全身麻酔の術中管理
成人看護学 / 周術期・救急
解説
今回は全身麻酔の術中管理について解説します。全身麻酔とは、麻酔薬を用いて意識・痛覚・体動・反射の4要素を可逆的に抑制し、手術侵襲に耐えられる状態をつくる医療行為です。意識が消失するため気道確保ができなくなり、自発呼吸も抑制されるため、術中は人工呼吸器による管理が必須となります。看護師は麻酔科医とともに、バイタルサイン・体温・換気状態・体液バランスを継続的に観察し、合併症の早期発見と予防に努める役割を担います。
全身麻酔の導入と気管挿管
全身麻酔は、静脈麻酔薬(プロポフォールなど)と筋弛緩薬で意識消失と筋弛緩を得たうえで、気管内チューブを声門から気管へ挿入する気管挿管を行います。挿管後は人工呼吸器で換気し、吸入麻酔薬(セボフルラン、デスフルランなど)や静脈麻酔薬を持続投与して麻酔状態を維持します。
気管挿管後の位置確認
気管挿管が正しく行われたかは、挿管直後に必ず確認する必要があります。確認方法は、第一に胸郭の左右挙上の視診、第二に5点聴診(両側前胸部・両側側胸部・心窩部)、第三にカプノグラフィによる呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO₂)波形の確認、第四に必要に応じた胸部X線撮影です。心窩部でゴボゴボという音が聞こえる場合は食道挿管が疑われ、ただちに抜管してバッグバルブマスクによる用手換気に切り替える必要があります。
片肺挿管
挿管後に左胸郭の挙上が不良で、右肺の呼吸音は聴取できるが左肺の呼吸音が弱い、あるいは聴取できない場合は片肺挿管を疑います。これは気管内チューブが気管分岐部を越えて深く挿入された結果、解剖学的に太く短く分岐角が垂直に近い右主気管支へチューブが入り込み、右肺のみが換気される状態です。誤嚥物が右肺に入りやすいのも同じ理由によります。成人男性では門歯から21〜23cm、女性では20〜22cmを目安に挿入位置を調整し、深すぎる場合はチューブを数cm引き抜いて再固定します。
術中モニタリング
術中は意識・自発呼吸が消失しているため、患者の状態は機械的モニタリングと観察によって把握します。基本項目は心電図、血圧(観血的または非観血的)、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO₂)、呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO₂)、中枢温、尿量、出血量です。尿量は循環血液量と腎灌流の指標として重要で、目安は0.5〜1mL/kg/時以上を維持します。長時間手術や大量出血が予測される手術では、これらを総合的に評価して輸液・輸血・昇圧薬投与の判断につなげます。
術中体温管理
全身麻酔下では麻酔薬による体温調節中枢の抑制、広範囲の皮膚露出、冷たい輸液・洗浄液の使用、手術室の低温環境などにより術中低体温が起こりやすくなります。中枢温36℃未満を低体温と定義し、覚醒遅延、シバリングによる酸素消費量の増加、凝固障害、創部感染リスクの上昇など多くの合併症を招きます。予防には強制空気加温装置、加温マット、加温輸液、手術野以外の保温などを用い、体温が低下した場合は加温マットの設定温度を上げるなどの対応を医師に確認のうえ実施します。
悪性高熱症
悪性高熱症とは、骨格筋の筋小胞体に存在する**リアノジン受容体(RYR1)**の遺伝的異常を背景に、揮発性吸入麻酔薬(セボフルラン、イソフルランなど)や脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニウム)を引き金として、筋小胞体からカルシウムイオンが制御不能に放出され、持続的な筋収縮と異常な代謝亢進をきたす疾患です。発症頻度は麻酔1万〜10万例に1例と稀ですが、致死率が高く、術中管理における最重要合併症の一つです。
症状
典型的な症状は、急激な体温上昇(41℃に達することもある)、頻脈、血圧の変動(低下することが多い)、そして咬筋硬直に代表される下顎から頸部の筋硬直です。代謝亢進に伴って高炭酸ガス血症、代謝性アシドーシス、高カリウム血症、横紋筋融解症、ミオグロビン尿などが続発します。EtCO₂の急上昇は早期サインとして重要です。
治療
悪性高熱症が疑われた場合は、まず原因薬である吸入麻酔薬と脱分極性筋弛緩薬を直ちに中止し、100%酸素で過換気を行います。続いてダントロレンナトリウムを初回2.5mg/kg静注し、症状改善まで反復投与します。同時に冷却(冷却輸液・体表冷却・胃洗浄など)、高カリウム血症・アシドーシス・不整脈・横紋筋融解症に対する対症療法を並行します。家族歴のある患者では、吸入麻酔薬と脱分極性筋弛緩薬を避け、プロポフォール+レミフェンタニル+非脱分極性筋弛緩薬による全静脈麻酔(TIVA)を選択します。
まとめ
全身麻酔の術中管理では、気管挿管後の位置確認(5点聴診とカプノグラフィ)、片肺挿管や食道挿管の早期発見、低体温や出血・尿量を含む総合的なモニタリングが基本となります。とりわけ悪性高熱症は、急激な高熱・頻脈・咬筋硬直・EtCO₂上昇から想起し、原因薬の即時中止とダントロレン投与が救命に直結する重要病態です。看護師は麻酔科医と緊密に連携し、わずかな変化も見逃さない観察と迅速な対応によって、安全な術中管理を支えます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
全身麻酔中に急激な体温上昇、頻脈、血圧低下、咬筋硬直を呈する致死的合併症をという。
- 2.
悪性高熱症の特異的治療薬として用いられる筋弛緩抑制薬はである。
- 3.
悪性高熱症は骨格筋の筋小胞体に存在するの遺伝的異常を背景に発症する。
- 4.
悪性高熱症の引き金となる代表的な脱分極性筋弛緩薬はである。
- 5.
気管挿管後に左胸郭の挙上が不良で、チューブが右主気管支へ深く入り込んだ状態をという。
- 6.
気管挿管後の位置確認では、両側前胸部・両側側胸部・心窩部を聴取するを行う。
- 7.
気管挿管が食道に誤って入っていないかを確認するため、呼気終末二酸化炭素分圧の波形をみるを用いる。
- 8.
全身麻酔下で中枢温が36℃未満となった状態をといい、覚醒遅延や凝固障害、創部感染の原因となる。
