退院3か月後の便秘—薬より先に整えるべきは「食卓」
看護師国家試験 第114回 午前 第93問 / 地域・在宅看護論 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
<問91〜問93は同一の症例設定に基づきます。各問は前問までの状況を引き継いで解答してください。> 問91はこちら 次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(73歳、女性)は1人で暮らしており、脳梗塞(cerebral infarction)で入院した。Aさんは左半身に麻痺があり、認知機能障害はない。4点杖を使用して歩行が可能となり、住宅改修をして自宅に退院した。退院後は、降圧薬と抗血栓薬が処方され、服薬管理と健康管理の目的で訪問看護を週1回、調理と買い物代行の目的で訪問介護を週1回利用している。Aさんは「昨日、退院して初めて1人で買い物に行ったら転びそうになって、横にいた人に支えてもらったんです」と訪問看護師に話した。 退院から3か月後、Aさんはテレビを見て過ごす時間が多くなった。「買い物や調理が面倒になって、同じものばかり作っています」と言い「退院したころは毎日排便があったのに、最近便秘気味ですっきりしないんです」と訴えた。 訪問看護師の対応で最も適切なのはどれか。
- 1.食事内容を見直す。
- 2.腹部の温罨法を勧める。
- 3.市販の浣腸液の使用を勧める。
- 4.主治医に緩下薬の処方を相談する。
対話形式の解説
博士
今度のAさんはテレビを見て過ごす時間が増え、調理が面倒になって便秘を訴えておる。
サクラ
「同じものばかり作っている」って気になる発言ですね。食事が偏っていそうです。
博士
うむ、便秘の原因を分解すると、食事・水分・活動量・薬剤・排便習慣・骨盤底機能の6つに整理できる。
サクラ
Aさんは降圧薬を飲んでいるので、薬剤性も考えられますか。
博士
降圧薬の中にはカルシウム拮抗薬のように便秘を起こすものもある。ただ、退院当初は毎日排便があったとあるから、内服が直接の原因とは言いにくい。
サクラ
じゃあ最近変わったのは生活パターンと食事内容ですね。
博士
その通り。活動量が落ちると腸蠕動も落ちる、食事が単調になれば食物繊維と水分が減り便のかさが小さくなる。これは典型的な高齢者の機能性便秘じゃ。
サクラ
温罨法はどうでしょうか。お腹を温めると気持ちよさそうですが…。
博士
温罨法は補助的な方法じゃ。便秘の原因に直接介入しないので、第一選択にはならん。腹部膨満感が強いときに食事改善と併用する位置づけじゃ。
サクラ
浣腸は即効性ありそうですけど、看護師が独自に勧めていいんですか。
博士
いかんぞ。市販浣腸を習慣的に使うと排便反射が鈍り、逆に便秘が悪化する。さらに急激な排便で迷走神経反射が起き、降圧薬を内服中の高齢者では血圧低下を招くこともある。
サクラ
緩下薬の処方相談も飛び越えすぎですか。
博士
順番が大事じゃ。便秘ケアは「生活習慣→非薬物→薬物→浣腸・摘便」の階段を上っていく。最初の段で改善できるなら薬は不要じゃ。
サクラ
食事内容の見直しでは、具体的に何を増やすといいですか。
博士
食物繊維は野菜・果物・海藻・きのこ・豆類で1日20g前後、水分は1500mL程度を目安に。冷たい牛乳やヨーグルトで腸を刺激するのも有効じゃな。
サクラ
運動はどうしたら…片麻痺があると難しそうです。
博士
無理せず室内での足踏みや座位での腹筋運動、訪問介護と一緒に近所を散歩するのも立派な運動じゃ。
サクラ
活動量が上がれば食欲も戻り、便通も整う好循環ですね。
博士
さらに便秘改善は「閉じこもり予防」にもつながる。配食サービスや通所介護の活用も視野に入れて多職種で支えるのじゃ。
サクラ
食事を切り口に生活全体を立て直す視点が大切なんですね。
POINT
高齢者の便秘ケアの基本は、薬剤や浣腸ではなく食事・水分・運動・排便習慣の見直しから始めることです。Aさんは活動量低下と食事の偏りが背景にあり、食物繊維と水分の不足、腸蠕動の低下が便秘を引き起こしていると考えられます。温罨法や浣腸、緩下薬は、生活習慣の改善でも効果が得られない段階で検討する選択肢であり、特に降圧薬を内服している高齢者では浣腸による血圧低下リスクにも注意が必要です。看護師は便秘を「お腹の問題」だけでなく「生活全体のサイン」として捉え、配食や通所サービスなど多職種連携も含めて在宅生活全体を整える視点を持つことが求められます。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:<問91〜問93は同一の症例設定に基づきます。各問は前問までの状況を引き継いで解答してください。> 問91はこちら 次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(73歳、女性)は1人で暮らしており、脳梗塞(cerebral infarction)で入院した。Aさんは左半身に麻痺があり、認知機能障害はない。4点杖を使用して歩行が可能となり、住宅改修をして自宅に退院した。退院後は、降圧薬と抗血栓薬が処方され、服薬管理と健康管理の目的で訪問看護を週1回、調理と買い物代行の目的で訪問介護を週1回利用している。Aさんは「昨日、退院して初めて1人で買い物に行ったら転びそうになって、横にいた人に支えてもらったんです」と訪問看護師に話した。 退院から3か月後、Aさんはテレビを見て過ごす時間が多くなった。「買い物や調理が面倒になって、同じものばかり作っています」と言い「退院したころは毎日排便があったのに、最近便秘気味ですっきりしないんです」と訴えた。 訪問看護師の対応で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 1 です。Aさんは活動量の低下と食事内容の単調化が同時に起きており、食物繊維や水分の摂取不足、腸蠕動の低下が便秘の主因と推察されます。便秘への対応は、まず非薬物的アプローチとして食事内容の見直し、水分摂取、運動、排便習慣の調整から始めるのが原則です。食事を整えることで生活全体の活動性回復にもつながり、薬剤に頼らず根本的に改善できる可能性が高くなります。
選択肢考察
-
○ 1. 食事内容を見直す。
Aさん自身が「同じものばかり作っている」と訴えており、食事の偏りと食物繊維・水分不足が便秘の引き金として最も疑われる。生活習慣改善は薬物療法より優先される非侵襲的な第一選択であり、活動量低下への介入の糸口にもなる。
-
× 2. 腹部の温罨法を勧める。
温罨法は腸蠕動を促す補助的方法だが、便秘の根本原因である食事内容や活動量に介入しないため、第一選択にはならない。腹部膨満や腹痛の訴えがある場合に併用するのが一般的である。
-
× 3. 市販の浣腸液の使用を勧める。
浣腸は一時的な対処法で、習慣化すると排便反射が低下する。さらに急激な排便誘発で迷走神経反射による血圧低下を起こすことがあり、降圧薬内服中のAさんには特に注意を要するため、看護師が独自に勧めるのは不適切である。
-
× 4. 主治医に緩下薬の処方を相談する。
緩下薬の使用は生活習慣の見直しで改善しなかった場合の次の段階。最初から薬剤に頼ると本人の生活改善の機会を失い、副作用リスクも増えるため、まず食事・運動・排便習慣の調整を試みる。
高齢者の便秘は、加齢による腸蠕動低下、活動量減少、食事量・水分量の減少、薬剤(降圧薬・抗コリン薬・鉄剤など)、骨盤底筋の機能低下など多因子で起こる。看護師はまずブリストルスケールで便性状を確認し、食事(食物繊維20g/日目安・水分1500mL前後)、運動(散歩・腹筋運動)、排便習慣(食後のトイレ習慣・腹圧のかけ方)を整える。それでも改善しなければ酸化マグネシウムなど浸透圧性下剤、刺激性下剤、漢方薬などへ段階的に進む。Aさんの場合は活動量低下が背景にあるため、配食サービスや通所サービスの利用検討も支援の一環となる。
在宅高齢者の便秘に対する初期対応として、薬剤や浣腸ではなく生活習慣の見直しを優先するという原則を問う問題。
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