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医療事故発生時の対応

看護の統合と実践 / 医療安全と職業安全

解説

今回は医療事故発生時の対応について解説します。医療現場では、どれほど慎重に業務を行ってもヒューマンエラーは避けられません。重要なのは事故をゼロにすることではなく、起こったエラーをいかに早く発見し、患者への影響を最小限に抑え、再発を防ぐ仕組みを作るかという視点です。看護師は患者にもっとも近い立場で医療を提供する職種であり、医療事故発生時の初動対応とその後のリスクマネジメントに中心的な役割を果たします。

医療事故とインシデントの違い

医療に関連して生じる望ましくない出来事は、患者への影響の程度によって整理して理解する必要があります。医療事故とは、医療の全過程において発生した人身事故全般を指し、患者・医療従事者を問わず、また過失の有無に関係なく用いられる包括的な概念です。このうち、医療従事者の過誤や過失が原因となって患者に被害が生じたものを医療過誤といいます。 一方、インシデント(ヒヤリ・ハット)とは、患者に被害は及ばなかったものの、一歩間違えれば事故につながりかねなかった事例を指します。実際に患者へ被害が及んだものはアクシデントと呼ばれ、医療事故とほぼ同義で扱われます。 国際的に有名な経験則として、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハットが存在するというハインリッヒの法則があります。だからこそインシデントレポートを積極的に収集・分析し、重大事故が起こる前に対策を講じることが医療安全の基本となります。

医療事故発生時の初動対応

医療事故が発生した際の対応は、優先順位を明確にして行う必要があります。最優先は常に患者の安全確保です。バイタルサインや意識状態を確認し、必要な救命処置や応急処置を直ちに実施し、医師への速やかな報告と協働で患者の生命と健康への影響を最小化します。 つぎに行うのが事実関係の正確な記録です。看護記録には、発生時刻、発見の経緯、患者の状態、実施した処置、報告した相手、医師の指示内容などを、推測や評価を交えず客観的な事実として時系列で記載します。改ざんや書き換えは絶対に行ってはならず、誤りに気づいた場合も訂正前の記載を残したうえで修正する必要があります。記録は後の原因分析や、患者・家族への説明、必要に応じた法的対応の重要な資料となります。 組織内の報告経路としては、所属長(看護師長)、医療安全管理者、医師、病院管理者へと速やかに情報を上げ、インシデント・アクシデントレポートを提出します。レポートの目的は個人の責任追及ではなく、組織全体での学習と再発防止であり、これを「no blame culture(非難しない文化)」と呼びます。

患者・家族への説明と医療事故調査制度

医療事故が発生した場合、患者・家族への説明は誠実かつ速やかに行うことが原則です。事実関係を隠さず、わかっている範囲を率直に伝え、推測や責任の押し付けは避けます。 医療法では2015年から医療事故調査制度が施行されました。これは医療機関で発生した「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」のうち、「管理者が予期しなかったもの」を対象とし、医療機関の管理者は医療事故調査・支援センターに届け出るとともに、院内調査を実施する義務を負います。調査結果は遺族に説明し、センターにも報告します。この制度の目的は責任追及ではなく、原因究明と再発防止による医療安全の向上です。

リスクマネジメントの考え方

医療安全の根本にあるのは「人は誰でも間違える(To err is human)」という考え方です。エラーを起こした個人を責めても再発防止にはつながらず、エラーを防ぐ・検出する・吸収する仕組みを作るシステムアプローチが基本となります。 代表的なモデルがスイスチーズモデルです。複数の防御層(手順・確認・教育・機器・チーム)それぞれに穴(弱点)があっても、すべての穴が偶然一直線に並んだときに事故が貫通するという考え方で、防御層を多重化することで事故発生のリスクを下げます。 具体的な再発防止策の検討には、4M4E分析(Man・Machine・Media・Managementの4要因と、Education・Engineering・Enforcement・Exampleの4対策)、RCA(根本原因分析)、SHELLモデルなどが用いられます。重要なのは、表面的なミスではなく根本原因にまで掘り下げ、システムや手順の改善で再発を防ぐ視点です。

情報共有とチーム医療による安全管理

医療事故の多くは、指示伝達の不備、情報共有の漏れ、確認不足など、コミュニケーションに関わる問題が背景にあります。とくに指示変更時には、医師から特定の看護師1人だけに伝わり、勤務交代時に引き継がれずに実施が漏れるといった事象が起こりやすく、これを防ぐためにはチーム全体での情報共有と複数人での確認体制が不可欠です。 標準化された情報伝達の手法として、SBAR(Situation・Background・Assessment・Recommendation)があり、状況・背景・評価・提案の順に簡潔に伝えることで、伝達ミスを減らします。さらに、ダブルチェック指差呼称、復唱、声出し確認、電子カルテのアラート機能、勤務交代時の口頭引き継ぎとチェックリストの併用なども、エラー検出に有効な手段です。手術前にはタイムアウトとして執刀直前にチーム全員で患者・部位・術式を確認することが標準的に行われています。

医療安全に関連する諸方策

医療安全に関連する代表的な手法を、目的別に整理しておきます。インシデントレポートは事故防止と組織学習、クリニカルパスは医療の質と標準化の保証、タイムアウトは手術時の患者・部位・術式の最終確認、標準予防策・感染経路別予防策は院内感染対策、**ICT(感染制御チーム)**は感染管理の組織的推進を担います。なお、プライマリナーシングやチームナーシングなどは看護提供方式であり、医療安全や感染対策の手法そのものではない点に注意が必要です。

まとめ

医療事故発生時の対応では、患者の安全確保を最優先とし、事実関係を正確に記録し、組織内で速やかに報告・共有することが基本となります。インシデントレポートやアクシデントレポートは個人の責任追及ではなく、組織学習と再発防止のための資料として活用されます。患者・家族への説明は誠実に行い、医療法上の医療事故調査制度に該当する場合は医療事故調査・支援センターへの届出と院内調査を実施します。再発防止策は「人は誰でも間違える」という前提に立ち、個人ではなくシステムを改善する視点で、スイスチーズモデルや4M4Eなどを活用しながら、情報共有・複数確認・標準化といった多層的な仕組みを構築することが要点です。

確認問題(穴埋め)

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  1. 1.

    医療従事者の過誤や過失が原因となって患者に被害が生じた医療事故をとくにという。

  2. 2.

    患者に被害は及ばなかったが、一歩間違えれば事故につながった事例をという。

  3. 3.

    医療事故が発生した際、看護師が最優先で行うべきことはである。

  4. 4.

    インシデントレポートは個人の責任追及ではなく、組織としての学習とのために活用される。

  5. 5.

    医療法に基づき、医療に起因する予期しなかった死亡または死産が発生した際に医療機関の管理者が届出を行う機関をという。

  6. 6.

    複数の防御層それぞれに存在する穴が偶然一直線に並んだときに事故が発生するという、医療安全の代表的な考え方をという。

  7. 7.

    医療安全の根本にあるのは、個人を責めるのではなくシステムで防ぐという考え方であり、これをという。

  8. 8.

    手術前に執刀直前にチーム全員で患者・部位・術式を最終確認することをという。

  9. 9.

    状況・背景・評価・提案の順に簡潔に情報を伝える標準化された伝達手法をという。

  10. 10.

    医師の指示変更が看護師1人にしか伝わらず実施が漏れた事例の再発防止策としては、個人の責任追及ではなくが基本となる。

医療事故発生時の対応」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。