ACP・事前指示と意思決定
看護の統合と実践 / 救命救急・急変・その他
解説
今回はACP・事前指示と意思決定について解説します。終末期医療や重篤な病態では、患者本人の意思を尊重した医療・ケアの提供が原則となります。しかし病状が進行すると本人の意思決定能力が低下し、本人の希望を確認できなくなる場面が少なくありません。そこで重要となるのが、あらかじめ本人の価値観や希望を共有しておく仕組みであり、その中心概念がACPと事前指示です。
意思決定支援の基本原則
医療における意思決定は、患者本人の自己決定権を最大限に尊重することが基本となります。患者には十分な情報提供のうえで治療を選択する権利があり、これをインフォームド・コンセントといいます。
本人が意識不明や認知機能低下などにより自分の意思を表明できない場合でも、最優先で尊重されるべきは患者本人の意思です。家族の希望と本人の意思が一致しない場面では、看護師は家族に寄り添いながらも、本人の価値観や生前の発言、書面に残された意思などを手がかりに、本人にとって最善の医療を共に考えていく姿勢が求められます。
事前指示(アドバンスディレクティブ)
**事前指示(アドバンスディレクティブ)**とは、将来自分が意思決定能力を失った場合に備えて、希望する医療やケアの内容をあらかじめ意思表示しておくことを指します。事前指示は大きく二つの形式に分けられます。
一つ目がリビングウィルで、延命治療の希望や拒否、心肺蘇生処置などの具体的な医療行為について本人の意向を書面化したものです。日本では尊厳死宣言書として知られています。二つ目が医療代理人(医療判断代理人)の指名で、本人が意思表示できなくなったときに代わりに意思決定を行う人を指定しておく仕組みです。
事前指示に関連する具体的な指示としては、心肺停止時に心肺蘇生を行わないことを取り決めるDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)指示があります。DNAR指示は他の治療の継続を否定するものではなく、あくまで心肺蘇生に限定した取り決めである点に注意が必要です。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、将来の意思決定能力低下に備えて、患者本人・家族など信頼できる人・医療介護従事者が、今後の治療や療養に関する気がかりや価値観、希望する医療・ケアを繰り返し話し合い、共有していく継続的なプロセスです。日本では厚生労働省により人生会議という愛称が定められ、普及が図られています。
ACPの最大の特徴は、一度きりの書面作成ではなく、病状や心境の変化に応じて何度でも話し合いを重ねていく点にあります。リビングウィルやDNAR指示のような事前指示は、このACPの対話の過程で具体化されていく要素として位置づけられます。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、ACPの考え方が中心に据えられており、本人の意思は変化しうるものとして、繰り返しの話し合いの重要性が強調されています。
看護師の役割
意識不明や重度の意識障害により本人の意思確認ができない患者の家族から相談を受けた際、看護師にはまず本人の事前指示の有無を家族に確認することが求められます。書面が残されていない場合でも、本人が日頃語っていた価値観や生き方、家族との会話の中で示していた希望をていねいに聴き取り、本人にとって最善の選択を家族と医療チームが共に考えるプロセスを支援します。家族の意向のみで治療方針を決定することや、看護師が独自の価値判断で方向性を示すことは適切ではありません。
まとめ
事前指示は将来の意思決定能力低下に備えて医療の希望を表明しておく仕組みで、具体的な希望を記したリビングウィルと医療代理人の指名が含まれます。ACP(人生会議)は本人・家族・医療者が繰り返し話し合うことで本人の価値観と希望を共有し続ける継続的なプロセスであり、わが国の終末期医療の中心的な考え方です。看護師は本人の意思を最優先とし、事前指示の有無の確認と家族との対話支援を通じて、本人らしい最期を実現する役割を担います。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
将来自分が意思決定能力を失った場合に備えて、希望する医療やケアの内容をあらかじめ意思表示しておくことをという。
- 2.
事前指示のうち、延命治療や心肺蘇生など具体的な医療行為への希望を書面化したものをという。
- 3.
将来の意思決定能力の低下に備えて、患者・家族・医療者が今後の治療やケアについて繰り返し話し合い、価値観や希望を共有していくプロセスをという。
- 4.
ACPはわが国においてという愛称で普及が図られている。
- 5.
心肺停止時に心肺蘇生を行わないことをあらかじめ取り決めておく指示を指示という。
- 6.
意識不明で本人の意思が確認できない患者の家族から治療方針について相談を受けた看護師は、まず患者のの有無を家族に確認し、本人の意思に沿った意思決定を支援する。
- 7.
終末期医療における意思決定では、家族の希望よりもの意思が最も尊重されるべきである。
