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インシデントレポート

看護の統合と実践 / 医療安全と職業安全

解説

インシデントレポートとは、医療現場で発生した「ヒヤリ・ハット事例」や事故事例を組織的に収集・分析し、再発防止と医療安全の向上につなげるための報告書のことです。今回はインシデントレポートについて、用語の整理から目的、運用上の原則、影響度レベル、分析手法までを基礎から解説します。

インシデントとアクシデントの違い

まず用語を整理します。インシデントとは、患者に実害は及ばなかったものの、一歩間違えば事故につながり得た出来事を指し、「ヒヤリ・ハット」とも呼ばれます。たとえば、誤った薬剤を準備したが投与直前に気づいて中止した、点滴の滴下速度を誤りそうになったが他のスタッフが気づいて修正した、といった事例です。

一方、アクシデント(医療事故)とは、医療行為に伴って患者に望ましくない事象が実際に生じた場合を指し、医療従事者の過失の有無は問いません。これに対し医療過誤は、医療事故のうち医療従事者の注意義務違反(過失)が認められる場合をいいます。すなわち「医療事故⊃医療過誤」という包含関係にあり、過失が認められれば法的責任が問われ得ます。

ハインリッヒの法則とヒヤリ・ハットの意義

産業安全の分野で知られるハインリッヒの法則では、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故、さらに300件のヒヤリ・ハットが存在するとされます。重大事故の芽はヒヤリ・ハットの段階で潜んでいるため、この段階で情報を集め、システム的な対策を講じることが重大事故予防に直結します。インシデントレポートはこの「最も裾野の広い情報源」を組織で共有するための仕組みです。

インシデント影響度レベル

国立大学病院医療安全管理協議会の分類では、影響度をレベル0から5に分けます。レベル0はエラーが発生したが患者に実施される前に発見された場合、レベル1は実施されたが患者に影響がなかった場合、レベル2は観察強化や検査などの処置が必要となった場合です。レベル3a は簡単な治療・処置を要した場合、レベル3b は濃厚な治療・処置を要した場合、レベル4は永続的な障害が残った場合、そしてレベル5は死亡に至った場合です。一般にレベル0〜2 がインシデント(ヒヤリ・ハット)、レベル3a 以上がアクシデント(医療事故)として扱われます。

インシデントレポートの目的と原則

インシデントレポートの目的は再発防止と医療安全の向上であり、個人の責任追及や懲罰、相手への謝罪のためのものではありません。「人は誰でも間違える(To Err is Human)」という前提に立ち、人員配置、業務手順、機器設計、コミュニケーション、教育体制などのシステム要因を分析して改善することが重視されます。

運用上の原則は、非懲罰性(報告した者を責めない)、秘匿性、システムアプローチによる分析重視です。報告者を罰すると報告が萎縮し、かえって組織の安全性が低下するため、報告しやすい文化(just culture)の醸成が管理上の重要課題となります。

報告内容と提出時期

報告は気づいた時点で速やかに(遅滞なく)行い、職種を問わず関係者全員が記載対象となります。記載は5W1Hに沿って客観的事実を中心にまとめ、推測と事実は明確に区別します。

分析手法と制度的背景

分析手法には、人(Liveware)・機器(Hardware)・手順(Software)・環境(Environment)の相互作用に着目するSHELLモデル、根本原因をたどるRCA(根本原因分析)、未然防止のためのFMEAなどがあります。制度面では、医療法に基づき医療安全管理者が配置され、WHOの患者安全プログラムも国際的な枠組みとして示されています。看護師は患者に最も近い立場として、積極的な報告と多職種カンファレンスへの参加が求められます。

確認問題(穴埋め)

空欄をタップすると答えが表示されます。

  1. 1.

    患者に実害は及ばなかったが事故になり得た出来事をといい、ヒヤリ・ハットとも呼ばれる。

  2. 2.

    医療事故のうち医療従事者の過失が認められる場合をという。

  3. 3.

    1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハットが存在するという経験則をという。

  4. 4.

    インシデント影響度レベルで、エラーが患者に実施される前に発見された場合はに分類される。

  5. 5.

    インシデント影響度レベルで、死亡に至った場合はに分類される。

  6. 6.

    インシデントレポートの主な目的は、個人の責任追及ではなくと医療安全の向上である。

  7. 7.

    報告した者を責めない原則をといい、報告しやすい文化の構築に不可欠である。

  8. 8.

    事例の根本原因をたどって明らかにする分析手法を略称でという。

  9. 9.

    人・機器・手順・環境の相互作用に着目してエラー要因を分析するモデルをという。

  10. 10.

    インシデントレポートは気づいた時点でに提出することが原則である。

インシデントレポート」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。