災害時の看護と感染対策
看護の統合と実践 / 災害看護
解説
今回は災害時の看護と感染対策について解説します。
災害看護の基本
災害看護とは、地震・水害・火災などの災害により被害を受けた人々の生命と健康を守り、生活の再建を支援するための看護活動を指します。災害は発災直後から経過時間によって急性期(おおむね72時間以内)、亜急性期(1週間程度)、慢性期(1か月以降)に分けられ、各期で求められる看護も変化します。急性期は救命と外傷処置が中心となり、亜急性期以降は避難所での生活環境整備や感染症予防、慢性疾患の悪化防止、メンタルヘルス支援が重要となります。 災害時には多職種チームが派遣され、急性期医療を担うDMAT(災害派遣医療チーム)、精神保健活動を担うDPAT(災害派遣精神医療チーム)、被災者の心のケアにはサイコロジカル・ファーストエイド(PFA)の「見る・聞く・つなぐ」の原則が用いられます。慢性疾患を抱える人や精神障害者では、環境変化と内服中断により症状が悪化しやすいため、薬剤確保と受診ルートの調整が早期支援の要となります。
標準予防策と災害現場の感染対策
感染対策の基本は**標準予防策(スタンダードプリコーション)**です。これは「すべての患者の血液・体液・分泌物(汗を除く)・粘膜・損傷皮膚は感染性があるとみなす」という考え方に基づき、患者と医療者双方を守るための基本対策です。 災害現場で出血を伴う創傷処置を行う場合、洗浄や縫合時に血液が飛散して医療者の眼の粘膜から血液媒介感染症(HIV・HBV・HCVなど)が侵入する危険があります。そのため、手袋・マスクに加え、アイシールド(ゴーグルまたはフェイスシールド)の着用が必要です。災害時も病院内と同じく、リスクに応じた個人防護具(PPE)の選択原則は変わりません。
避難所における集団感染予防
避難所は多人数が密集して生活するため、インフルエンザ・ノロウイルス・新型コロナウイルス・結核などの集団感染リスクが極めて高い環境です。避難所感染対策の3本柱は、早期発見・感染経路対策・ワクチンやPPEの整備とされます。
早期発見(健康監視)
発症者がまだ出ていない予防段階で最も実効性が高いのは、避難者全員に毎日の発熱・咳・倦怠感・下痢などを記録してもらう**健康監視(サーベイランス)**です。健康チェック表を用いて記録を継続することで、有症者を早期に把握し、症状者用ゾーニングや受診へ素早くつなぐことができます。
感染経路対策
飛沫感染対策としてはマスク着用、こまめな換気(1〜2時間ごとが目安)、十分な距離の確保が基本です。接触感染対策としては手指衛生用品の常設、ドアノブや手すりなどの高頻度接触面の清拭が重要です。ノロウイルスのような経口感染症は嘔吐物処理が感染拡大の鍵となるため、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が標準です。
避難所生活で起こりやすい健康障害
避難所では狭い空間での同一姿勢や水分摂取制限により下肢深部静脈に血栓ができ、肺塞栓を起こすエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症/肺塞栓症)のリスクが高まります。予防には適度な歩行・下肢の運動・十分な水分摂取・弾性ストッキングの使用が有効であり、看護師は避難者への啓発と環境調整を行います。 高齢者では、加齢・ストレス・免疫低下により水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化して帯状疱疹を発症することがあります。典型像は神経の支配領域(デルマトーム)に沿って体の片側に限局して出現する水疱を伴う紅斑と、それに先行するピリピリした神経痛です。皮疹が複数のデルマトームを越えて広がる「播種性帯状疱疹」は免疫不全を示唆する重症像で、空気感染対策(陰圧個室・N95マスク)が必要となります。そのため看護観察では皮疹の広がりを確認することが優先されます。治療は発症72時間以内の抗ウイルス薬(アシクロビルなど)投与が原則です。
まとめ
災害時の看護は急性期の救命から避難所での感染対策・慢性疾患管理まで幅広く展開されます。出血を伴う処置では標準予防策に基づきアイシールドを含むPPEを選択し、避難所では発症者が出る前から健康監視(サーベイランス)を行い早期発見に努めます。エコノミークラス症候群や帯状疱疹など避難生活特有の健康障害にも注意し、精神障害者では服薬継続支援とDPATとの連携が不可欠です。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
災害現場で出血を伴う創傷処置を介助する際、血液飛散から眼の粘膜を守るために手袋・マスクに加えて着用すべき個人防護具はである。
- 2.
すべての患者の血液・体液・分泌物・粘膜・損傷皮膚を感染性があるとみなして対応する感染対策の基本をという。
- 3.
避難所でインフルエンザなどの集団感染を予防するうえで、有症者がまだ出ていない段階に最も有効な対策は、避難者全員に毎日体調を記録してもらうである。
- 4.
避難所での長時間の同一姿勢や水分摂取制限によって下肢に血栓ができ、肺塞栓を起こす病態をという。
- 5.
災害時に被災者の精神保健活動を担い、急性期から派遣される専門チームはである。
- 6.
災害急性期において精神障害者の症状悪化を防ぐために、看護師が最も優先して支援すべきことはである。
- 7.
帯状疱疹において、皮疹が複数のデルマトームを越えて広がる重症像をといい、空気感染対策が必要となる。
- 8.
避難所でのノロウイルスによる嘔吐物処理に用いられる標準的な消毒薬はである。
