下)も併せて評価します。NSAIDsは効果持続時間が4〜6時間と短いため、投与間隔が長く空くと薬効が切れて痛みが再燃します。また高齢者では消化性潰瘍や腎機能障害のリスクも考慮した使用が必要です。
回復期の心理支援
回復期にはリハビリへの意欲を支える心理支援が重要です。バンデューラが提唱した自己効力感は、成功体験・代理経験・言語的説得・生理的情動的状態の4要素により高まるとされます。「少しずつ歩けるようになっていますよ」と現在の回復の事実を客観的に伝えるポジティブフィードバックは、言語的説得として有効です。
まとめ
人工関節置換術後の看護では、まずアプローチに応じた禁忌肢位の理解が出発点となります。後方アプローチでは過屈曲・内転・内旋を避け、外転位保持とソックスエイドなどの自助具活用で脱臼を予防します。DVT予防には早期離床と抗凝固療法、感染予防には手指衛生とカテーテル管理が欠かせません。高齢者ではせん妄予防として感覚補助と環境調整、疼痛は非言語サインも含めて評価します。回復期には自己効力感を高める関わりが社会復帰を後押しします。
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- 1.
人工関節置換術後の最も重要な合併症はであり、特に術後3か月以内はリスクが高い。
- 2.
人工股関節置換術の後方アプローチでは、過屈曲・・内旋が禁忌肢位となる。
- 3.
脱臼予防のため、臥床時は両大腿の間にを挟み、外転位を保持する。
- 4.
股関節を深く曲げずに靴下を履けるよう、補助具としてを使用する。
- 5.
深部静脈血栓症の評価で、足関節を背屈させた際に下腿後面に疼痛が生じる所見をという。
- 6.
深部静脈血栓症の予防として、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置に加え、による抗凝固療法が用いられる。
- 7.
術後1〜2日に生じる組織破壊産物の吸収に伴う生理的な発熱をという。
- 8.
末梢静脈カテーテル刺入部の発赤・熱感から疑われ、原則72〜96時間ごとのカテーテル入れ替えで予防する感染症をという。
- 9.
高齢者の術後せん妄への非薬物的対応として、眼鏡・補聴器・義歯の装着などが重要である。
- 10.
回復期の心理支援において、成功体験・代理経験・言語的説得・生理的情動的状態によって高まる感覚をバンデューラはと呼んだ。
