感染経路と疫学要因
健康支援と社会保障制度 / 感染症対策と予防
解説
今回は感染経路と疫学要因について解説します。感染症対策と公衆衛生の基礎であり、看護師国試では頻出領域ですので、用語の意味から順に整理していきましょう。
感染成立の3要因
感染症が成立するためには、感染源(病原体)、感染経路、感受性宿主の3つがそろう必要があります。感染源は病原体を排出するもの、感染経路は病原体が宿主に到達する道筋、感受性宿主は病原体に対する免疫が不十分でかかりやすい人を指します。感染対策ではこの3要因のいずれかを断つことが基本です。
主な感染経路
感染経路は、看護領域では大きく5つに分類されます。
接触感染
汚染された手指や器具、患者の体表面に直接または間接的に触れて感染する経路です。MRSAなどの薬剤耐性菌、ノロウイルス、腸管出血性大腸菌、疥癬が該当し、手指衛生と手袋・ガウンの着用が重要です。
飛沫感染
咳・くしゃみ・会話で飛び散る5μmより大きい飛沫を介して感染する経路です。飛沫は1〜2m以内に落下するため、距離をとりサージカルマスクを用います。インフルエンザ、風疹、ムンプス、百日咳が代表例です。
空気感染
5μm以下の飛沫核として長時間空中を漂う病原体を吸入して感染する経路です。陰圧個室管理とN95マスクが必要となります。結核、麻疹、水痘が三大空気感染症として国試で頻出です。
媒介物感染
水・食品・血液・器具など共通の媒介物を介して感染する経路で、経口感染(コレラ、A型肝炎など)や血液媒介感染(B型・C型肝炎、HIV)が含まれます。レジオネラ肺炎は、循環式浴槽・加湿器・冷却塔水などの人工的な温水環境で増殖したレジオネラ属菌をエアロゾル(細かな水しぶき)として吸入して起こる代表例です。人から人へはうつらず、20〜50℃で増殖するため給湯系統は60℃以上での貯湯が推奨されます。
媒介動物感染
蚊・ダニ・ノミ・ネズミなどの生物(ベクター)を介して伝播する感染で、マラリア、デング熱、日本脳炎、つつが虫病が代表です。
創傷感染(経皮感染)
皮膚の傷口から病原体が体内に侵入して起こる感染経路です。代表例である破傷風の原因菌である破傷風菌(Clostridium tetani)は、土壌中に芽胞として広く常在し、釘の踏み抜きや擦り傷・刺し傷などの創傷部位から侵入して感染を起こします。破傷風菌は嫌気性菌で、創部の深部で増殖して神経毒を産生し、開口障害や全身性の強直性けいれんを引き起こすため、汚染創では創部の十分な洗浄・デブリードマンと**破傷風トキソイドによる予防接種(追加免疫)**が重要です。人から人へは感染しません。
疫学要因と疫学三角
疫学とは、集団における疾病の発生・分布とその要因を明らかにする学問です。疾病の発生は、宿主要因、病因(病原体)、環境要因の3つの相互作用で生じるとされ、これを疫学三角と呼びます。 宿主要因には年齢、性別、遺伝、免疫状態、栄養、既往歴が含まれます。環境要因は、物理的(温湿度・放射線)、化学的(化学物質)、生物学的(細菌・ウイルス・媒介動物)、社会的(職業・教育・経済)に分けられます。蚊やダニなどの媒介動物は、宿主要因ではなく生物学的な環境要因に分類される点に注意が必要です。
疫学的因果関係
疫学的因果関係とは、集団観察によって、ある曝露と疾病発生の間に単なる関連ではなく原因と結果の関係が成立していると判断される関係です。判定の古典的枠組みがヒルの基準(Bradford Hill criteria)で、関連の強さ、一致性、特異性、時間的関係、量反応関係、生物学的妥当性、整合性、実験的証拠、類似性の9視点から評価します。特に重要なのは原因が結果に先行する時間的関係と関連の強さです。関連の指標である相対危険度・オッズ比・寄与危険度は、いずれも値が1のとき関連がないことを意味します。
まとめ
感染症は感染源・感染経路・感受性宿主の3要因がそろって成立し、感染経路は接触・飛沫・空気・媒介物・媒介動物の5つに整理されます。結核・麻疹・水痘は空気感染、レジオネラ肺炎は温水のエアロゾル吸入による媒介物感染が代表で、破傷風は土壌中の破傷風菌が創傷部位から侵入して起こる創傷感染の代表例です。疾病の発生は宿主要因・病因・環境要因が相互作用する疫学三角で理解され、媒介動物は生物学的環境要因に位置づけられます。疫学的因果関係はヒルの基準で判定し、時間的先行性と関連の強さが特に重視されます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
感染症が成立するためには、感染源、感染経路、の3要因がそろう必要がある。
- 2.
咳やくしゃみで飛び散る5μmより大きな粒子を介して伝播し、サージカルマスクと約1〜2mの距離確保で防ぐ感染経路をという。
- 3.
5μm以下の飛沫核として長時間空中を漂う病原体を吸入することで感染する経路をといい、結核・麻疹・水痘が代表である。
- 4.
空気感染対策では陰圧個室管理に加え、医療者はを着用する。
- 5.
循環式浴槽、加湿器、冷却塔水などの人工的な温水環境で増殖したレジオネラ属菌をエアロゾルとして吸入することで発症する肺炎をという。
- 6.
蚊・ダニ・ノミなどの媒介動物(ベクター)は、疫学三角におけるのうち生物学的環境要因に分類される。
- 7.
疾病の発生は宿主要因・病因・環境要因の相互作用で生じるという疫学の枠組みをという。
- 8.
疫学的因果関係を判定する古典的枠組みで、関連の強さ・時間的関係・量反応関係などの9視点から評価する基準をという。
- 9.
疫学的因果関係を判定するうえで特に重視される視点の一つで、原因となる曝露が結果である疾病の発生より先に存在することをという。
- 10.
相対危険度やオッズ比は、値がのとき曝露要因と疾病との間に関連がないことを意味する。
- 11.
破傷風菌は中に芽胞として広く常在し、釘の踏み抜きや擦り傷などの部位から侵入して感染する。
