抗精神病薬の副作用
精神看護学 / 精神科治療・薬物療法
解説
抗精神病薬とは、統合失調症をはじめとする精神疾患に対して、幻覚・妄想などの症状を抑える目的で使用される薬剤の総称です。今回は抗精神病薬の副作用について解説します。
抗精神病薬の種類
抗精神病薬は大きく二つに分類されます。**第一世代抗精神病薬(定型抗精神病薬)**は古くから使用されてきた薬剤で、ハロペリドール、クロルプロマジンなどが代表例です。陽性症状への効果は高い一方、後述する錐体外路症状(EPS)の出現頻度が高いという特徴があります。**第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)**は比較的新しい薬剤で、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなどがあります。陰性症状にも効果が期待でき、錐体外路症状は軽減されていますが、完全に消失するわけではありません。代わりに代謝系の副作用(体重増加、糖代謝異常)が問題となります。
作用機序と副作用が起こる理由
抗精神病薬の基本的な作用機序は、脳内のドパミンD2受容体の遮断です。脳内には四つのドパミン経路が存在し、それぞれの遮断が異なる効果や副作用をもたらします。
中脳辺縁系の遮断は、幻覚や妄想といった陽性症状を改善します。これが抗精神病薬の主な治療効果です。中脳皮質系の遮断は、意欲低下や感情鈍麻といった陰性症状を悪化させる方向に働きます。黒質線条体系の遮断は、運動の調節障害である**錐体外路症状(EPS)**を引き起こします。漏斗下垂体系の遮断は、プロラクチンの分泌を抑制する機構が外れて高プロラクチン血症を引き起こし、女性では乳汁分泌や月経異常、男性では女性化乳房などが出現します。
錐体外路症状(EPS)
錐体外路症状には四つの代表的な病態があり、出現時期が異なるため時系列で覚えておくことが重要です。
急性ジストニア
服用後数時間から数日で出現します。若年男性に多くみられ、筋肉が持続的に収縮することで異常姿勢をとります。眼球が上を向いたまま戻らない眼球上転、首が傾く斜頸、背中が反り返る後弓反張などが特徴的です。発症は突発的で患者の苦痛が強いため、抗コリン薬の注射で対応します。
アカシジア(静座不能症)
服用後数日から数週で出現します。下肢のムズムズ感や内的な落ち着きのなさを訴え、じっと座っていられず歩き回るのが特徴です。患者の苦痛は強く、見落とすと自殺リスクにつながるため注意が必要です。治療は原因薬の減量・変更、β遮断薬(プロプラノロール)、抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系薬剤などです。
薬剤性パーキンソニズム
服用後数週から数か月で出現します。手指の振戦、筋肉のこわばり(筋強剛・筋固縮)、動作緩慢(無動)といったパーキンソン病様の症状を示します。
遅発性ジスキネジア
長期服用後に出現する難治性の副作用です。口唇をもぐもぐ動かしたり、舌を突き出したりする不随意運動が特徴で、いったん出現すると治療が困難です。VMAT2阻害薬であるバルベナジンなどが治療に用いられます。
悪性症候群
**悪性症候群(Neuroleptic Malignant Syndrome:NMS)**は、抗精神病薬の副作用の中で最も重篤で、死亡率が10%以上にもなる緊急疾患です。投与開始後や増量後の数日から数週で発症することが多いとされます。
三主徴は高熱(39℃以上)、鉛管様の筋固縮、意識障害です。これに加えて発汗・頻脈・血圧変動などの自律神経症状を伴います。検査所見では血清CK(クレアチンキナーゼ)が1000IU/L以上に著明に上昇し、白血球増多も認めます。横紋筋融解によりミオグロビン尿が出て、急性腎不全を起こすこともあります。
治療は原因薬の直ちの中止が最優先です。次に十分な輸液と冷却を行い、筋弛緩薬のダントロレンやドパミン作動薬のブロモクリプチンを投与します。早期発見・早期対応が救命のカギとなります。
看護観察のポイントとまとめ
抗精神病薬を服用中の患者には、歩行・姿勢・動作・落ち着きのなさをよく観察し、錐体外路症状の早期発見に努めます。転倒予防の環境整備も重要です。また、発熱・筋固縮・意識障害がそろえば悪性症候群を疑い、直ちに医師に報告しなければなりません。抗精神病薬は作用機序が共通しているため副作用パターンも共通しており、ドパミン経路と結びつけて理解することがポイントです。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
抗精神病薬の主な作用機序は、ドパミン受容体の遮断である。
- 2.
黒質線条体系のドパミン遮断によって生じる運動障害を総称して(EPS)という。
- 3.
服用後数時間から数日で出現し、眼球上転や斜頸などの異常姿勢を呈するEPSを急性という。
- 4.
下肢のムズムズ感や内的な落ち着きのなさを訴え、じっとしていられない状態をという。
- 5.
長期服用後に口唇や舌の不随意運動が出現する難治性のEPSをという。
- 6.
抗精神病薬の最重症の副作用で、高熱・筋固縮・意識障害を三主徴とするものをという。
- 7.
悪性症候群では血清(クレアチンキナーゼ)が著明に上昇する。
- 8.
悪性症候群の治療には、筋弛緩薬のが用いられる。
- 9.
漏斗下垂体系のドパミン遮断によって、乳汁分泌や月経異常を引き起こすが生じる。
- 10.
ハロペリドールは第世代(定型)抗精神病薬に分類される。
