救急で大量輸液が必要な病態は? 出血性ショックと熱傷の循環管理
看護師国家試験 第109回 午後 第87問 / 成人看護学 / 急性期・救急・クリティカルケア
国試問題にチャレンジ
大量の輸液が必要と考えられる救急患者はどれか。2 つ選べ。
- 1.前額部の切創で出血している。
- 2.オートバイ事故で両大腿が変形している。
- 3.プールの飛び込み事故で四肢が動かない。
- 4.デスクワーク中に胸が苦しいと言って倒れている。
- 5.火事で顔面、胸腹部、背部および両上肢にⅡ度の熱傷( burn )を負っている。
対話形式の解説
博士
今日は救急初療で『大量輸液』が必要な場面を整理するぞ。
サクラ
大量って具体的にどれくらいですか?
博士
状況によるが、数リットル単位の細胞外液補充を急速に行う場面を指す。基本原則は『循環血液量がガクンと減る病態』で大量輸液を要する。
サクラ
出血ですか?
博士
まず外出血・内出血による出血性ショック。そして熱傷の血管透過性亢進で血管外に血漿が漏れる、いわゆるバーンショックじゃ。
サクラ
選択肢を順に見ていきますね。1の前額部切創は?
博士
頭皮は血流豊富で派手に出血するが圧迫止血で十分。循環を脅かす量にはならない。
サクラ
2の両大腿変形は?
博士
大腿骨骨幹部骨折は1肢で1〜1.5Lの閉鎖性出血。両側なら2〜3Lにもなる。これは大量輸液+輸血が必要じゃ。
サクラ
3のプール飛び込みは?
博士
頸髄損傷の疑いが強い。まず頸椎カラー固定と呼吸管理。神経原性ショックの血圧低下には昇圧薬も用い、むやみな大量輸液は肺水腫を招く。
サクラ
4の胸痛で倒れている人は?
博士
急性心筋梗塞や肺塞栓症など心肺系の病態。過剰な輸液は心不全を悪化させるので、酸素・心電図・原因検索が優先。
サクラ
5の広範囲熱傷は?
博士
9の法則で計算するぞ。顔面9、胸腹部18、背部18、両上肢18で合計63%…いやちょっと待て。顔面9、胸腹部と背部で体幹全体36、両上肢18で合計63%近い。仮にⅡ度で40%超でも重症。Parkland公式で4mL×体重×%TBSAの乳酸リンゲル液を24時間で、うち半量を最初の8時間で投与する。
サクラ
膨大な量ですね。70kg、40%なら24時間で11.2L。
博士
そう、大量輸液の代表例じゃ。
サクラ
だから正解は2と5なんですね。
博士
大量輸液が必要な病態と不要な病態(心原性など)を切り分ける臨床センスが、トリアージで問われるポイントじゃ。
POINT
救急で大量輸液を要するのは循環血液量が大きく失われる病態で、代表例が両大腿骨折による出血性ショックと広範囲熱傷によるバーンショックです。大腿骨骨折は1肢で1〜1.5L、両側で数Lの閉鎖性出血を起こし、広範囲熱傷では血管透過性亢進でParkland公式に基づく膨大な細胞外液補充が必要です。一方、前額部切創は圧迫止血、頸髄損傷疑いは頸椎固定、急性冠症候群は過剰輸液を避けた原因検索と薬物療法が優先され、漫然とした大量輸液はむしろ有害です。看護師はショックの分類と必要輸液量を理解し、的確な初療を支援します。
解答・解説
正解は 2 ・ 5 です
問題文:大量の輸液が必要と考えられる救急患者はどれか。2 つ選べ。
解説:正解は 2 と 5 です。大量輸液が必要となるのは、循環血液量の喪失が大きい病態です。両大腿骨骨幹部骨折では1肢あたり1〜1.5L、両側で2〜3Lもの出血が周囲軟部組織内で生じ得るため出血性ショックを予防する輸液が必要です。広範囲Ⅱ度熱傷では血管透過性亢進により血漿成分が血管外に漏出し、大量の浮腫と循環血液量減少(バーンショック)を来すため、Parkland公式(4mL×体重kg×熱傷面積%)に基づく大量輸液が必須です。
選択肢考察
-
× 1. 前額部の切創で出血している。
前額部は血流豊富で出血が派手に見えるが、圧迫止血と縫合で対応可能であり、循環動態を脅かすほどの出血量にはならない。
-
○ 2. オートバイ事故で両大腿が変形している。
大腿骨骨折は1肢あたり1〜1.5Lの閉鎖性出血を伴い、両側では数Lに達する。出血性ショック予防に大量輸液と輸血準備が必要。
-
× 3. プールの飛び込み事故で四肢が動かない。
頸髄損傷が疑われ、頸椎固定が最優先。神経原性ショックで血圧低下がある場合は昇圧薬も含めて慎重な輸液を行うが、出血性ショックのような大量輸液が第一ではない。
-
× 4. デスクワーク中に胸が苦しいと言って倒れている。
急性冠症候群や肺塞栓症が疑われ、むしろ過剰輸液は心不全を悪化させる。酸素投与、心電図、バイタル評価と原因検索が優先。
-
○ 5. 火事で顔面、胸腹部、背部および両上肢にⅡ度の熱傷( burn )を負っている。
9の法則で熱傷面積は概ね40%以上となる重症熱傷。血管透過性亢進によるバーンショック予防のため、Parkland公式に基づく大量輸液が必要。
Parkland公式では受傷後24時間に必要な乳酸リンゲル液量=4mL×体重(kg)×熱傷%TBSAで計算し、半量を最初の8時間で、残り半量を次の16時間で投与する。9の法則は成人で頭部9%、片上肢9%、体幹前面18%、背面18%、片下肢18%、陰部1%。大腿骨骨折では牽引固定で出血制限と疼痛軽減を行い、ABCDE評価と輸血準備を並行する。心原性病態では過剰輸液が肺水腫を招くため、基本は循環喪失病態と区別して対応する。
救急現場で『大量輸液が必要な病態=循環血液量減少(出血・バーンショック)』を判断できるかを問う問題。
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