低体温と熱産生
成人看護学 / 周術期・救急
解説
今回は「低体温と熱産生」について解説します。ヒトは外気温が変動しても深部体温をほぼ一定(約37℃)に保つ恒温動物であり、その恒常性は視床下部にある体温調節中枢が司っています。体温は熱産生と熱放散のバランスによって維持されており、低体温時には熱放散を抑え、熱産生を高める方向に生体反応が働きます。
体温調節の基本機構
体温調節中枢は視床下部に存在し、皮膚や深部の温度受容器からの情報を統合して、自律神経系・内分泌系・骨格筋系に指令を出します。熱放散には、輻射・伝導・対流による非蒸発性熱放散と、発汗や不感蒸泄による蒸発性熱放散があります。低体温時には皮膚血管が収縮して非蒸発性の熱放散を減らし、立毛筋が収縮して鳥肌が立ち、体表からの熱の逃散を抑えます。
熱産生の三つの機構
生体における熱産生は大きく三つに分けられます。第一は骨格筋によるふるえ熱産生で、動筋と拮抗筋がほぼ同時に不随意収縮を起こし、筋収縮に使われたATPがほぼすべて熱エネルギーに変換されることで体温が上昇します。これは低体温から回復するための最も即効性のある反応です。
第二は褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生です。褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜には脱共役タンパク質UCP1が存在し、酸化的リン酸化のエネルギーをATP合成に使わずに直接熱として放出します。新生児や乳児で特に重要な機構です。
第三は甲状腺ホルモンによる基礎代謝の亢進です。甲状腺ホルモン(T3・T4)は全身の細胞の代謝活性を高め、長期的な熱産生を担います。
低体温を起こす内分泌疾患
甲状腺ホルモンの分泌が低下する甲状腺機能低下症では、基礎代謝が低下して産熱が減少し、低体温をきたします。代表的な原因疾患は橋本病(慢性甲状腺炎)で、自己抗体である抗TPO抗体や抗Tg抗体が陽性となります。高齢女性に多く、冬季に重症化しやすいのが特徴です。
粘液水腫昏睡
甲状腺機能低下症が重症化した病態が粘液水腫昏睡です。35℃未満の著明な低体温に加え、呼吸抑制、意識障害、低血糖、低ナトリウム血症などをきたす致死率の高い救急疾患で、ただちに保温(加温)とレボチロキシン(甲状腺ホルモン製剤)の投与が必要です。
まとめ
体温は視床下部の体温調節中枢が熱産生と熱放散のバランスを調整して保たれます。低体温時にはふるえ、褐色脂肪組織のUCP1による非ふるえ熱産生、甲状腺ホルモンによる代謝亢進という三つの熱産生機構が働き、皮膚血管収縮や立毛筋収縮によって熱放散が抑えられます。甲状腺機能低下症は低体温を引き起こす代表的な内分泌疾患であり、橋本病が原因として重要で、重症化した粘液水腫昏睡は緊急対応を要します。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
体温調節中枢は脳のに存在する。
- 2.
骨格筋の不随意収縮による熱産生機構をという。
- 3.
褐色脂肪組織のミトコンドリア内膜に存在し、非ふるえ熱産生を担うタンパク質は(脱共役タンパク質)である。
- 4.
基礎代謝を亢進させて長期的な熱産生に関与するホルモンはである。
- 5.
甲状腺機能低下症の代表的な原因疾患で、慢性甲状腺炎とも呼ばれる自己免疫疾患はである。
- 6.
橋本病で陽性となる代表的な自己抗体は抗TPO抗体とである。
- 7.
甲状腺機能低下症が重症化し、35℃未満の低体温・意識障害・呼吸抑制をきたす致死率の高い病態をという。
- 8.
粘液水腫昏睡の治療では加温とともに甲状腺ホルモン製剤であるを投与する。
- 9.
低体温時に体表からの熱放散を抑えるために皮膚で起こる血管反応はである。
- 10.
発汗や不感蒸泄による熱放散をという。
