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甲状腺腫瘍の手術と術後管理

成人看護学 / 内分泌・代謝

解説

今回は甲状腺腫瘍の手術と術後管理について解説します。

甲状腺と周辺の解剖

甲状腺とは、頸部前面で気管の前面に位置する蝶のような形をした内分泌器官で、甲状腺ホルモン(T3・T4)を分泌して全身の代謝を調節する臓器です。甲状腺の手術を理解するうえで欠かせないのが、隣接する2つの構造の知識です。 第一に、甲状腺の背側には副甲状腺(上皮小体)が通常4個付着しています。副甲状腺は副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌し、血中カルシウム濃度を上昇させる働きを担っています。第二に、甲状腺の背側には反回神経が走行しており、声帯の運動を支配しています。手術でこれらを損傷すると、後述する重大な合併症が生じます。

甲状腺腫瘍の診断

甲状腺腫瘍が疑われた場合は、まず問診と頸部の視触診を行い、続いて超音波検査で結節の性状を評価します。超音波で悪性が疑われる所見としては、低エコー、境界不明瞭、微細石灰化、縦横比が1を超えることなどが挙げられます。 確定診断のためには**穿刺吸引細胞診(FNA)**を行います。FNAは細い針で結節から細胞を採取し、病理学的に良悪性を判定する検査であり、甲状腺腫瘍の確定診断に不可欠です。 血液検査ではTSH・FT3・FT4で甲状腺機能を確認し、髄様癌が疑われる場合はカルシトニンやCEAも測定します。

甲状腺癌の特徴

甲状腺癌のうち約9割を占めて最も多いのが乳頭癌です。乳頭癌は比較的ゆっくり進行し、リンパ節転移を伴いやすい一方で予後は良好とされます。

甲状腺全摘出術と4大合併症

進行した腫瘍や両葉に病変がある場合には甲状腺全摘出術が選択されます。看護学生が押さえるべき術後の4大合併症は以下の通りです。

1. 術後出血・血腫

頸部は閉鎖空間に近く、術後出血で血腫が形成されると気管が圧迫されて窒息に至る危険があります。頸部の腫脹、呼吸困難、創部からのドレーン排液増加に注意し、ベッドサイドに気管切開セットを準備しておきます。

2. 反回神経麻痺

反回神経が損傷されると嗄声(しわがれ声)が出現し、誤嚥のリスクも高まります。片側性なら経過観察で回復することもありますが、両側性では気道狭窄を来し気管切開を要する場合があります。

3. 副甲状腺機能低下による低カルシウム血症

副甲状腺が損傷・摘出されるとPTHの分泌が低下し、血中カルシウムが低下します。低Ca血症では神経筋の興奮性が亢進し、テタニーと呼ばれる症状が出現します。具体的には口周囲や手指のしびれから始まり、進行すると助産師の手と呼ばれる手指の特徴的肢位がみられます。 身体所見としては、顔面神経を耳の前で叩打すると同側の顔面筋がれん縮するクボステック徴候、上腕にマンシェット(血圧計)を巻いて加圧すると手指が痙攣肢位をとるトルソー徴候が陽性となります。重症例ではけいれんを起こすこともあります。治療はカルシウム製剤活性型ビタミンD製剤の投与です。

4. 永続的甲状腺機能低下

全摘出後は甲状腺ホルモンが全く分泌されなくなるため、生涯にわたる甲状腺ホルモン補充が必要です。 このほか、頸部郭清を伴う場合は乳び漏、バセドウ病合併例では甲状腺クリーゼも起こりうる合併症です。

術後管理と内服

術後はレボチロキシン(合成T4製剤)を生涯にわたって内服します。レボチロキシンは食物の影響を受けやすいため、朝起床時の空腹時に服用するのが原則です。甲状腺癌術後では再発予防のためにTSHを低めに抑えるTSH抑制療法が行われ、定期的にTSHやカルシウム値を測定して投与量を調整します。 副甲状腺機能低下が残存する場合は、Ca製剤と活性型ビタミンD製剤の内服も継続します。創部に関しては、瘢痕が色素沈着しやすいため遮光(日焼け止めや衣類による紫外線対策)を指導します。

退院指導

食事制限についてはしばしば誤解されますが、術後にヨウ素(海藻類)の摂取制限は原則不要です。食事から摂取されるヨウ素の量では甲状腺機能に大きな影響はないとされています。橋本病やバセドウ病の文脈で語られることはありますが、甲状腺全摘出後の通常の生活では制限は不要です。ただし放射性ヨウ素内用療法を予定している場合のみ、治療前にヨウ素制限食が必要となります。 妊娠についても問題なく可能で、レボチロキシンは妊娠中も安全に継続できます。妊娠中はホルモン需要が増えるため、投与量を増量することが多い点も押さえておきましょう。日常生活や運動の制限はほぼなく、早期の社会復帰が可能です。

まとめ

甲状腺の背側には副甲状腺と反回神経が走行しており、これらの損傷が術後合併症の原因となります。診断は超音波検査と穿刺吸引細胞診で行い、最多は予後良好な乳頭癌です。全摘出術後は、出血・血腫による窒息、反回神経麻痺による嗄声、副甲状腺機能低下による低カルシウム血症(テタニー・クボステック徴候・トルソー徴候)、永続的甲状腺機能低下の4大合併症に注意します。術後はレボチロキシンを朝空腹時に生涯内服し、ヨウ素制限は原則不要で妊娠も可能であることを退院指導として正しく伝えることが重要です。

確認問題(穴埋め)

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  1. 1.

    甲状腺の背側に通常4個付着し、PTHを分泌して血中カルシウム濃度を上昇させる内分泌器官をという。

  2. 2.

    甲状腺の背側を走行し、声帯の運動を支配する神経で、術中の損傷により嗄声を来すのはである。

  3. 3.

    甲状腺腫瘍の確定診断のために行われる、結節から針で細胞を採取し病理学的に評価する検査をという。

  4. 4.

    甲状腺癌のうち最も頻度が高く、リンパ節転移を伴いやすいが予後は良好な組織型はである。

  5. 5.

    甲状腺全摘出術後に副甲状腺機能が低下するとを来し、口周囲や手指のしびれ、テタニーが出現する。

  6. 6.

    低カルシウム血症の身体所見で、顔面神経を耳の前で叩打すると同側の顔面筋がれん縮する徴候をという。

  7. 7.

    上腕に血圧計のマンシェットを巻いて加圧した際、手指が助産師の手と呼ばれる特徴的肢位をとる低Ca血症の徴候をという。

  8. 8.

    甲状腺全摘出術後に生涯内服が必要となる甲状腺ホルモン製剤はであり、吸収を妨げないため朝起床時の空腹時に服用する。

  9. 9.

    甲状腺全摘出術後の食事指導において、放射性ヨウ素内用療法の予定がなければの摂取制限は原則不要である。

  10. 10.

    甲状腺術後の重大な合併症で、頸部の腫脹により気道圧迫から窒息を起こしうるため気管切開セットを準備しておくべきものはである。

甲状腺腫瘍の手術と術後管理」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。