高齢者の体温調節と熱中症
地域・在宅看護論 / 在宅生活支援・その他
解説
今回は高齢者の体温調節と熱中症について解説します。高齢者は加齢に伴う身体機能の変化により若年者と比べて熱中症を起こしやすく、しかも重症化しやすいという特徴があります。看護師は、その生理学的な理由と予防・対応の基本を理解しておく必要があります。
体温調節のしくみ
ヒトの体温は、視床下部にある体温調節中枢が外気温や深部体温の情報を受け取り、自律神経を介して産熱と放熱のバランスを調整することで一定に保たれています。暑い環境では、皮膚血管の拡張によって体表面からの熱放散を促し、さらに発汗によって気化熱を奪うことで体温を下げます。寒い環境では、皮膚血管の収縮で熱放散を抑え、ふるえや基礎代謝の亢進で産熱を増やします。これらは意識せずに行われる自律性体温調節反応と呼ばれます。 また、暑さや寒さを感じて衣服を調整したり、冷房をつけたりする行動は行動性体温調節と呼ばれ、自律性体温調節を補う重要な役割を担っています。
高齢者で体温調節機能が低下する理由
高齢者では、加齢によって自律神経機能が低下し、皮膚血管拡張反応や発汗反応が鈍くなります。汗腺の数自体は変わらないものの、機能している能動汗腺の数が減り、発汗開始までの時間も延長するため、放熱効率が低下します。 さらに、皮膚の温度感受性が低下するため、暑さを暑いと感じにくくなります。その結果、室温が高くなっても冷房を使う、衣服を脱ぐといった行動性体温調節が遅れてしまいます。加えて、口渇中枢の感度も鈍くなるため、体内の水分が不足しても喉の渇きを自覚しにくく、自発的な水分摂取が遅れて脱水に陥りやすくなります。体内の総水分量自体も若年者の約60%から高齢者では約50%まで低下しており、わずかな水分喪失でも脱水が進行しやすい身体状態にあります。 降圧薬や利尿薬、抗精神病薬などを内服している高齢者では、薬剤の作用によって体液量や血管反応がさらに変化し、熱中症リスクが一段と高まります。
熱中症の病態と分類
熱中症とは、高温多湿環境下で体温調節機構が破綻し、体温の上昇や脱水、電解質異常によってさまざまな症状を呈する状態の総称です。日本救急医学会は重症度に応じてⅠ度からⅢ度に分類しています。Ⅰ度は現場での対応で改善する軽症で、めまい、立ちくらみ、こむら返り、大量発汗などがみられます。Ⅱ度は医療機関での受診が必要な中等症で、頭痛、嘔気、嘔吐、倦怠感、集中力低下などを伴います。Ⅲ度は入院による集中治療が必要な重症で、意識障害、けいれん、肝・腎機能障害、高体温などがみられます。 高齢者で特に注意したいのが、運動や労作とは無関係に、室内で起こるうつ熱による熱中症です。冷房を使わずに過ごしている独居高齢者や、臥床傾向の慢性疾患患者で多く発生します。
看護のポイントと予防
高齢者への予防指導では、喉の渇きを自覚する前に定時に水分を摂取してもらうことが重要です。室温は28℃以下、湿度は50〜60%を目安に冷房や除湿を活用し、衣服も体温に応じてこまめに調整します。独居高齢者には家族や訪問看護師による声かけと見守りを行い、尿量や尿の色、口唇の乾燥、皮膚のツルゴール反応などから脱水兆候を早期に把握します。 熱中症が疑われる場合は、まず涼しい環境への移動と環境調整を最優先とし、衣服をゆるめて頸部・腋窩・鼠径部など太い動脈が走行する部位を冷却することで効率的に深部体温を下げます。意識が清明で嘔気がなければ経口補水液で水分と電解質を補給しますが、意識障害や嘔吐を伴う場合は経口摂取を避け、医療機関への搬送と輸液療法の対象となります。心不全患者では飲水量に制限があるため、医師の指示の範囲内で補液を行う配慮も必要です。
まとめ
高齢者は自律神経機能の低下による発汗・皮膚血管拡張反応の低下、温度感受性の低下、口渇中枢の感度低下、体内水分量の減少といった複数の要因が重なり、若年者よりも熱中症を起こしやすく重症化しやすい状態にあります。予防には定時の水分摂取と室温・湿度の管理、行動性体温調節の支援が不可欠であり、発症時には涼しい環境への移動と頸部・腋窩・鼠径部の冷却が応急処置の基本となります。在宅の高齢者では、本人が暑さや渇きを感じにくい点を踏まえ、看護師や家族による環境調整と見守りが最大の予防策となります。
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- 1.
高齢者は加齢に伴う自律神経機能の低下によって発汗反応や皮膚血管拡張反応が低下し、機能が衰えるため熱中症を起こしやすい。
- 2.
高齢者は皮膚のが低下しているため暑さを感じにくく、行動性体温調節が遅れることで熱中症のリスクが高まる。
- 3.
高齢者ではの感度が低下しているため、体内の水分が不足しても喉の渇きを自覚しにくく脱水に陥りやすい。
- 4.
熱中症は重症度によりⅠ度〜Ⅲ度に分類され、意識障害やけいれん、高体温を伴い入院治療が必要な重症はに分類される。
- 5.
運動や労作とは無関係に、高温多湿の室内で体内に熱がこもることで生じる熱中症の病態をという。
- 6.
熱中症が疑われる患者を冷却する際は、太い動脈が走行する頸部・を冷やすことで効率的に深部体温を下げることができる。
- 7.
高齢者の熱中症予防では室温を℃以下、湿度を50〜60%程度に調整することが目安となる。
- 8.
意識が清明で嘔気のない軽症の熱中症患者には、水分と電解質を同時に補えるの摂取を促す。
