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「排泄だけは自立したい」—自尊心を守る尿失禁ケアの第一歩

看護師国家試験 第114回 午前 第92問 / 地域・在宅看護論 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

114回 午前 第92問

<問91〜問93は同一の症例設定に基づきます。各問は前問までの状況を引き継いで解答してください。> 問91はこちら 次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(73歳、女性)は1人で暮らしており、脳梗塞(cerebral infarction)で入院した。Aさんは左半身に麻痺があり、認知機能障害はない。4点杖を使用して歩行が可能となり、住宅改修をして自宅に退院した。退院後は、降圧薬と抗血栓薬が処方され、服薬管理と健康管理の目的で訪問看護を週1回、調理と買い物代行の目的で訪問介護を週1回利用している。Aさんは「昨日、退院して初めて1人で買い物に行ったら転びそうになって、横にいた人に支えてもらったんです」と訪問看護師に話した。 退院から2か月後、Aさんは杖歩行が安定し、時間をかけて調理や買い物を自分で行うようになった。看護師が訪問したとき、Aさんから「最近トイレに間に合わずに尿が漏れてしまうことがあるんです。恥ずかしいので排泄だけは人の世話になりたくないんです。良い方法があれば教えてください」と相談された。 このときの訪問看護師のAさんへの助言で最も適切なのはどれか。

  1. 1.「パンツ型オムツを使ってみましょう」
  2. 2.「ポータブルトイレを使ってみましょう」
  3. 3.「夕食後は水分を摂り過ぎないようにしましょう」
  4. 4.「ご自分の排尿間隔に合わせてトイレに行きましょう」

対話形式の解説

博士 博士

さて、退院から2か月たったAさんが今度は尿漏れの相談をしてきた場面じゃ。

アユム アユム

「恥ずかしいので排泄だけは人の世話になりたくない」という言葉が印象的ですね。本人の自立への思いがすごく強いです。

博士 博士

その通り。尿失禁ケアでは、まず本人がどうしたいかを確認することが出発点になる。Aさんは認知機能が保たれていて、杖歩行も安定しておる。

アユム アユム

それなら、自分でトイレに行ける能力はあるってことですね。じゃあ何が問題なんでしょう。

博士 博士

片麻痺で歩く速度が落ちておるから、尿意を感じてからトイレまでの距離と時間が以前より長くなる。これが「機能性尿失禁」の一因じゃ。

アユム アユム

切迫性尿失禁との違いは何ですか。

博士 博士

切迫性は膀胱の過活動で急に強い尿意が起きるタイプ、機能性は膀胱や尿路には大きな問題はないが移動や認知の問題で間に合わないタイプじゃ。Aさんはこの両方が絡んでいる可能性がある。

アユム アユム

まず思いつくのはオムツですが、本人は嫌がっていますよね。

博士 博士

じゃからこそ第一選択は行動療法。具体的には排尿日誌をつけてもらい、何時に排尿しているか、漏れたのはいつか、を可視化するのじゃ。

アユム アユム

パターンが見えると、尿意の前にトイレに行けますね。

博士 博士

その通り、これが「時間排尿」じゃ。自分のリズムで先回りすれば失禁を減らしつつ自立を保てる。

アユム アユム

選択肢にあった「夕食後の水分を控える」はどうですか。一見よさそうですが…。

博士 博士

それは危険じゃ。Aさんは脳梗塞の既往があり抗血栓薬を飲んでおる。脱水で血液が濃くなれば再梗塞のリスクが上がる。高齢者はもともと水分量が少ないので、夜間も少量ずつ摂るのが基本じゃ。

アユム アユム

ポータブルトイレも、せっかく自分で歩けるのに使うのはもったいないですね。

博士 博士

うむ、能力を奪う支援は自立を後退させる。さらに外出先では使えないから、Aさんの相談には答えていない。

アユム アユム

環境面では何か工夫できますか。

博士 博士

トイレまでの動線に物を置かない、夜間の足元灯、前開きで脱ぎやすい衣類、手すりの位置確認、骨盤底筋訓練の指導なども合わせると効果的じゃ。

アユム アユム

本人の希望を尊重しながら、できる工夫を一緒に探すのが訪問看護の力ですね。

POINT

在宅高齢者の尿失禁ケアでは、本人の自立への意思と残存機能を尊重した支援が原則です。Aさんのように認知機能が保たれ歩行が自立している場合、排尿日誌で排尿パターンを把握し、尿意の前に計画的にトイレへ向かう時間排尿が第一選択となります。オムツやポータブルトイレは現段階では自立を後退させ、夕食後の水分制限は脳梗塞再発リスクを高めるため不適切です。看護師は失禁を「年齢のせい」と片づけず、機能性尿失禁の視点で動線や衣服、骨盤底筋訓練など多角的に介入し、本人の尊厳を守るケアにつなげる必要があります。

解答・解説

正解は 4 です

問題文:<問91〜問93は同一の症例設定に基づきます。各問は前問までの状況を引き継いで解答してください。> 問91はこちら 次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(73歳、女性)は1人で暮らしており、脳梗塞(cerebral infarction)で入院した。Aさんは左半身に麻痺があり、認知機能障害はない。4点杖を使用して歩行が可能となり、住宅改修をして自宅に退院した。退院後は、降圧薬と抗血栓薬が処方され、服薬管理と健康管理の目的で訪問看護を週1回、調理と買い物代行の目的で訪問介護を週1回利用している。Aさんは「昨日、退院して初めて1人で買い物に行ったら転びそうになって、横にいた人に支えてもらったんです」と訪問看護師に話した。 退院から2か月後、Aさんは杖歩行が安定し、時間をかけて調理や買い物を自分で行うようになった。看護師が訪問したとき、Aさんから「最近トイレに間に合わずに尿が漏れてしまうことがあるんです。恥ずかしいので排泄だけは人の世話になりたくないんです。良い方法があれば教えてください」と相談された。 このときの訪問看護師のAさんへの助言で最も適切なのはどれか。

解説:正解は 4 です。Aさんは認知機能が保たれ、杖歩行も安定しており、本人が「排泄は自立したい」と強く希望しています。このような場合、まずは行動療法的アプローチである排尿パターンの把握と計画的なトイレ誘導が第一選択となります。排尿日誌などで自分の排尿間隔を客観的に確認し、尿意を感じる前に予防的にトイレへ向かう「時間排尿」を取り入れることで、失禁の機会を減らしながら自立を維持できます。

選択肢考察

  1. × 1.  「パンツ型オムツを使ってみましょう」

    Aさんは「人の世話になりたくない」と自立への意思を明確にしており、最初からオムツを勧めるのは自尊心を損ない自立を妨げる助言となる。失禁が進行した場合の最終手段としては選択肢に入るが、現段階での第一選択にはならない。

  2. × 2.  「ポータブルトイレを使ってみましょう」

    ポータブルトイレは移動が困難な人や夜間の長距離歩行が危険な人に有効だが、Aさんは杖歩行が安定し自立してトイレに行けている。今ある能力を奪うことになり、外出先でも使えないため、相談内容への解決策にもならない。

  3. × 3.  「夕食後は水分を摂り過ぎないようにしましょう」

    脳梗塞既往があり抗血栓薬を内服中のAさんに水分制限を勧めると、脱水から血液濃縮が進み再梗塞リスクを高める。高齢者はもともと体内水分量が少なく口渇を感じにくいため、安易な水分制限は不適切である。

  4. 4.  「ご自分の排尿間隔に合わせてトイレに行きましょう」

    排尿日誌で自身の排尿パターンを把握し、尿意を感じる前に計画的にトイレへ行く時間排尿は、行動療法の基本で自立を維持できる方法である。Aさんの希望と能力に合致しており、第一選択として最も適切である。

尿失禁は腹圧性・切迫性・溢流性・機能性に分類される。Aさんのように「トイレに間に合わない」訴えは切迫性または機能性尿失禁が疑われ、片麻痺による移動の遅延が機能性失禁を助長している可能性が高い。行動療法(時間排尿・膀胱訓練・骨盤底筋訓練)はエビデンスに裏付けられた第一選択で、薬物療法やオムツは並行検討する。脳梗塞既往者では水分制限はせず、トイレまでの動線確保、衣服の工夫(前開き・マジックテープ)、夜間のセンサーライト設置など環境調整も合わせて行う。

自立心の強い在宅高齢者の尿失禁に対し、自立を維持できる行動療法的アプローチを選ぶ問題。本人の希望を尊重した支援の優先順位を理解する。