胃・十二指腸疾患の管理
成人看護学 / 消化器系
解説
今回は胃・十二指腸疾患の管理について解説します。胃と十二指腸は食物の消化が本格的に始まる場所であり、胃酸や消化酵素にさらされる過酷な環境にあります。そのため炎症や潰瘍、悪性腫瘍といった疾患が起こりやすく、看護師には病態の理解だけでなく、治療後の長期的な生活管理まで含めた幅広い知識が求められます。ここではHelicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ)感染症、胃癌の転移経路、胃切除術後の合併症と栄養管理を中心に整理していきます。
ヘリコバクター・ピロリ感染症
ヘリコバクター・ピロリは胃の粘膜に住みつくらせん状のグラム陰性桿菌で、慢性胃炎・胃十二指腸潰瘍・胃MALTリンパ腫・胃癌の主要な原因として知られています。胃内は強酸性(pH1〜2)で通常の細菌は生存できませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を産生し、胃粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解します。アンモニアがアルカリ性であるため菌の周囲が中和され、強酸環境でも生き延びることができます。
検査法
ピロリ菌感染の検査には内視鏡を用いる方法(迅速ウレアーゼ試験、培養法、組織鏡検法)と用いない方法(尿素呼気試験、便中抗原測定、血清・尿中抗体測定)があります。なかでも尿素呼気試験は、^13Cで標識した尿素を内服し、ピロリ菌のウレアーゼによって分解されて呼気中に出てくる^13CO2を測定する検査で、感度・特異度ともに高く、除菌判定にも広く用いられます。
除菌療法
一次除菌はプロトンポンプ阻害薬(PPI)またはボノプラザンにアモキシシリンとクラリスロマイシンを組み合わせた3剤を7日間内服します。これで除菌に成功しなかった場合は、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに置き換えた二次除菌を行います。除菌成功の判定は服薬終了から4週間以上あけて尿素呼気試験や便中抗原検査で確認します。除菌により再発率は大きく低下しますが、すでに進んだ萎縮性胃炎は残るため、除菌後も定期的な胃癌検診が必要です。
胃癌の転移経路
胃癌は進行に伴って多彩な経路で転移します。看護師国家試験では特徴的な転移名がよく問われるため、経路ごとに整理しておきましょう。
リンパ行性転移
胃のリンパ流に沿って所属リンパ節へ転移します。代表的なものに、左鎖骨上窩リンパ節へ転移するVirchow(ウィルヒョウ)転移があります。鎖骨の上にしこりを触れる場合は進行胃癌を疑う重要な所見です。
血行性転移
門脈や全身循環を介して肝臓・肺・骨などに転移します。胃癌は門脈系を介して肝臓へ転移しやすいことが特徴です。
腹膜播種性転移
癌細胞が胃壁を破って腹腔内に散布されて起こります。Krukenberg(クルッケンベルグ)腫瘍は両側卵巣への転移で、若年女性の胃癌で問題となります。ダグラス窩(直腸子宮窩・直腸膀胱窩)にしこりを形成するものをSchnitzler(シュニッツラー)転移、臍部に転移して結節を作るものをMary Joseph(メアリージョセフ)結節と呼びます。
胃切除術後の合併症
胃切除術(幽門側胃切除・胃全摘・胃亜全摘)では胃の貯留・撹拌・消化機能が損なわれるため、術後早期から長期にわたりさまざまな合併症が起こります。
ダンピング症候群
胃の貯留機能が失われ、食物が小腸に急速に流入することで起こる症候群です。発症時期により早期と後期に分けられます。
早期ダンピング症候群は食後30分以内に出現します。高浸透圧の食物が一気に小腸に入ると、血管内から腸管内へ細胞外液が移動し、同時に消化管ホルモンが過剰分泌されます。これにより動悸・めまい・冷汗・顔面紅潮・腹痛・下痢などが生じます。
後期ダンピング症候群は食後2〜3時間で出現します。糖質が急速に吸収されて一過性の高血糖が起こり、これに反応してインスリンが過剰分泌された結果、反応性低血糖を来します。冷汗・手指振戦・脱力・意識障害などの低血糖症状が特徴です。
予防の食事指導としては、1回の摂取量を減らして回数を増やす少量頻回食が基本です。よく噛んでゆっくり食べる、糖質を控えめにする、食事中の水分摂取を控える、食後20〜30分は安静臥床して食物の急速な小腸流入を防ぐ、といった指導を行います。
誤嚥性肺炎
胃亜全摘や胃全摘後は、噴門部の逆流防止機構が損なわれ胃食道逆流が起こりやすくなります。逆流した内容物を就寝中などに誤嚥することで誤嚥性肺炎を発症します。高齢者では義歯不適合による咀嚼・嚥下機能低下も誤嚥の要因となります。予防には、食後30分以上の座位保持、就寝前の食事を避けること、ベッドのヘッドアップ15〜30度、口腔ケアの徹底が重要です。
術後貧血
胃切除後の貧血には時期によって2種類があります。術後早期から数か月で起こるのは鉄欠乏性貧血で、胃酸分泌低下による鉄の吸収障害や十二指腸を経由しない再建(Billroth II法・Roux-en-Y法)が原因です。
一方、術後数年(おおむね5年前後)してから出現するのが、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血です。ビタミンB12は胃の壁細胞から分泌される内因子と結合して回腸末端で吸収されます。胃を切除すると内因子が産生されなくなり、肝臓に蓄えられたビタミンB12が数年かけて枯渇したころに貧血が顕在化します。これを悪性貧血と呼びます。舌乳頭萎縮によるHunter舌炎、四肢のしびれや深部感覚障害といった神経症状を伴うのが特徴で、治療はシアノコバラミンの筋肉内注射を定期的に行います。経口投与では吸収されないため注射が必須です。
まとめ
胃・十二指腸疾患の管理では、ピロリ菌の病態と除菌療法、胃癌の特徴的な転移経路、そして胃切除後の長期合併症を体系的に押さえることが重要です。とくに胃切除後の患者は、ダンピング症候群への食事指導、誤嚥性肺炎予防の体位管理、鉄欠乏性貧血からビタミンB12欠乏性貧血へと移り変わる貧血の経過を念頭に置き、生涯にわたる継続的な看護介入が求められます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
ピロリ菌はという酵素で尿素をアンモニアとCO2に分解し、胃の強酸環境を生き延びる。
- 2.
ピロリ菌の除菌判定に有用な、^13C標識尿素を用いる検査はである。
- 3.
胃癌が左鎖骨上窩リンパ節に転移するものをという。
- 4.
胃癌が両側卵巣に転移するものをと呼ぶ。
- 5.
胃切除後5年程度を経過して欠乏し、巨赤芽球性貧血を引き起こす栄養素はである。
- 6.
ビタミンB12の回腸での吸収には、胃の壁細胞から分泌されるが必要である。
- 7.
ダンピング症候群を予防するための基本的な食事指導は、1回量を減らし回数を増やすである。
- 8.
食後2〜3時間後にインスリン過剰分泌による低血糖症状を起こすものをという。
- 9.
胃亜全摘術後の誤嚥性肺炎の主な原因は、噴門部の逆流防止機構が損なわれることによるである。
