術後早期離床とせん妄予防
成人看護学 / 周術期・救急
解説
今回は術後早期離床とせん妄予防について解説します。術後の患者管理では、できるだけ早期にベッドから離れて活動を再開することが、合併症予防と回復促進の鍵になります。
術後の安静臥床がもたらすリスク
手術後の長時間にわたる安静臥床と不動化は、身体のあらゆる系統に悪影響を及ぼします。呼吸器系では横隔膜の動きが制限され、気道分泌物が貯留して無気肺や肺炎を起こしやすくなります。循環器系では下肢の筋ポンプ作用が働かず、静脈血が停滞して**深部静脈血栓症(DVT)**を生じます。運動器系では筋萎縮や関節拘縮、消化器系では腸蠕動の低下による腸閉塞や便秘、泌尿器系では尿閉、精神面ではせん妄や抑うつが問題となります。これらを総合的に予防する手段が早期離床です。
早期離床のメリット
早期離床とは、術後できる限り早い段階で坐位・立位・歩行へと段階的に進めていくケアを指します。最大の意義は呼吸器合併症の予防にあり、横隔膜運動の回復、気道分泌物の喀出促進、換気血流比の改善が期待できます。開胸手術や全身麻酔下の手術ではとくに効果が大きいとされます。さらに下肢を動かすことで筋ポンプ作用が働き、DVTやそれに続く肺血栓塞栓症の予防にもつながります。日中の活動量が増えることで昼夜のリズムが整い、せん妄の予防になり、腸管運動の回復や尿閉予防、創傷治癒の促進にも寄与します。
術後せん妄とその予防
術後せん妄とは、術後に出現する急性かつ可逆性の意識と注意の障害であり、見当識障害や幻覚、興奮などを呈します。高齢者では発症率が高く、転倒や治療中断につながるため早期介入が重要です。
DELIRIUM因子
せん妄の誘因はDELIRIUMの頭文字でまとめられます。Drug(薬剤)、Electrolyte(電解質異常)、Lack of sleep(睡眠障害)、Infection(感染)、Retention(尿閉・便秘)、Ischemia(虚血)、Underhydration(脱水)、Metabolic(代謝異常)です。これらは修正可能因子であり、看護介入で取り除くことができます。
非薬物的予防
せん妄予防の基本は薬物に頼らない多面的介入です。第一に早期離床で日中の覚醒と活動性を高めます。時計やカレンダーを病室に置いて見当識を補助し、普段使っている眼鏡・補聴器・義歯を装着させて視覚・聴覚情報を保ちます。家族の面会や声かけ、夜間の照明・物音の調整、日中の覚醒維持、十分な水分摂取、不要な点滴ラインやカテーテルの早期抜去も重要です。これら複数の介入を組み合わせた多因子介入プログラムを**HELP(Hospital Elder Life Program)**といい、高齢患者のせん妄予防に有効とされています。
肺血栓塞栓症と初回離床
肺血栓塞栓症(PTE)は、下肢などで形成された血栓が血流に乗って肺動脈を閉塞する病態です。術後数日はDVTが形成されやすい時期であり、初回離床で下肢を動かした瞬間に血栓が遊離し、PTEを発症する危険があります。初発症状は突然の呼吸困難、胸痛、頻脈、SpO2低下であり、大きな血栓では致死的経過をたどります。ハイリスク要素としては肥満、下肢の固定、術後の長期臥床、悪性腫瘍などが挙げられます。予防には弾性ストッキング、間欠的空気圧迫装置(フットポンプ)、抗凝固療法、そして早期離床の組み合わせが用いられます。
初回離床の手順と中止サイン
初回離床は段階的に進めます。まずベッド上で足関節の底背屈運動を行い、続いて端座位、起立、歩行へと進めます。看護師は必ず付き添い、各段階でバイタルサインと自覚症状を確認します。SpO2低下、頻脈、冷汗、胸痛、呼吸困難のいずれかが出現した場合は直ちに離床を中止し、臥床させて医師に報告します。
術直後の気道・呼吸管理
術直後の急変対応ではABC(気道Airway・呼吸Breathing・循環Circulation)の優先順位が基本となります。とくに肥満患者や睡眠時無呼吸症候群(SAS)を有する患者では、抜管後に上気道閉塞を起こしやすく注意が必要です。 いびき様呼吸は意識レベル低下と舌根沈下を示すサインであり、放置すれば窒息に至ります。鼻腔カニューレは口呼吸の患者には酸素が十分届かないため、酸素マスクやCPAPへの切り替えを検討します。対応としては気道確保を最優先に、頭部後屈顎先挙上や下顎挙上、セミファウラー位や側臥位への体位調整を行います。
離床時の環境整備
安全な離床のためには環境調整が欠かせません。ベッドの高さは端座位になったときに患者の足底がしっかり床につく高さに調節します。これにより立ち上がりが安定し、転倒を防ぐことができます。点滴ルートは患者の動線を妨げないようにルート側へ輸液スタンドを配置し、ドレーン類も整理します。離床前には必ずバイタルサインを測定し、起立性低血圧、創痛、カテーテルの抜去事故に注意しながら段階的に進めます。
まとめ
術後の安静臥床は呼吸器・循環器・運動器・消化器・精神面に多面的な悪影響を及ぼすため、早期離床により無気肺・DVT・PTE・せん妄を予防することが重要です。せん妄予防はDELIRIUM因子への対応と非薬物的介入(早期離床、見当識補助、感覚補助、HELPプログラム)が柱となります。初回離床ではPTEの発症に注意し、SpO2低下や呼吸困難などの中止サインを見逃さないこと、術直後はABCの優先順位で気道・舌根沈下に対応すること、ベッドの高さと足底接地で安全を確保することが国試対策のポイントです。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
術後の安静臥床により横隔膜運動が制限され、気道分泌物の貯留によって生じる呼吸器合併症をという。
- 2.
下肢の筋ポンプ作用低下により術後に下肢深部静脈で血栓が形成される病態をといい、肺血栓塞栓症の原因となる。
- 3.
術後に出現する急性かつ可逆性の意識と注意の障害で、見当識障害や幻覚を呈する状態をという。
- 4.
せん妄の誘因をまとめた頭文字で、Drug・Electrolyte・Lack of sleep・Infection・Retentionなどを含むものを因子という。
- 5.
せん妄予防の多因子介入プログラムで、高齢入院患者を対象とする代表的なものをという。
- 6.
肺血栓塞栓症の初発症状として、突然の呼吸困難・胸痛・頻脈とともに認められる重要な所見はである。
- 7.
肺血栓塞栓症の予防として、下肢に装着して静脈還流を促す装具をという。
- 8.
術直後の急変対応では、気道・呼吸・循環の順で優先するの原則に従う。
- 9.
肥満や睡眠時無呼吸症候群の患者で術後に起こりやすく、いびき様呼吸として現れる上気道閉塞の原因はである。
- 10.
術後の離床時、患者が端座位になったときに安全に立ち上がれるよう、足底が床にしっかりつくように調整するのはである。
