患者の権利とリスボン宣言
基礎看護学 / 看護倫理・看護師法規
解説
患者の権利とは、医療を受けるすべての人が人間として尊重され、自らの治療について主体的に関わるために認められた基本的な権利のことです。今回は、看護師国家試験で頻出となるリスボン宣言を中心に、患者の権利と関連する医療倫理について解説します。
患者の権利が重視される背景
かつての医療は、医師が判断し患者はそれに従うというパターナリズム(父権主義)が中心でした。しかし、第二次世界大戦中の非人道的な人体実験への反省や、医療技術の高度化に伴って、患者を一人の人格として尊重し、自己決定を支える考え方が広がりました。看護師は患者に最も近い立場で関わる職種であり、これらの権利を理解し擁護するアドボケーター(権利擁護者)としての役割を担います。
リスボン宣言とは
リスボン宣言は、1981年にポルトガルのリスボンで開催された第34回**世界医師会(WMA)**総会で採択された宣言で、正式名称は「患者の権利に関するリスボン宣言」です。1995年にインドネシアのバリ島で開かれた総会で大幅に改訂され、現在の形になりました。患者の権利を国際的に明文化した代表的な宣言として位置づけられています。
リスボン宣言が定める患者の権利
リスボン宣言は患者の権利を11項目にまとめています。具体的には、良質の医療を受ける権利、医師や医療機関、治療法を自由に選ぶ選択の自由の権利、自分の治療方針を自分で決める自己決定の権利、意識のない患者への配慮、法的無能力の患者に対する保護、患者の意思に反する処置への配慮、自己の医療情報を知る情報に対する権利、個人情報を守る守秘義務の権利、健康教育を受ける権利、人としての尊厳性への権利、そして宗教的支援を受ける権利です。
混同しやすい医療倫理に関する宣言
国家試験では、似た名前の宣言や綱領との区別が問われます。1947年のニュルンベルク綱領は、ナチス・ドイツによる人体実験への反省から生まれた研究倫理の原点で、被験者の自発的同意を必須としました。1948年のジュネーブ宣言は、ヒポクラテスの誓いを現代化した医師の職業倫理の誓いです。1964年のヘルシンキ宣言は、人を対象とする医学研究の倫理原則を定めたもので、研究に関する基本文書です。そして1981年のリスボン宣言は、研究ではなく日常の診療における患者の権利を定めたものです。年代の順に並べると、ニュルンベルク、ジュネーブ、ヘルシンキ、リスボンとなり、それぞれの目的を区別して覚えることが大切です。
インフォームド・コンセント
インフォームド・コンセントは、患者が病状や治療について十分な説明を受け、内容を理解したうえで自らの意思で治療に同意するプロセスを指します。日本語では「説明と同意」と訳されますが、本質は一度きりの同意ではなく、対話を重ねる継続的な過程です。リスボン宣言の自己決定の権利を実現するための具体的な手段といえます。本人に判断能力がある場合は本人の意思が最優先され、小児や意識不明、重度の認知症など判断能力を欠く場合には、家族などによる代諾が行われます。
代理意思決定の原則
本人に判断能力がなく家族などが代わって意思決定を行うことを代理意思決定といいます。代理意思決定で最も重視されるのは、家族自身の希望ではなく、本人がもし判断できる状態であればどう望んだかという本人の推定意思を尊重することです。事前の発言や生活上の価値観、これまでの選択をもとに本人にとって最善と思える選択を導きます。また、いったん決定した内容も状況の変化に応じて変更可能であり、病状の進行や本人の意思表示の回復、家族の心境の変化が生じた場合には、繰り返し話し合って意思決定を見直すことが大切です。これは厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」でも基本的な考え方として示されています。
セカンドオピニオン・情報開示・守秘義務
セカンドオピニオンとは、主治医以外の医師に意見を求めることで、リスボン宣言における選択の自由に含まれる権利です。主治医を否定するものではなく、患者がより納得して治療を選ぶための仕組みです。
情報に対する権利として、患者は自分の診療記録の開示を請求できます。日本では個人情報保護法により、医療機関は患者本人からの開示請求に応じる義務があります。
一方で、医療者には守秘義務が課せられ、業務上知り得た患者の情報を正当な理由なく他に漏らすことは許されません。違反した場合、医師や薬剤師などは刑法第134条、看護師は保健師助産師看護師法第42条の2により罰則の対象となります。
日本における患者の権利の位置づけ
日本には患者の権利に関する単独の法律はありませんが、医療法が良質な医療提供の責務を定め、個人情報保護法が医療情報の取り扱いを規律しています。多くの医療機関は独自に「患者の権利章典」を作成して院内に掲示し、リスボン宣言の理念を実務に取り入れています。
まとめ
患者の権利を国際的に示した中核文書が1981年採択のリスボン宣言であり、その実現手段がインフォームド・コンセントやセカンドオピニオンです。判断能力を欠く患者に対しては、本人の推定意思を尊重した代理意思決定が原則となり、状況の変化に応じて何度でも見直すことができます。ニュルンベルク綱領、ジュネーブ宣言、ヘルシンキ宣言との違いを年代と目的で整理し、看護師として患者の自己決定を支える視点を持つことが、国家試験対策にも臨床実践にも欠かせません。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
リスボン宣言が採択された年はである。
- 2.
リスボン宣言は第34回総会で採択された。
- 3.
リスボン宣言の正式名称は「患者のに関するリスボン宣言」である。
- 4.
主治医以外の医師に意見を求めることをという。
- 5.
患者が十分な説明を受け理解したうえで治療に同意するプロセスをという。
- 6.
1947年に研究倫理の原点として採択されたのはである。
- 7.
1964年に人を対象とする医学研究の倫理原則を定めたのはである。
- 8.
ヒポクラテスの誓いを現代化した1948年の医師の誓いはである。
- 9.
看護師の守秘義務は第42条の2に規定されている。
- 10.
患者の権利を擁護する看護師の役割をという。
- 11.
本人に判断能力がない場合に家族などが代わって行う意思決定では、家族の希望ではなくを尊重することが原則である。
- 12.
代理意思決定で一度決定した内容も、病状や本人の意思表示の変化など状況に応じてであり、繰り返し話し合うことが大切である。
