高齢者の薬物動態
老年看護学 / 高齢者の疾患・身体ケア
解説
高齢者の薬物動態とは、加齢に伴う身体機能の変化により、薬の吸収・分布・代謝・排泄の過程が若年成人とは異なる動きを示すことをいいます。今回は高齢者の薬物動態について解説します。
薬物動態の基本(ADME)
体内に入った薬は、吸収(Absorption)・分布(Distribution)・代謝(Metabolism)・排泄(Excretion)という4つの過程をたどります。これらの頭文字を取ってADMEと呼びます。経口薬は消化管から吸収されて血液に乗り、全身に分布し、主に肝臓で代謝されて、最終的には腎臓から尿として排泄されます。この一連の流れのどこかに障害が生じると、薬が効きすぎたり、逆に効かなくなったり、体内に蓄積して中毒を起こしたりします。
薬が効果を発揮する強さの指標として血中濃度半減期があります。これは血液中の薬物濃度が半分になるまでの時間で、半減期が延びるほど薬は体内に長く残り、作用が持続することを意味します。
加齢による身体機能の変化
高齢者では各臓器の機能が低下します。肝血流量の低下により薬を分解する力(代謝能)が落ち、腎機能の低下により尿中への排泄が遅れます。その結果、薬の血中濃度半減期が延長し、薬効が増大したり、体内に蓄積して蓄積中毒を起こすリスクが高まります。腎機能の評価にはクレアチニンクリアランス(Ccr)やeGFRが用いられます。
また、加齢により体組成も変化します。体内の水分量は減少し、体脂肪率は増加します。このため、水溶性薬物(例:ジゴキシン)は分布する水分が少ないため血中濃度が上昇しやすく、脂溶性薬物(例:ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系)は脂肪組織に蓄積して分布容積が増え、作用が遷延します。
アルブミンと遊離型薬物
薬の多くは血液中で血清アルブミンと結合して運ばれますが、効果を発揮するのはアルブミンと結合していない遊離型薬物だけです。高齢者では肝臓の合成能が低下することで血清アルブミンが減少します。すると薬と結合できるアルブミンが少なくなり、遊離型薬物の割合が相対的に上昇するため、経口薬の薬効が強く現れるのです。とくにワルファリンやフェニトインなどアルブミン結合率の高い薬剤では注意が必要です。
ポリファーマシー
高齢者は複数の慢性疾患をもつことが多く、結果として薬剤数が増えます。ポリファーマシーとは単に薬剤数が多いことだけを指すのではなく、多剤併用に伴って薬物有害事象、薬物相互作用、服薬アドヒアランス低下、医療費増大などの臨床的に問題のある状態が生じていることをいいます。厚生労働省の指針では、おおむね6種類以上の併用で有害事象の発生が増えるとされています。
減薬を検討する際の指標として、海外ではSTOPP/START基準やBeers基準が用いられ、日本では日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』に示された『特に慎重な投与を要する薬物リスト』が参考にされます。これにはベンゾジアゼピン系、三環系抗うつ薬、NSAIDs、抗コリン薬などが含まれます。
看護援助のポイント
看護師は、お薬手帳の活用とかかりつけ薬局の推奨、処方の重複・相互作用・有害事象のスクリーニング、一包化や服薬カレンダーといった服薬支援具の提案、生活習慣・認知機能・嚥下機能の評価、多職種カンファレンスでの処方見直しなどを通じて、高齢者の安全な薬物療法を支援します。
まとめ
高齢者では肝血流量や腎機能の低下、血清アルブミンの減少、体脂肪率の増加といった変化により、薬物の代謝・排泄が遅延し、薬効が増大しやすく、蓄積中毒のリスクが高まります。さらに多剤併用によるポリファーマシーが問題となり、適切な評価と減薬の検討、服薬支援が看護師に求められます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
薬物動態は吸収・分布・代謝・排泄の4過程からなり、その頭文字を取ってと呼ぶ。
- 2.
高齢者では肝血流量や腎機能の低下により薬物のが延長し、蓄積中毒のリスクが高まる。
- 3.
高齢者の腎機能評価にはクレアチニンクリアランスやが用いられる。
- 4.
加齢により体内水分量が減少し体脂肪率が増加するため、ジアゼパムなどの薬物は蓄積しやすく作用が遷延する。
- 5.
高齢者で血清が減少すると、薬と結合する蛋白が少なくなり遊離型薬物の血中濃度が相対的に上昇する。
- 6.
血液中でアルブミンと結合せず、実際に薬効を発揮する形態の薬物を薬物という。
- 7.
多剤併用に伴って薬物有害事象や相互作用、服薬アドヒアランス低下などの臨床的問題が生じている状態をという。
- 8.
厚生労働省の指針では、おおむね種類以上の薬剤併用で有害事象が増加するとされる。
- 9.
日本老年医学会のガイドラインで『特に慎重な投与を要する薬物リスト』に含まれる代表例には、ベンゾジアゼピン系、三環系抗うつ薬、抗コリン薬、などがある。
