IgA腎症の診断と看護
成人看護学 / 腎・泌尿器
解説
今回はIgA腎症の診断と看護について解説します。IgA腎症は、日本人に最も多い慢性糸球体腎炎であり、国家試験では確定診断の方法、特徴的な臨床所見、生活指導、進行した際の透析導入の判断など、幅広く問われる重要疾患です。
IgA腎症とは
IgA腎症とは、腎臓の糸球体のなかでも特にメサンギウム領域に免疫グロブリンの一種であるIgAが沈着し、慢性的な炎症を引き起こす糸球体腎炎です。日本では成人の慢性糸球体腎炎の中で最も頻度が高く、若年成人(20〜30歳代)に好発します。発症から20年程度の経過で約30〜40%が末期腎不全に進行するとされ、早期発見と継続的な治療管理が予後を大きく左右します。
糸球体とメサンギウムの基礎
糸球体は腎臓のなかで血液をろ過して原尿をつくる毛細血管の塊で、毛細血管の間を支える組織をメサンギウムといいます。メサンギウム細胞は糸球体の構造を保つ役割と、免疫複合体などの異物を処理する役割を担っています。IgA腎症ではこのメサンギウム領域に異常なIgAを含む免疫複合体が沈着し、炎症と組織障害を引き起こします。
臨床症状と発症の特徴
IgA腎症の特徴的な症状は、感冒や扁桃炎などの上気道感染の直後(数時間〜数日以内)に出現する肉眼的血尿です。尿の色はコーラ色や紅茶色、暗赤色と表現され、痛みを伴わないことが多いのが特徴です。健康診断では持続する顕微鏡的血尿と蛋白尿が指摘されることが多く、これが診断の手がかりとなります。 進行すると高血圧、ネフローゼ症候群、腎機能低下が現れます。自覚症状に乏しいまま緩徐に進行するため、健診で異常を指摘されても放置されやすく、受診の遅れが末期腎不全につながりやすい疾患です。
検査と確定診断
スクリーニングでは尿検査で蛋白尿と血尿、血液検査で血清IgAの高値(成人の約半数で上昇)を確認します。しかしこれらは参考所見にすぎず、確定診断には腎生検(経皮的腎生検)による組織診断が必須です。蛍光抗体法でメサンギウム領域にIgAが顆粒状に沈着している像を確認することで初めて診断が確定します。
経皮的腎生検の看護
経皮的腎生検は、腹臥位で背部から腎臓に針を刺して組織を採取する検査です。腎臓は血流が極めて豊富な臓器であるため、出血性合併症が最も注意すべきリスクです。検査前には抗凝固薬や抗血小板薬の休薬を確認し、出血傾向の有無を評価します。 検査中は呼吸を一時止める指示があるため、呼吸停止の練習を事前に行います。検査後は穿刺部を圧迫止血し、仰臥位での床上安静を数時間(通常6〜12時間)、その後も24時間程度の安静を継続します。観察項目はバイタルサイン、穿刺部の腫脹や皮下出血、尿の色(血尿の有無と程度)、腰背部痛などで、肉眼的血尿や腎周囲血腫、まれに動静脈瘻が生じることがあります。
治療と生活指導
治療の柱は血圧管理、食事療法、薬物療法です。血圧管理にはレニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)が用いられ、降圧と尿蛋白減少の両方の効果が期待できます。腎機能保護のために蛋白尿の強い症例では副腎皮質ステロイドが投与され、扁桃が病巣感染と考えられる場合には扁桃摘出術とステロイドパルス療法を組み合わせる治療も行われます。
減塩食の指導
高血圧と浮腫を伴う場合には1日6g未満の減塩が推奨されます。減塩を継続するためには「味が薄い」と感じさせない工夫が重要で、だしのうま味を効かせる、酢やレモンなど酸味を活用する、しそ・しょうが・カレー粉などの香辛料や香味野菜を取り入れる、汁物は具を多くして汁を残す、しょうゆはかけずにつけて使うなど、退院後も継続できる具体的な助言を行います。外食や加工食品は塩分が多いため、栄養成分表示を確認する習慣を身につけるよう指導します。
進行した場合の対応
治療を中断したまま経過すると、数年で末期腎不全に進行することがあります。尿素窒素やクレアチニンが著明に上昇し、悪心・嘔吐・眠気などの尿毒症症状、息切れや浮腫・肺うっ血などの溢水所見、著しい高血圧緊急症がそろった場合には、ただちに血液透析で尿毒症物質と余剰水分を除去し、降圧薬の点滴静注で血圧を速やかにコントロールします。透析導入は厚生労働省・日本透析医学会の基準に基づき、臨床症状・腎機能・日常生活障害度を点数化して判断します。
代謝性アシドーシスとクスマウル呼吸
急性腎不全や末期腎不全では、腎臓からの水素イオン(H⁺)排泄と重炭酸イオン(HCO₃⁻)再吸収が障害され、体内に酸が蓄積して代謝性アシドーシスを生じます。血液のpHが低下すると、生体はこれを是正するために肺からの二酸化炭素(CO₂)排出を増やそうとし、呼吸中枢が刺激されて深く速い呼吸であるクスマウル呼吸が出現します。これは呼吸性代償と呼ばれる機序で、代謝性アシドーシスに対する代表的な代償反応として国試で頻出です。腎不全患者で頻呼吸や努力様の深い呼吸を認めた場合は、代謝性アシドーシスの進行を疑い、動脈血液ガス分析で評価する必要があります。
まとめ
IgA腎症は日本で最も多い慢性糸球体腎炎で、メサンギウム領域へのIgA沈着を特徴とし、確定診断には腎生検が必須です。上気道感染後の肉眼的血尿が典型症状で、無症状のまま進行することが多いため健診異常の段階で受診継続を促す関わりが重要です。治療では血圧管理・減塩・薬物療法を継続し、進行例では透析導入を判断します。腎不全が進行すると代謝性アシドーシスを生じ、その代償としてクスマウル呼吸が出現する点も押さえましょう。腎生検後の出血管理、減塩食の具体的工夫、末期腎不全時の緊急対応という3つの看護場面を整理して押さえましょう。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
IgA腎症は、糸球体の領域にIgAが顆粒状に沈着する慢性糸球体腎炎で、日本で最も頻度が高い。
- 2.
IgA腎症の確定診断にはが必須であり、蛍光抗体法でメサンギウム領域へのIgA沈着を確認する。
- 3.
IgA腎症では、感冒や扁桃炎などのの直後にコーラ色・紅茶色の肉眼的血尿がみられるのが典型的である。
- 4.
経皮的腎生検後に最も注意すべき合併症はであり、穿刺部の圧迫と床上安静、尿の色の観察が重要である。
- 5.
IgA腎症の高血圧合併例では、降圧と尿蛋白減少の効果を期待してが第一選択となる。
- 6.
高血圧や浮腫を伴うIgA腎症では、1日g未満の食塩制限が推奨される。
- 7.
末期腎不全に進行し、尿毒症症状・溢水・高血圧緊急症をきたした場合は、ただちにを行って尿毒症物質と余剰水分を除去する。
- 8.
IgA腎症患者にみられる、感冒後に出現する暗赤色〜紅茶色の尿をという。
- 9.
急性腎不全では水素イオンの排泄障害によりが生じ、その呼吸性代償として深く速いクスマウル呼吸が出現する。
