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急性期の生体反応

成人看護学 / 周術期・救急

解説

今回は急性期の生体反応について解説します。急性期とは、手術・外傷・熱傷・重症感染症などの強い侵襲を受けた直後から、生体の状態が安定するまでの時期を指します。この時期には生命の危機に陥りやすく、看護師は生体反応の特徴を理解したうえで全身管理を行うことが求められます。

侵襲とストレス反応

侵襲とは、生体の恒常性(ホメオスタシス)を乱す刺激の総称であり、手術操作・出血・組織損傷・疼痛・感染・低酸素などが含まれます。侵襲が加わると、生体は生命を守るために神経系・内分泌系・免疫系を総動員してストレス反応を起こします。これは「闘争か逃走か」に代表される生理学的な防御反応であり、急性期の生体反応の中心となる仕組みです。

交感神経-副腎髄質系の活性化

侵襲によりまず素早く反応するのが交感神経-副腎髄質系です。視床下部から交感神経を介して副腎髄質が刺激され、カテコールアミン(アドレナリン・ノルアドレナリン)が大量に分泌されます。その結果、心拍数の増加、心収縮力の増強、末梢血管の収縮、気管支拡張、瞳孔散大が生じ、重要臓器への血流と酸素供給が優先的に維持されます。同時に血糖値が上昇し、エネルギー基質が確保されます。

視床下部-下垂体-副腎皮質系の活性化

やや遅れて視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA軸)が活性化します。視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が分泌され、下垂体前葉からACTHが放出され、副腎皮質からコルチゾールが大量に分泌されます。コルチゾールは糖新生の促進、タンパク質の異化亢進、脂肪分解促進、抗炎症作用などを介して、エネルギー基質の動員と炎症のコントロールを行います。

体液保持にはたらくホルモン

侵襲時には、循環血液量を維持するために抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)アルドステロンの分泌が亢進します。ADHは腎集合管での水の再吸収を促し、アルドステロンは遠位尿細管でナトリウムと水の再吸収を促進してカリウムの排泄を増やします。その結果、急性期では尿量が減少し、体内に水分とナトリウムが貯留しやすくなります。

サイトカインと炎症反応

侵襲を受けた組織からはIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインが放出されます。これらは発熱、急性期蛋白(CRPなど)の産生、白血球の動員、創傷治癒の促進に関与します。一方で過剰な炎症反応は全身に波及し、**全身性炎症反応症候群(SIRS)**を引き起こします。SIRSが進行すると複数の臓器が同時に機能不全に陥る多臓器不全(MODS)に至ることがあり、急性期管理では炎症反応のバランスを保つことが重要です。

代謝の変化

急性期では基礎代謝が著しく亢進し、エネルギー消費が増加します。糖新生の増大と末梢でのインスリン抵抗性により高血糖となりやすく、脂肪分解とタンパク質の異化が進行します。筋蛋白の分解によりアミノ酸が放出され、肝での糖新生や創傷治癒の材料として用いられるため、尿中窒素排泄量が増加し、窒素は負の平衡(窒素出納の負)となります。侵襲が大きいほど体重減少や筋萎縮が顕著になります。

ムーアの分類

F.D.ムーアは、外科的侵襲後の生体反応を時間経過に沿って4つの相に分類しました。看護師は各相の特徴を把握し、観察項目とケアを調整します。

第I相 傷害期(異化期)

術後おおむね2〜4日までの時期です。交感神経-副腎髄質系とHPA軸が強く活性化し、カテコールアミン・コルチゾール・ADH・アルドステロンの分泌が亢進します。サードスペースへの体液移行により循環血液量が減少しやすく、尿量は減少、体温は上昇傾向、頻脈・血糖上昇・タンパク異化亢進がみられます。腸蠕動は低下しイレウス傾向となります。

第II相 転換期

術後3〜7日ごろにかけて、神経・内分泌反応が鎮静化していく時期です。サードスペースに貯留していた水分が血管内へ戻るリフィリングが起こり、循環血液量が増加して尿量が増加します。心機能や腎機能が低下している患者では、このリフィリングによる急激な循環血液量の増加で心不全や肺水腫を起こす危険があるため、in/outバランスの厳密な観察が必要です。

第III相 筋力回復期(同化期)

術後1週前後から数週間続く時期で、タンパク合成が再開して筋力が回復し、創傷治癒が進みます。食欲が戻り、活動量が増えていく時期です。

第IV相 脂肪蓄積期

術後数週から数か月にわたり、体脂肪が回復し体重が術前に近づいていく時期です。

急性期看護のポイント

急性期では病態が短時間で大きく変化し、生命の危機に陥りやすいことが最大の特徴です。バイタルサイン、意識レベル、尿量、in/outバランス、創部、検査データを継続的に観察し、ABCDEアプローチで優先度を判断します。血糖管理、十分なエネルギー・タンパク質補給、感染源の早期制御、疼痛緩和、早期離床による合併症予防も重要なケアとなります。

まとめ

急性期の生体反応とは、侵襲に対して交感神経-副腎髄質系とHPA軸を中心とする神経・内分泌系が活性化し、カテコールアミン・コルチゾール・ADH・アルドステロンが分泌されてエネルギー動員と体液保持を行う一連の防御反応です。代謝は異化優位となり、高血糖・タンパク異化・窒素負平衡が生じます。ムーアは術後の経過を傷害期・転換期・筋力回復期・脂肪蓄積期の4相に分け、特に転換期のリフィリングは循環管理上重要です。看護師はこの生体反応の流れを理解して全身管理を行い、SIRSや多臓器不全への進展を防ぐことが急性期看護の要となります。

確認問題(穴埋め)

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  1. 1.

    侵襲を受けた直後に交感神経-副腎髄質系が活性化し、副腎髄質から大量に分泌されて心拍数増加・末梢血管収縮・血糖上昇をきたすホルモンをという。

  2. 2.

    侵襲時にHPA軸が活性化し、副腎皮質から分泌されて糖新生促進・タンパク異化亢進・抗炎症作用を示す代表的なストレスホルモンはである。

  3. 3.

    侵襲時に分泌が亢進し、腎集合管での水の再吸収を促進して尿量を減少させるホルモンをという。

  4. 4.

    侵襲時に分泌が増え、遠位尿細管でナトリウムと水の再吸収を促進してカリウムの排泄を増やすホルモンはである。

  5. 5.

    急性期では筋蛋白の分解が進み尿中窒素排泄量が増加するため、窒素出納はの平衡となる。

  6. 6.

    侵襲によって放出された炎症性サイトカインなどにより全身に波及した強い炎症反応の状態をという。

  7. 7.

    外科的侵襲後の生体反応を時間経過に沿って傷害期・転換期・筋力回復期・脂肪蓄積期の4相に分類したのはである。

  8. 8.

    ムーアの分類で術後3〜7日ごろにあたり、サードスペースに貯留していた水分が血管内に戻り循環血液量と尿量が増加する時期をという。

  9. 9.

    ムーアの第II相(転換期)にみられる、サードスペースの水分が血管内に戻る現象をという。

  10. 10.

    ムーアの分類で術後2〜4日にあたり、カテコールアミンやコルチゾールの分泌が亢進し、糖新生と蛋白異化が亢進する異化期は第相(傷害期)である。

急性期の生体反応」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。