老年期の発達理論
老年看護学 / 老年看護総論・その他
解説
老年期の発達理論とは、人生の最終段階に位置づけられる高齢期において、人がどのような心理的・社会的課題に直面し、それをどのように乗り越えていくのかを体系的に説明した理論の総称です。看護では、高齢者の言動や心理状態を理解し、その人らしい生き方を支援するための重要な基礎知識となります。
発達課題・発達理論とは
発達とは、受精から死に至るまでの生涯にわたる心身の変化のことであり、それぞれの時期に達成すべき課題を発達課題とよびます。発達課題を達成できれば次の段階へ円滑に移行できますが、達成できないと適応上の困難が生じやすくなります。看護師は、対象者がどの発達段階にあり、どのような課題に取り組んでいるかを理解したうえでケアを行う必要があります。
ハヴィガーストの発達課題論
ハヴィガースト(Havighurst)は、人生を乳幼児期・児童期・青年期・壮年期(成人初期)・中年期・老年期の6段階に分け、各段階の発達課題を提示しました。老年期の課題としては、(1)肉体的な力と健康の衰退への適応、(2)退職と収入の減少への適応、(3)配偶者の死への適応、(4)同年代の人と明るく親密な関係を結ぶこと、(5)社会的・市民的義務の引き受け、(6)身体的に満足な生活環境の確立、の6つが挙げられています。喪失体験への適応と、新たな役割や人間関係の再構築が中心となります。
エリクソンの心理社会的発達理論
エリクソン(Erikson)は、ライフサイクルを8段階に分け、各段階に固有の心理社会的危機があると述べました。すなわち、(1)乳児期「基本的信頼 対 不信」、(2)幼児期初期「自律性 対 恥・疑惑」、(3)幼児期「積極性(自主性) 対 罪悪感」、(4)学童期「勤勉性 対 劣等感」、(5)青年期「同一性(アイデンティティ)確立 対 同一性拡散」、(6)成人前期「親密性 対 孤立」、(7)成人期(壮年期)「生殖性(世代性) 対 停滞」、(8)老年期「統合 対 絶望」です。
老年期の課題である「統合 対 絶望」とは、これまでの自分の人生を振り返り、満足できなかった部分も含めて受け入れ、唯一無二のものとして肯定できるかが問われる段階です。これを達成して獲得される徳が**知恵(wisdom)**です。受け入れができない場合、絶望や死への恐怖が強まります。
ペックの老年期3つの危機
ペック(Peck)はエリクソン理論を発展させ、老年期を3つの危機で整理しました。すなわち、(1)引退の危機としての「自我の分化 対 仕事役割への固執」、(2)身体的健康の危機としての「身体の超越 対 身体への没入」、(3)死の危機としての「自我の超越 対 自我への没入」です。仕事役割や身体機能、自己への執着を超え、より広い価値の中に自分を位置づけられるかが重要となります。
その他の主要理論
レビンソンは成人発達を四季にたとえ「人生の四季」として記述しました。ユングは40歳前後を「人生の正午」とよび、自己実現に向かう個性化の過程を重視しました。バルテスは加齢に適応するための方略として、目標を選び(Selection)、資源を最適化し(Optimization)、衰えを補う(Compensation)というSOC理論を示しました。バトラーは過去を振り返り意味づけるライフレビューを提唱しました。
社会的活動との関連では、加齢に伴い社会的役割から退いていくことを自然な適応とみなす離脱理論(カミングとヘンリー)と、活動を維持することが幸福につながるとする活動理論が対比的に語られます。
加齢と認知機能
知能はキャッテルとホーンによって、新しい情報の処理や推論にかかわる流動性知能と、経験や学習で蓄積された知識にかかわる結晶性知能に分けられます。流動性知能は神経基盤に依存し加齢とともに低下しますが、結晶性知能は加齢の影響を受けにくく、高齢期まで維持されやすいとされます。
まとめ
老年期は喪失と向き合う時期であると同時に、人生を統合し知恵を獲得する時期でもあります。ハヴィガーストの発達課題、エリクソンの「統合 対 絶望」、ペックの3つの危機、バルテスのSOC理論などの枠組みを理解することで、高齢者一人ひとりの体験を尊重した看護援助につなげることができます。
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- 1.
ハヴィガーストは人生を6段階に分け、各段階のを示した。 老年期の課題には、肉体的な力と健康の衰退への適応、退職と収入の減少への適応、への適応などが含まれる。
- 2.
エリクソンはライフサイクルを段階に分け、各段階に固有の心理社会的危機があるとした。 老年期の心理社会的危機は「 対 絶望」であり、この段階で獲得される徳は(wisdom)である。
- 3.
エリクソンの発達理論において、青年期の心理社会的危機は「(アイデンティティ)確立 対 同一性拡散」である。 成人前期の課題は「 対 孤立」である。
- 4.
ペックは老年期を3つの危機で整理し、引退の危機としての「自我の分化 対 への固執」、身体的健康の危機としての「 対 身体への没入」、死の危機としての「自我の超越 対 自我への没入」を示した。
- 5.
バルテスは、加齢への適応方略として目標の選択(Selection)、資源の最適化(Optimization)、衰えの補償(Compensation)からなる理論を提唱した。 バトラーは、高齢者が過去を振り返り意味づけを行うを提唱した。
- 6.
キャッテルとホーンは知能を、新しい情報処理にかかわり加齢とともに低下しやすい知能と、経験や学習の蓄積によって加齢後も維持されやすい知能に分類した。
- 7.
ユングは40歳前後を「人生の」とよび、自己実現に向かう個性化の過程を重視した。 カミングとヘンリーは、加齢に伴い社会的役割から退いていくことを自然な適応とみなす理論を提唱した。
