手術体位と神経障害
成人看護学 / 周術期・救急
解説
手術体位による神経障害は、全身麻酔下で患者自身が痛みや痺れを訴えられないことから発生する周術期合併症で、手術室看護師が予防・観察すべき重要項目です。麻酔薬と筋弛緩薬の作用により、筋緊張による生理的な防御反射が消失するため、不自然な肢位や圧迫が長時間続いても患者は体位を変えることができません。その結果、末梢神経が走行する部位に持続的な圧迫や牽引が加わり、術後にしびれや運動麻痺として顕在化します。
末梢神経障害が起こる仕組み
体表に近く骨の上を走行する末梢神経や、関節をまたいで張力を受けやすい神経は、手術体位による障害を受けやすい特徴があります。障害の機序は大きく圧迫と牽引に分けられ、いずれも神経内の血流が途絶えることで神経線維が変性します。手術時間が長くなるほど発症頻度は上昇しますが、30分程度の比較的短い手術でも発生し得るため、体位固定の段階から細やかな配慮が必要となります。代表的な圧迫・牽引部位は、腋窩を通る腕神経叢、上腕骨中央外側の橈骨神経、肘内側の尺骨神経、腓骨頭外側の総腓骨神経です。
仰臥位で起こる神経障害
仰臥位は最も基本的な手術体位ですが、上肢の固定方法を誤ると神経障害を引き起こします。最も多いのが腕神経叢麻痺で、第5頸神経から第1胸神経(C5〜T1)の前枝で構成される腕神経叢が、鎖骨と上腕骨頭の間で過度に牽引されることで生じます。上肢を90度以上外転させた状態で固定し、さらに頭部を反対側に向けると牽引が増強し、麻痺の危険が高まります。手術台に取り付けた手台で上肢を支える際は、外転角度を90度以内に保つことが原則です。
また、仰臥位で肩関節を内旋させた体位では、肘部内側の上腕骨内側上顆と肘頭の間にある肘部管で尺骨神経が圧迫されやすくなります。尺骨神経は薬指の尺側半分と小指の知覚を支配しているため、術後にこの領域のしびれを訴えた場合は尺骨神経麻痺を疑います。予防には肘部にパッドを当て、前腕を回外位に保ち、肩関節の内旋を避けることが有効です。
砕石位で起こる神経障害
砕石位は仰臥位から両下肢を挙上・外転させ、膝を屈曲して支脚器に固定する体位で、婦人科・泌尿器科・肛門直腸の手術で用いられます。この体位で最も問題となるのが総腓骨神経麻痺です。総腓骨神経は腓骨頭の外側を表層近くで走行しており、支脚器が下腿外側に当たることで圧迫を受けます。総腓骨神経は足関節の背屈と足趾の伸展を支配するため、麻痺すると足が下垂したまま背屈できない**尖足(下垂足)**と、下腿外側から足背にかけての感覚障害が出現します。
砕石位ではほかにも、下肢挙上による静脈うっ滞からコンパートメント症候群や深部静脈血栓症が起こり得ます。下肢を下ろす際には急激な血圧低下にも注意が必要です。予防策として、支脚器のパッド貼付、腓骨頭部の圧迫回避、左右同時の下肢挙上・下降、長時間手術での下肢一時下降などが推奨されます。
まとめ
手術体位による末梢神経障害は、麻酔下で患者が訴えられない状況下で発生するため、看護師による予防的介入が極めて重要です。仰臥位では上肢外転による腕神経叢麻痺と肘部管での尺骨神経麻痺、砕石位では支脚器による総腓骨神経麻痺が三大体位性神経障害として頻出します。神経の走行と圧迫・牽引が起こる解剖学的部位を理解し、適切なパッドや支持具で保護することが、術後の機能障害を防ぐ鍵となります。術後は障害が疑われる神経の支配領域について感覚と運動を観察し、早期発見に努めます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
仰臥位で上肢を90度以上外転して固定した際に過伸展・牽引され、麻痺をきたしやすい神経叢はである。
- 2.
腕神経叢は第5頸神経から第1胸神経までのの前枝から構成される。
- 3.
砕石位で支脚器による腓骨頭外側の圧迫により麻痺を起こしやすい神経はである。
- 4.
総腓骨神経麻痺で生じる、足関節が背屈できず下垂したままになる状態を(下垂足)という。
- 5.
薬指の尺側半分と小指のしびれを呈する場合、障害が疑われる神経はである。
- 6.
尺骨神経が上腕骨内側上顆と肘頭の間で圧迫を受けやすい部位をという。
- 7.
砕石位で下肢挙上後に下肢を下ろす際に注意すべき循環変動として、急激なが挙げられる。
- 8.
総腓骨神経の支配領域として、足関節のと足趾の伸展がある。
