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挿管後に左胸郭が上がらない!考えるべき3つの鑑別

看護師国家試験 第106午後37

国試問題にチャレンジ

106午後37

合併症のない全身状態が良好な患者に対して、全身麻酔のための気管挿管を行い用手換気をしたところ、左胸郭の挙上が不良であった。 原因として考えられるのはどれか。

  1. 1.無気肺( atelectasis )
  2. 2.食道挿管
  3. 3.片肺挿管
  4. 4.換気量不足

対話形式の解説

博士博士
今回は気管挿管のトラブルシューティングじゃ。全身麻酔導入で最初に起きる合併症として重要な場面じゃよ。
サクラサクラ
挿管後に胸郭の動きを確認するのはなぜですか?
博士博士
チューブが正しい位置にあるかを確認するためじゃ。間違った位置だと換気ができず、数分で致命的になる。
サクラサクラ
左胸郭の挙上不良…左肺が換気されていないってことですか?
博士博士
その通り。では何が起きているか、鑑別を挙げてみるのじゃ。
サクラサクラ
えっと、食道挿管?
博士博士
食道挿管なら『両側とも』挙上不良のはずじゃ。片側だけというのは別の原因じゃ。
サクラサクラ
あ、そうか…じゃあ片肺挿管ですか?
博士博士
その通り!チューブが深すぎて気管分岐部を越え、右主気管支に入り込んだ状態じゃ。
サクラサクラ
なぜ右に入るんですか?
博士博士
気管支の解剖を思い出すのじゃ。右主気管支は太く短く、気管からの分岐角が約25度と垂直に近い。左は約45度と急じゃ。
サクラサクラ
だから異物も右肺に入りやすいんですね。
博士博士
その通り。誤嚥性肺炎も右下葉に多いのは同じ理屈じゃ。
サクラサクラ
では挿管の深さの目安は?
博士博士
成人男性で門歯から21〜23cm、女性で20〜22cmじゃ。チューブ先端が気管分岐部より2〜3cm上が適正位置じゃ。
サクラサクラ
確認はどうやるんですか?
博士博士
『5点聴診』じゃ。両側前胸部(第2肋間鎖骨中線)、両側側胸部(第5肋間中腋窩線)、そして心窩部の5か所を聴診する。
サクラサクラ
心窩部は何のためですか?
博士博士
食道挿管の検出のためじゃ。胃に空気が入れば『ゴボゴボ』という送気音が聞こえる。
サクラサクラ
食道挿管だったらどうするんですか?
博士博士
即座に抜管してバッグバルブマスク換気に戻す。食道挿管の放置は数分で低酸素脳症となる緊急事態じゃ。
サクラサクラ
片肺挿管だったら?
博士博士
チューブを数cm引き抜き、両側の換気を確認してから再固定じゃ。カプノグラフィのEtCO2波形とSpO2もモニターし続ける。
サクラサクラ
『無気肺』や『換気量不足』は?
博士博士
無気肺は術後合併症として多いが、挿管直後の初回換気で起きるものではない。換気量不足なら両側の挙上が小さいはずで、片側のみ不良という所見とは合わぬのじゃよ。

POINT

挿管後の左胸郭挙上不良=片肺挿管(右主気管支への深挿入)を即座に判断できるか。5点聴診の意義も押さえたい。

解答・解説

正解は3です

問題文:合併症のない全身状態が良好な患者に対して、全身麻酔のための気管挿管を行い用手換気をしたところ、左胸郭の挙上が不良であった。 原因として考えられるのはどれか。

解説:正解は3です。気管分岐部を越えてチューブが深く挿入されると、解剖学的に右主気管支へチューブが入り込みやすく、右肺のみ換気され、左肺は換気されずに左胸郭の挙上が不良となります。これを『片肺挿管(気管支挿管、深挿入)』と呼びます。成人男性の気管内チューブ挿入の目安は門歯から21〜23cm、女性では20〜22cmとされ、挿管後は必ず5点聴診(両側前胸部・両側側胸部・心窩部)で左右差を確認します。挿入が深すぎれば数cm引き抜き、適正位置で再固定します。

選択肢考察

  1. ×1.  無気肺( atelectasis )

    無気肺は気道閉塞や換気不足により肺胞がつぶれた状態で、術後合併症として頻度は高いが、問題文で『合併症のない全身状態良好』と明記されており挿管直後の所見であることから否定される。

  2. ×2.  食道挿管

    食道挿管ではチューブが食道に入るため両肺とも換気されず、左右両側の胸郭挙上が不良となる。また心窩部聴診で胃への送気音(ゴボゴボ音)が聴取され、SpO2も急速に低下する。本問は左側のみ挙上不良なので該当しない。

  3. 3.  片肺挿管

    気管支分岐角の解剖(右主気管支は太く短く、左主気管支より約25度で分岐するのに対し、左主気管支は約45度で急角度に分岐)により、深すぎる挿管は右主気管支に入りやすい。結果、右肺のみ換気され左胸郭挙上が不良となる。

  4. ×4.  換気量不足

    換気量不足であれば両側胸郭の挙上がいずれも小さくなる。片側だけの挙上不良は換気量の問題では説明できない。

気管挿管後の位置確認は①胸郭の左右差視診②5点聴診③カプノグラフィによるEtCO2波形確認④必要に応じて胸部X線(チューブ先端が気管分岐部より2〜3cm上、第4〜5胸椎レベル)の順で行う。5点聴診で心窩部にゴボゴボ音が聞こえれば食道挿管、片側のみ呼吸音が弱ければ片肺挿管を疑う。食道挿管が最も緊急性が高く、直ちに抜管しバッグバルブマスク換気に戻す。気管支の解剖では右主気管支の方が太く短く、分岐角が垂直に近い(約25度)ため、誤嚥物も右肺に入りやすい、片肺挿管も右へ起こりやすいという臨床的重要事項がある。

挿管後の左胸郭挙上不良=片肺挿管(右主気管支への深挿入)を即座に判断できるか。5点聴診の意義も押さえたい。

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。