高齢者の肺炎と急性期せん妄
老年看護学 / 高齢者の疾患・身体ケア
解説
高齢者の肺炎とは、加齢に伴う免疫機能や嚥下機能の低下を背景に発症しやすい感染症で、入院後にしばしば脱水やせん妄を合併し全身状態を急速に悪化させる病態です。今回は高齢者の肺炎と急性期せん妄について解説します。
高齢者肺炎と脱水の合併
高齢者は若年者に比べて体内総水分量が約10%少なく、腎の尿濃縮能と口渇感の両方が低下しているため、もともと脱水を起こしやすい状態にあります。そこに肺炎による発熱と頻呼吸が加わると、呼気や皮膚からの不感蒸泄が大幅に増加し、脱水は急速に進行します。さらに食欲低下や嚥下機能低下による経口摂取量の減少も加わり、循環血液量と細胞内水分の両方が失われやすくなります。
脱水のアセスメント
脱水は失われる成分によって型が分かれます。水分が主に失われる高張性脱水(水欠乏型)では血清ナトリウムが上昇し、強い口渇、口唇・口腔粘膜の乾燥、意識障害が前景に立ちます。一方、水と電解質がほぼ等しく失われる等張性脱水では循環血液量が減り、血圧低下と頻脈が目立ちます。アセスメントでは、バイタルサイン(血圧低下・頻脈・頻呼吸・発熱)、皮膚ツルゴール低下、舌や口唇の乾燥、尿量減少、体重減少、血清Na値などを総合的に評価します。**高ナトリウム血症(Na>145mEq/L)**は水欠乏型脱水を強く示唆します。
補液は維持液を1日1,500〜2,000mLを目安に開始し、尿量・体重・電解質・浮腫の有無を追って調整します。心不全合併例では過剰投与による肺うっ血に注意します。
せん妄とは
せん妄とは、急性に発症し1日のなかで症状が変動する意識と注意の障害を中核とする病態で、見当識障害、思考のまとまりのなさ、不眠や昼夜逆転、幻覚・妄想、興奮などを伴います。DSM-5では、注意・意識の障害が急性発症かつ変動性をもって生じ、認知の変化を伴い、身体的原因によって説明できる場合にせん妄と診断します。
臨床像によって、興奮・易刺激性・幻覚を呈する過活動型、活動低下・無関心が前景の低活動型、両者が混在する混合型に分けられます。低活動型は見落とされやすく、うつや疲労と誤認されやすい点に注意が必要です。
せん妄の3因子
せん妄の発症は単一の原因ではなく、複数の要因が積み重なって生じます。第一に直接因子として、感染、脱水、電解質異常(特に高Na血症)、薬剤(ベンゾジアゼピン系・抗コリン薬・オピオイド・H2ブロッカー)、低酸素、発熱、痛みが挙げられます。第二に準備因子として、高齢、認知症、脳血管障害の既往、難聴・視覚障害があり、これらは取り除けない素因です。第三に促進因子として、入院による環境変化、身体拘束、感覚遮断、疼痛、不眠などが加わり発症を後押しします。高齢者肺炎では、感染・脱水・低酸素・発熱という直接因子が一度に揃うため、せん妄リスクが非常に高くなります。
認知症との鑑別
せん妄は数時間から数日で急性に発症し、症状が1日のなかで変動するのが特徴です。一方、認知症は月単位から年単位で緩徐に進行し、意識は清明で症状の日内変動は乏しいのが原則です。注意障害がせん妄では強く前景化するのに対し、初期の認知症では記憶障害が中心となります。評価には**CAM(Confusion Assessment Method)**やDSTが用いられます。
非薬物的ケアと薬物の位置づけ
せん妄ケアの中核は誘因の是正と昼夜のリズム回復です。具体的には、日中の離床と歩行付き添い、時計・カレンダー・声かけによる見当識支援、十分な補液、疼痛管理、夜間の照度調整、眼鏡や補聴器など視聴覚補助具の活用が基本となります。**HELP(Hospital Elder Life Program)**は、見当識支援・早期離床・視聴覚補助・脱水予防・睡眠環境調整の5本柱でせん妄発症率を約40%減らすエビデンスがあります。
薬物療法はあくまで補助的です。ベンゾジアゼピン系はせん妄をかえって悪化させるため第一選択にはせず、興奮が強く危険な場合に限りハロペリドールやリスペリドンなどの抗精神病薬を短期的に用います。
身体拘束の原則
身体拘束は切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たした場合にのみ実施でき、医師指示、家族への説明、記録が必須です。拘束自体が促進因子としてせん妄を悪化させるため、最小限・最短時間にとどめ、原因除去と環境調整を優先します。
まとめ
高齢者の肺炎では、発熱と頻呼吸による不感蒸泄増加から脱水と高Na血症をきたしやすく、これらが直接因子となって急性期せん妄を高頻度に合併します。看護では、バイタルと電解質、尿量・体重で脱水を早期にとらえ、補液と感染治療を確実に進めるとともに、見当識支援・離床・睡眠環境調整など非薬物的ケアを軸にせん妄の予防と早期発見に努めることが重要です。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
高齢者は体内総水分量が若年者より約( )%少なく、脱水を起こしやすい。
- 2.
水分が主に失われ血清Naが上昇する脱水の型を( )性脱水という。
- 3.
血清Naが( )mEq/Lを超えると高ナトリウム血症と判断する。
- 4.
高齢者の維持輸液量は1日( )〜2,000mLが目安である。
- 5.
急性に発症し1日のなかで症状が変動する意識・注意の障害を( )という。
- 6.
活動性が低下し無関心が前景となるせん妄の型を( )型という。
- 7.
せん妄を悪化させるため第一選択としない薬剤群は( )系である。
- 8.
せん妄評価に用いられる代表的なスクリーニングツールは( )である。
- 9.
見当識支援・早期離床・視聴覚補助・脱水予防・睡眠環境調整の5本柱でせん妄を予防するプログラムを( )という。
- 10.
身体拘束の3要件は切迫性・非代替性・( )である。
