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身体拘束とトラウマインフォームドケア ― 尊厳を守る精神科看護

看護師国家試験 第112回 午後 第63問 / 精神看護学 / 安全な治療環境と多職種連携

国試問題にチャレンジ

112回 午後 第63問

精神病床に入院し、身体的拘束が必要となる攻撃性の高い精神疾患患者のケアで正しいのはどれか。

  1. 1.心的外傷<トラウマ>体験を想定して支援を行う。
  2. 2.患者が暴力行為に及んだ場合は積極的に反省を促す。
  3. 3.患者の攻撃性が収まるまで疾患や治療の教育を行うことは避ける。
  4. 4.患者の身体的拘束が解除されてから病棟のスケジュールの説明を行う。

対話形式の解説

博士 博士

今日は精神科で身体拘束が必要となる患者へのケアを考えるぞ。

サクラ サクラ

攻撃性が高い患者さんだと、つい安全のためと割り切ってしまいそうですが…。

博士 博士

そこで問われるのが、拘束そのものが患者にどんな体験をもたらすか、じゃ。正解は1番の『心的外傷<トラウマ>体験を想定して支援を行う』じゃな。

サクラ サクラ

トラウマ体験…拘束されること自体がトラウマになるんですか?

博士 博士

その通り。拘束は身体的苦痛に加え、『人としての尊厳を奪われた』という深い心的外傷を残し得る。しかも攻撃性を示す患者の多くは、過去の虐待・被害などのトラウマ背景を抱えていることが多いのじゃ。

サクラ サクラ

それは『トラウマインフォームドケア』という考え方ですか?

博士 博士

うむ、よく知っておるな。略してTIC。『この人にはトラウマがあるかもしれない』という前提で関わり、再トラウマ化を防ぐ姿勢じゃ。

サクラ サクラ

ほかの選択肢はどこが違うんですか?

博士 博士

2番の『反省を促す』は、暴力の背景が幻覚や妄想といった病的症状の場合、症状と人格を混同した対応になる。まず安全確保と症状評価が優先じゃ。

サクラ サクラ

3番の『攻撃性が収まるまで疾患教育を避ける』は、なんとなく正しそうに思えます。

博士 博士

気持ちは分かるが不正解じゃ。症状や服薬、再発サインの理解はセルフマネジメントの基盤で、理解できる範囲で段階的に進めるのが望ましい。

サクラ サクラ

4番『拘束解除後にスケジュール説明』はどうですか?

博士 博士

これも不正解。拘束中から『この後こうなる』という見通しを伝えることで不安が軽減し、結果的に拘束の早期解除にもつながる。

サクラ サクラ

ところで身体拘束って、法的にはどう決まっているんですか?

博士 博士

精神保健福祉法に基づき、切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たし、精神保健指定医の判断が必要じゃ。2時間以内ごとの観察、深部静脈血栓症や褥瘡の予防も重要な看護ポイントじゃよ。

サクラ サクラ

安全のためとはいえ、常に『拘束しなくて済む方法はないか』と問い続ける姿勢が大切なんですね。

博士 博士

その感覚こそが精神科看護の倫理の核じゃ。身体拘束ゼロへの手引きでも、代替案の検討と早期解除が強調されておる。

POINT

精神病床における身体的拘束は患者の人権に深く関わる行為であり、切迫性・非代替性・一時性という厳格な要件と精神保健指定医の判断のもとでのみ行われます。攻撃性の背景には過去のトラウマや幻覚・妄想などの精神症状があることが多く、拘束自体も重大な心的外傷体験になりうるため、トラウマインフォームドケアの視点での関わりが求められます。拘束中でも目的・見通し・解除後のスケジュールを丁寧に説明し、心理教育を段階的に続けることが、セルフマネジメントと再発予防につながります。安全と尊厳を両立させる関わりこそ、現代の精神科看護の中核といえます。

解答・解説

正解は 1 です

問題文:精神病床に入院し、身体的拘束が必要となる攻撃性の高い精神疾患患者のケアで正しいのはどれか。

解説:正解は 1 です。身体的拘束は患者に強い身体的・精神的苦痛を与え、本人にとって屈辱・恐怖・無力感といった深刻な心的外傷(トラウマ)体験になりうる。このため、精神科看護では『トラウマインフォームドケア』の視点に基づき、拘束以前の生育歴や過去の被害体験も含めた心的外傷を想定し、再トラウマ化を防ぐ関わりを行うことが求められる。

選択肢考察

  1. 1.  心的外傷<トラウマ>体験を想定して支援を行う。

    攻撃性を示す患者の多くは、過去の虐待・暴力・喪失などのトラウマ背景を抱えていることが多い。また身体拘束自体が新たなトラウマになり得るため、トラウマを想定し、目的・必要性・解除の見通しを丁寧に説明するケアが適切である。

  2. × 2.  患者が暴力行為に及んだ場合は積極的に反省を促す。

    暴力行為が幻覚・妄想・易怒性などの精神症状に起因している場合、反省を迫ることは症状と人格を混同した関わりになる。まずは安全確保と症状評価を優先し、なぜ暴力に至ったかを共に振り返る姿勢が必要。

  3. × 3.  患者の攻撃性が収まるまで疾患や治療の教育を行うことは避ける。

    服薬・症状・再発サインの理解は、セルフマネジメントと再発予防の基盤となる。攻撃性がある時期でも、理解できる範囲で段階的に心理教育を進めることが望ましい。

  4. × 4.  患者の身体的拘束が解除されてから病棟のスケジュールの説明を行う。

    拘束中から病棟生活や解除後の見通しを伝えることで、患者は先の予測がつき不安が軽減する。見通しを示すことは拘束の早期解除にもつながる重要な支援である。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)において、身体的拘束は『切迫性・非代替性・一時性』の3要件を満たし、指定医の判断のもとで行われる。厚生労働省の『身体的拘束ゼロへの手引き』や近年の『トラウマインフォームドケア(TIC)』の概念では、看護ケアそのものがトラウマとなり得ることを自覚し、再トラウマ化を予防する関わりが推奨されている。拘束中は2時間以内ごとに観察・記録を行い、深部静脈血栓症や褥瘡の予防も重要である。

攻撃性の高い精神疾患患者への身体的拘束下のケアの基本を問う問題。拘束そのものがトラウマ体験となりうる視点(トラウマインフォームドケア)を理解しているかがカギ。