呼吸中枢と体温調節中枢
成人看護学 / 呼吸器系
解説
今回は呼吸中枢と体温調節中枢について解説します。生命を維持するためには、息を吸ったり吐いたりして酸素と二酸化炭素を入れ替える「呼吸」と、暑さや寒さの中でも体温を一定に保つ「体温調節」が欠かせません。これらを無意識のうちに自動で行ってくれる司令塔が、脳の中にあります。看護師国試では、呼吸中枢と体温調節中枢が脳のどの部位に存在するかを問う問題が頻出ですので、それぞれの場所と働きを正確に押さえていきましょう。
脳の区分の基礎
脳は大きく大脳、間脳、脳幹、小脳に分けられます。脳幹はさらに上から中脳・橋・延髄の三つから構成されます。間脳は大脳と脳幹の間にあり、視床と視床下部からなります。このうち、生命維持に直結する自動的な調節を担うのが脳幹と間脳です。大脳が意識や思考を担当するのに対し、脳幹と間脳は意識しなくても呼吸・循環・体温・内分泌などを24時間制御し続けています。
呼吸中枢
呼吸中枢とは、呼吸のリズム(吸う・吐くの周期)と深さを自動的に発生・調節している神経核の集まりです。呼吸中枢は脳幹の中でも延髄に存在し、橋にある呼吸調節中枢と協調して、安静時にも睡眠中にも一定のリズムで呼吸を継続させています。延髄には呼吸中枢のほかに心臓中枢・血管運動中枢・嚥下中枢・嘔吐中枢など生命維持に直結する中枢が集まっており、脳幹梗塞や延髄出血で延髄が障害されると呼吸停止に直結します。脳死判定で脳幹反射が重視されるのもこのためです。
呼吸を変化させる刺激
呼吸中枢が呼吸を強めたり弱めたりする最大の手がかりは、動脈血中の二酸化炭素分圧(PaCO2)です。血液中のCO2が増えるとpHが酸性に傾き、これを延髄の中枢化学受容器が感知して呼吸中枢を強く刺激します。その結果、呼吸数や換気量が増えてCO2を体外へ吐き出し、pHを正常に戻します。CO2の上昇は最も強力な呼吸刺激である、と覚えてください。 もう一つの経路が末梢化学受容器です。頸動脈にある頸動脈小体と大動脈にある大動脈小体は、主に動脈血酸素分圧(PaO2)の低下を感知し、求心性神経を介して延髄に情報を送ります。低酸素状態では末梢化学受容器が呼吸中枢を刺激し、換気を増やします。 なお、大脳皮質からも呼吸中枢へ指令が届くため、息こらえや会話のように意識的に呼吸を変えることもできますが、根本のリズムを作っているのはあくまで延髄です。
体温調節中枢
体温調節中枢とは、体温が一定に保たれるよう、産熱と放熱のバランスを自律神経系と内分泌系を介して制御する中枢です。体温調節中枢は間脳の視床下部にあります。視床下部は体温だけでなく、摂食・飲水・睡眠覚醒・性行動・自律神経・内分泌などを統合する、恒常性(ホメオスタシス)維持の最高中枢です。 視床下部は、体内を流れる血液の温度と、皮膚の温点・冷点から感覚神経を介して届く末梢の温度情報を受け取り、あらかじめ決められた設定温度(セットポイント)と比較します。実際の体温がセットポイントより低ければ産熱を増やし、高ければ放熱を増やすように指令を出します。視床下部の前方(前視索野)は放熱中枢として発汗や皮膚血管拡張を促し、後方は産熱中枢としてふるえや皮膚血管収縮を引き起こす、と整理されます。
産熱と放熱のしくみ
産熱の主な手段は、骨格筋のふるえ(シバリング)と、甲状腺ホルモンや交感神経による代謝亢進です。放熱は皮膚血管の拡張による熱の放散と、汗の蒸発(発汗)によって行われます。寒い環境では皮膚血管が収縮し、ふるえによって熱を作り出し、暑い環境では皮膚血管が拡張し発汗で熱を逃がします。
発熱のメカニズム
感染が起こるとマクロファージなどからIL-1、IL-6、TNF-αといった内因性発熱物質(サイトカイン)が放出されます。これらが視床下部の血管内皮に作用してプロスタグランジンE2(PGE2)を産生させ、セットポイントが上昇します。体は新しいセットポイントに合わせるためにふるえや血管収縮で熱を産生し、結果として発熱に至ります。これが発熱時に悪寒戦慄が起こる理由です。NSAIDsやアセトアミノフェンといった解熱薬は、PGE2の産生を抑えることでセットポイントを下げ、解熱させる薬です。なお、視床下部そのものが腫瘍や外傷で障害されると、発汗を伴わない中枢性高体温をきたすことがあります。
まとめ
呼吸中枢は脳幹の延髄にあり、橋の呼吸調節中枢と協調して呼吸のリズムと深さを制御しています。最も強い刺激は動脈血のCO2上昇で、末梢では頸動脈小体・大動脈小体がO2低下を感知します。体温調節中枢は間脳の視床下部にあり、セットポイントを基準に産熱(ふるえ・代謝亢進)と放熱(発汗・血管拡張)を切り替えています。発熱はサイトカインがPGE2を介してセットポイントを上げることで生じます。「呼吸中枢は延髄、体温調節中枢は視床下部」という対応関係をまず確実に押さえ、そのうえで化学受容器・セットポイント・発熱機序まで理解しておくことが国試対策の要となります。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
呼吸のリズムと深さを自動的に発生させる呼吸中枢は、脳幹のうちに存在する。
- 2.
延髄の呼吸中枢と協調して呼吸パターンを整える呼吸調節中枢は、脳幹のに存在する。
- 3.
呼吸中枢を刺激する最も強力な因子は、動脈血中のの上昇である。
- 4.
動脈血酸素分圧(PaO2)の低下を感知して呼吸中枢に情報を送る末梢化学受容器は、頸動脈にあると大動脈にある大動脈小体である。
- 5.
体温調節中枢は間脳のに存在し、自律神経系と内分泌系の最高中枢として恒常性を維持している。
- 6.
視床下部は体温の設定温度であると実際の体温を比較し、産熱と放熱のバランスを調節している。
- 7.
感染時にはマクロファージから放出されたサイトカインが視床下部での産生を促し、セットポイントが上昇することで発熱が生じる。
- 8.
寒冷環境で熱を産生するために骨格筋が不随意に収縮を繰り返す現象をという。
