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甲状腺全摘出後の合併症はなぜ「手がつる」のか?テタニーの仕組み

看護師国家試験 第109回 午後 第92問 / 成人看護学 / 内部環境と内分泌系

国試問題にチャレンジ

109回 午後 第92問

次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 35 歳、女性)は、昨年結婚し、夫( 50 歳)と 2 人暮らし。最近 2 か月で 5 kgの体重減少、首の違和感と息苦しさ、心悸亢進、不眠のため内科を受診した。触診で甲状腺の腫脹、超音波検査で甲状腺内に数か所の石灰化が認められたため、甲状腺腫瘍( thyroid tumor )の疑いで大学病院に紹介された。 嗜好品:飲酒はビール 700 ml /日を週 5 日 趣味:ジョギングとヨガ 検査の結果、Aさんは甲状腺乳頭癌( papillary adenocarcinoma of the thyroid )であり、甲状腺全摘出術を受けることになった。Aさんは、手術前オリエンテーションの際「手術後にどんな症状が起こりやすいのか教えてください」と話した。 この時のAさんへの看護師の説明で適切なのはどれか。

  1. 1.「手がつる感じがあります」
  2. 2.「目が閉じにくくなります」
  3. 3.「声が出なくなります」
  4. 4.「唾液が多くなります」

対話形式の解説

博士 博士

さて、Aさんは甲状腺乳頭癌と診断され、甲状腺全摘出術を受けることになった。術前オリエンテーションで「どんな症状が起こりやすいか」と尋ねられた場面じゃ。

アユム アユム

手術で切るのは甲状腺だけですよね?それで全身症状が出るんですか?

博士 博士

そこが解剖学の重要ポイントじゃ。甲状腺の裏側には米粒大の副甲状腺(上皮小体)が4つ貼り付いておるのじゃ。

アユム アユム

副甲状腺?聞いたことはありますが、何をしているんですか?

博士 博士

副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌して、血中カルシウム濃度を上げる働きを担っておる。骨からCaを動員し、腎でCa再吸収を促進するのじゃ。

アユム アユム

じゃあ甲状腺を全部取ると、副甲状腺も傷ついてカルシウムが下がる、と?

博士 博士

その通り!これが低カルシウム血症によるテタニーじゃ。手指や口唇周囲のしびれ、手がつる、重症ではけいれんや喉頭けいれんまで起こる。

アユム アユム

だから「手がつる感じがあります」が正解なんですね。

博士 博士

うむ。ほかにも覚えておきたいのが反回神経麻痺じゃ。甲状腺のすぐ裏を走る反回神経は声帯を動かす神経で、傷つくと嗄声、つまり声がかすれる。

アユム アユム

「声が出なくなる」と「かすれる」は違うんですね。

博士 博士

片側の反回神経麻痺では嗄声になるが、完全失声にはならん。両側麻痺では呼吸困難が起きて緊急気管切開になることもある。

アユム アユム

目が閉じにくくなるのは?

博士 博士

それは顔面神経麻痺で、甲状腺とは全く別の部位じゃ。甲状腺手術の術野には入らんから誤り。

アユム アユム

唾液が多くなるのも関係ないですね。

博士 博士

そうじゃ。唾液腺は術野外で自律神経支配だから影響しない。こうして解剖を踏まえると、選択肢が一気に整理できるじゃろ?

アユム アユム

はい!術後観察で何を見るべきかも見えてきました。

POINT

甲状腺全摘出術後の代表的合併症は、①出血・血腫による気道圧迫、②反回神経麻痺による嗄声、③副甲状腺機能低下による低カルシウム血症、④甲状腺機能低下の4つです。なかでも副甲状腺が障害されると血中Caが低下し、手指や口周囲のしびれ、手足のつり、重症ではけいれんというテタニー症状が現れます。術後はCa製剤と活性型ビタミンD、レボチロキシンの内服が不可欠で、看護師はChvostek徴候やTrousseau徴候、嗄声の有無、創部出血、気道狭窄を継続的に観察します。解剖学的に副甲状腺と反回神経が甲状腺に隣接するという位置関係を理解すれば、術後合併症は論理的に想起できます。

解答・解説

正解は 1 です

問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 35 歳、女性)は、昨年結婚し、夫( 50 歳)と 2 人暮らし。最近 2 か月で 5 kgの体重減少、首の違和感と息苦しさ、心悸亢進、不眠のため内科を受診した。触診で甲状腺の腫脹、超音波検査で甲状腺内に数か所の石灰化が認められたため、甲状腺腫瘍( thyroid tumor )の疑いで大学病院に紹介された。 嗜好品:飲酒はビール 700 ml /日を週 5 日 趣味:ジョギングとヨガ 検査の結果、Aさんは甲状腺乳頭癌( papillary adenocarcinoma of the thyroid )であり、甲状腺全摘出術を受けることになった。Aさんは、手術前オリエンテーションの際「手術後にどんな症状が起こりやすいのか教えてください」と話した。 この時のAさんへの看護師の説明で適切なのはどれか。

解説:正解は 1 です。甲状腺全摘出術では甲状腺の裏側に接する副甲状腺(上皮小体)も一緒に摘出、もしくは血流障害を受けることがあり、副甲状腺ホルモン(PTH)分泌低下から低カルシウム血症を来すことがある。低カルシウム血症ではテタニー症状として手指や口周囲のしびれ、手足のつり、重症ではけいれんが現れる。したがって「手がつる感じがあります」という説明は甲状腺全摘出術後に起こりやすい症状として適切である。

選択肢考察

  1. 1.  「手がつる感じがあります」

    副甲状腺機能低下による低カルシウム血症のテタニー症状。甲状腺全摘出術で比較的高頻度に見られる合併症であり、術後はCa製剤・活性型VitD製剤の補充を行う。

  2. × 2.  「目が閉じにくくなります」

    閉眼に関わる眼輪筋は顔面神経(第VII脳神経)に支配されている。甲状腺手術で障害されうるのは反回神経・上喉頭神経・副甲状腺であり、顔面神経は術野外である。

  3. × 3.  「声が出なくなります」

    反回神経麻痺が生じた場合に現れるのは声のかすれ(嗄声)であり、完全な失声は通常起こらない。片側麻痺の多くは嗄声、両側麻痺では呼吸困難が前面に出る。

  4. × 4.  「唾液が多くなります」

    唾液分泌は自律神経(副交感神経優位)による支配で、唾液腺は甲状腺の術野外。全摘出術で唾液量が増えることはない。

甲状腺全摘出術の主な合併症は、①出血・血腫による気道圧迫、②反回神経麻痺(嗄声、誤嚥)、③副甲状腺機能低下による低カルシウム血症(テタニー、Chvostek徴候、Trousseau徴候)、④永続的甲状腺機能低下の4つ。術後は必ず甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン)を生涯内服し、TSH抑制療法で再発予防を図る。低Ca血症に対してはCa製剤と活性型VitDの投与が行われる。

甲状腺全摘出術後に生じやすい症状を、解剖学的に隣接する組織・神経の損傷と結びつけて理解しているかを問う問題。