母性看護の理念と親性
母性看護学 / 母性看護総論・その他
解説
母性看護とは、女性のライフサイクル全体を通じて、思春期から成熟期、妊娠・出産・育児期、更年期、老年期に至るまでの健康課題を支援する看護の領域です。今回は母性看護の理念と、親が親になっていく心理過程である「親性」について解説します。
母性看護の理念
母性看護は、疾病の治療よりも健康の維持・増進に重点を置くウェルネス志向のケアです。妊娠・出産は病気ではなく正常な生理現象であるという考えに基づき、女性とその家族が本来もつ力を引き出すことを目指します。また、母児だけでなく父親や家族全体を支援対象とする家族中心ケアの視点も重要です。
背景となる国際的理念にリプロダクティブ・ヘルス/ライツがあります。1994年にエジプトで開催されたカイロ国際人口開発会議で提唱され、性と生殖に関する健康と、それを自己決定する権利を意味します。女性が産む・産まない、いつ何人産むかを自由に決定できることが基本となります。
Women centered care
**Women centered care(女性を中心としたケア)**とは、女性をライフサイクル全体を通じた全人的存在として捉え、身体・心理・社会・文化・スピリチュアルな側面を含めて支援する理念です。女性自身が主体となって自らの健康を定義し選択できるよう、尊重・安全・ホリスティック・パートナーシップという4つの特徴をもってケアを提供します。国際助産師連盟(ICM)でも基本理念として掲げられ、医療者中心ではなく当事者中心のケアを志向します。
親になる過程の理論
ルービンの母親役割獲得過程
**ルービン(Reva Rubin)**は、女性が母親になっていく心理過程を5つの心理的操作で説明しました。
第1は模倣(mimicry)で、自分の母親や周囲の母親の行動を真似ることです。第2はロールプレイ(role play)で、母親役割の行動を実際に演じてみる試行的な練習段階です。人形を赤ちゃんに見立てて沐浴や授乳、オムツ交換を実際にやってみるのが典型例で、頭の中のイメージではなく身体を使って役割を試すのが特徴です。第3は空想(fantasy)で、自分が母親になった姿や生まれてくる子どもについて思い描く段階です。第4は取り込み・投影・拒絶で、自分にとっての母親モデルから必要なものを取捨選択していきます。第5は**悲嘆作業(grief work)**で、妊娠前の自分や生活との別れを受容する作業です。
またルービンは産褥期の母親行動を、依存的・受動的な受容期(taking-in、産褥1〜2日)、自立に向かう保持期(taking-hold、産褥3〜10日)、新しい自己を統合する**解放期(letting-go、産褥10日以降)**の3段階で表現しました。
クラウスとケネルのボンディング
クラウス(Klaus)とケネル(Kennell)は、出産直後から親が子どもに抱く情緒的な結びつきをボンディング(絆)と概念化しました。ボンディングは親から子への一方向性をもち、後天的に形成される点が特徴です。出産直後の早期母子接触、授乳、アイコンタクト、抱っこなどの母子相互作用によって促進されるとされ、現在ではカンガルーケアや母子同室が絆形成を促す看護ケアとして推奨されています。
一方、**ボウルビィ(Bowlby)のアタッチメント(愛着)**は子から親への情緒的結びつきを指し、ボンディングとは方向性が逆である点に注意が必要です。
親性という概念
親性とは、性別や血縁関係にとらわれず、子どもを慈しみ育もうとする普遍的な性質を指します。従来は母性・父性と性別で分けて論じられてきましたが、ジェンダー平等の進展や多様な家族形態の登場を背景に、両者を包含するより包括的な概念として親性が広く用いられるようになりました。
親性は生まれつき備わるものではなく、経験や学習を通じて形成・発達していく特性です。自分自身が育てられた被養育体験、パートナーとの関係性、社会的サポート、実際の育児経験の積み重ねなどが親性の発達に関与します。看護者は親性が育つ過程を理解し、家族が親になっていく営みを支えていきます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
母性看護の理念で、女性をライフサイクル全体を通じた全人的存在として捉え、女性自身を主体とするケア概念をという。
- 2.
リプロダクティブ・ヘルス/ライツは1994年にエジプトで開催されたで国際的に提唱された。
- 3.
ルービンの母親役割獲得過程において、人形を赤ちゃんに見立てて沐浴や授乳を実際に練習する段階をという。
- 4.
ルービンの母親役割獲得過程のうち、妊娠前の自分との別れを受容する作業をという。
- 5.
ルービンは産褥期の母親行動を受容期・保持期・の3段階で表現した。
- 6.
クラウスとケネルが提唱した、出産直後から親が子どもに抱く情緒的結びつきをという。
- 7.
ボンディングは親から子への一方向性をもつのに対し、ボウルビィが提唱した子から親への情緒的結びつきをという。
- 8.
性別や血縁関係にとらわれず、子どもを慈しみ育もうとする普遍的な性質で、経験や学習を通じて形成・発達するものをという。
