アルコール性肝硬変と依存症の看護
成人看護学 / 肝・胆・膵
解説
アルコール性肝硬変とは、長期間にわたる多量飲酒によって肝細胞が障害され、線維化と結節形成が進行した状態をいいます。今回はアルコール性肝硬変と、その背景にあるアルコール依存症の看護について解説します。
アルコール性肝硬変の病態
肝臓は本来、アルコールを分解する中心的な臓器です。長期間の大量飲酒が続くと、脂肪肝からアルコール性肝炎を経て、肝細胞の壊死と線維芽細胞の増殖が繰り返され、肝臓全体が硬く小さく変形します。これが肝硬変で、不可逆性の変化です。
肝硬変では肝細胞の数が減るため、たんぱく合成能(アルブミン、凝固因子)と解毒能が低下します。その結果、低アルブミン血症による浮腫・腹水、プロトロンビン時間(PT)延長、血小板減少などが起こり、出血しやすく止血しにくい状態になります。
さらに線維化により肝臓内の血流抵抗が増し、門脈圧亢進症をきたします。門脈は消化管からの血液を肝臓へ運ぶ血管で、ここに流れにくくなった血液は迂回路(側副血行路)を形成します。代表的な側副血行路が食道静脈瘤、胃静脈瘤、臍周囲の腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭)、痔静脈叢の拡張です。
食道静脈瘤破裂への救急対応
食道静脈瘤は粘膜下を走るため壁が薄く、破裂すると大量吐血をきたします。出血により循環血液量が減少し、血圧低下と頻脈を呈する出血性ショックに陥ります。さらに血液が気道に流れ込むことによる誤嚥・窒息、消化管内の血液分解で生じるアンモニアの吸収による肝性脳症の誘発にも注意が必要です。
救急対応はABCの原則に従います。まず気道確保(Airway)、次に呼吸の評価(Breathing)、続いて循環の確保(Circulation)です。嘔吐物による誤嚥を防ぐため、患者は**側臥位(回復体位)**にして気道を確保します。禁飲食とし、太い末梢静脈路を確保して輸液・輸血を開始します。薬物療法ではテルリプレシンやオクトレオチドなどの血管収縮薬で門脈圧を下げ、内視鏡的止血術につなげます。
内視鏡的治療:EVLとEIS
食道静脈瘤の内視鏡治療には大きく二種類あります。**EVL(内視鏡的静脈瘤結紮術)**は静脈瘤をゴムバンドで結紮して壊死・脱落させる方法で、緊急止血時の第一選択です。**EIS(内視鏡的硬化療法)**は静脈瘤に硬化剤(エタノールアミンオレイン酸塩やポリドカノールなど)を注入して血栓化・瘢痕化させる方法で、予防的治療や追加治療として選択されます。
EISの主な合併症には、胸骨後部痛、食道粘膜の炎症・潰瘍・穿孔・狭窄、縦隔炎、発熱、嚥下困難、胸水、肺障害、硬化剤による溶血で生じる腎障害(ヘモグロビン尿)、深部静脈血栓症などがあります。とくに治療直後の胸痛は食道穿孔や縦隔炎の警告サインとして最も注意すべき所見です。治療後は24時間程度の絶飲食、バイタルサインの厳重監視、胸痛・発熱・呼吸状態の観察、再出血の有無、尿量と尿色による腎機能の確認を行います。肝性脳症の予防にはラクツロースや分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤が用いられます。
アルコール依存症の疾患概念と治療
アルコール依存症は、本人の意思の弱さではなく、慢性・進行性・再発性の脳の疾患として理解する必要があります。治療は①離脱症状を管理する解毒期、②精神療法や教育、自助グループを導入するリハビリ期、③社会復帰後のアフターケア期、という段階を踏みます。
心理社会的治療では、動機づけ面接や認知行動療法などの個人精神療法、集団精神療法、家族療法に加え、自助グループの活用が重要です。代表的なものにAA(Alcoholics Anonymous)、断酒会、家族向けのAl-Anonがあります。薬物療法には、飲酒すると不快反応を起こす抗酒薬(ジスルフィラム、シアナミド)、飲酒欲求を抑えるアカンプロサート、減酒を目的とするナルメフェンがあります。
再飲酒(スリップ)は治療過程の一部であり、患者を責めず治療継続を支える姿勢が求められます。肝硬変を合併している場合、断酒が肝予後を大きく改善します。
まとめ
アルコール性肝硬変では門脈圧亢進による食道静脈瘤破裂が致命的合併症となり、側臥位での気道確保とABCに沿った救急対応が看護の要となります。内視鏡治療後はとくに胸痛に注意し、穿孔や縦隔炎を見逃さないことが大切です。背景にあるアルコール依存症は脳の慢性疾患であり、抗酒薬や自助グループを活用した長期的な断酒支援を、再飲酒があっても責めずに継続することが、患者の生命予後と生活の質を守ります。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
アルコール性肝硬変では肝臓の線維化により症をきたす。
- 2.
門脈圧亢進による側副血行路として消化管出血の原因となるのはである。
- 3.
食道静脈瘤破裂時に誤嚥防止と気道確保のためにとる体位は(回復体位)である。
- 4.
食道静脈瘤に対しゴムバンドで結紮する内視鏡治療をという。
- 5.
硬化剤を注入して血栓化させる内視鏡治療をという。
- 6.
EIS直後にみられた場合に食道穿孔や縦隔炎を疑うべき症状はである。
- 7.
飲酒すると不快反応を起こす抗酒薬の代表例は(シアナミドでも可)である。
- 8.
アルコール依存症の代表的な自助グループで世界的に活動しているのは(Alcoholics Anonymous)である。
- 9.
肝性脳症の予防に用いられ排便を促す薬剤はである。
- 10.
アルコール性肝硬変患者の肝予後を最も改善する生活指導はである。
