食事摂取基準とビタミン
健康支援と社会保障制度 / 健康増進・疾病予防
解説
今回は食事摂取基準とビタミンについて解説します。
日本人の食事摂取基準
日本人の食事摂取基準とは、健康な個人や集団を対象に、国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために、エネルギーおよび各栄養素の摂取量の基準を示したものです。厚生労働省が策定しており、5年ごとに改定されます(2015年版、2020年版、2025年版など)。 食事摂取基準では、栄養素について次の5つの指標が用いられます。推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量、目標量の5指標です。このうち**耐容上限量(UL:Tolerable Upper Intake Level)**とは、過剰摂取による健康障害のリスクがないとされる習慣的な摂取量の上限を意味します。耐容上限量を超えて摂取し続けると健康被害が生じる可能性があるため、サプリメントの不適切な使用などに注意が必要です。
身体活動レベルと推定エネルギー必要量
推定エネルギー必要量は、基礎代謝量×身体活動レベルで算出されます。身体活動レベルは次の3段階に分類されます。 レベルⅠ(低い、1.50)は、生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合です。レベルⅡ(ふつう、1.75)は座位中心でも通勤・家事・軽いスポーツなどを含む場合、レベルⅢ(高い、2.00)は移動や立位の多い仕事、あるいは活発な運動習慣をもつ場合です。 2015年版では、身体活動レベルⅠの70歳以上男性の推定エネルギー必要量は1,850 kcal/日と示されています。同年代でレベルⅡなら2,200 kcal/日、レベルⅢなら2,500 kcal/日が目安です。高齢者では身体活動レベルが下がりやすく、エネルギー必要量も低下する点を押さえておきます。
ビタミンの分類
ビタミンとは、微量で生体の代謝を調節する有機化合物で、体内ではほとんど合成できないため食事から摂取する必要があります。ビタミンは大きく脂溶性と水溶性に分けられます。 脂溶性ビタミンはビタミンA・D・K・Eの4種類で、頭文字をとって「DAKE」と覚えます。脂溶性ビタミンは脂質とともに吸収され、肝臓などに蓄積しやすいため、過剰摂取で健康障害を起こしやすい性質があります。 水溶性ビタミンはビタミンB群(B1・B2・B6・B12・ナイアシン・葉酸・パントテン酸・ビオチン)とビタミンCです。水溶性のため、過剰分は尿中へ排泄されやすく、原則として蓄積しにくいのが特徴です。
耐容上限量が設定されているビタミン
耐容上限量が設定されているのは、過剰摂取による健康障害が報告されているビタミンに限られます。脂溶性ではA・D・Eに設定されています(Kは設定なし)。水溶性ではナイアシン・B6・葉酸に設定されています。 一方、ビタミンB1・B2・Cは通常の食事で過剰摂取しても尿中に排泄されやすく、健康障害のリスクが低いため耐容上限量は設定されていません。サプリメントの普及により脂溶性ビタミンの過剰摂取が問題となることがあるため、耐容上限量の意義を理解しておくことが大切です。
脂溶性ビタミンの作用と欠乏・過剰
ビタミンAは視覚機能の維持や上皮組織の保護に働きます。欠乏すると暗所での視力低下、すなわち夜盲症を生じます。過剰摂取では頭蓋内圧亢進、皮膚乾燥、肝障害のほか、妊娠初期では催奇形性が問題となります。 ビタミンDはカルシウムとリンの腸管吸収を促進し、骨形成に寄与します。欠乏すると小児ではくる病、成人では骨軟化症を引き起こします。過剰摂取では高カルシウム血症、腎石灰化、腎障害を生じます。 ビタミンE(トコフェロール)は強力な抗酸化作用をもち、細胞膜の脂質過酸化を防ぎます。欠乏すると赤血球膜が壊れやすくなり、溶血性貧血を起こします。 ビタミンKは血液凝固因子(第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子)の合成に必要です。欠乏すると出血傾向を生じ、新生児では消化管出血である新生児メレナが起こります。抗凝固薬ワルファリンを服用している患者ではビタミンKを多く含む納豆・青汁・クロレラの摂取を避けるよう指導します。
水溶性ビタミンの作用と欠乏
ビタミンB1(チアミン)は糖代謝の補酵素として、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換に関与します。欠乏すると脚気、ウェルニッケ脳症、コルサコフ症候群、乳酸アシドーシスを生じます。アルコール多飲、極端な偏食、長期の高カロリー輸液はB1欠乏の代表的な背景です。 ビタミンB2の欠乏では口角炎・口唇炎、ビタミンB6の欠乏では皮膚炎や末梢神経障害がみられます。ビタミンB12の欠乏では、内因子不足による吸収障害(悪性貧血)で巨赤芽球性貧血や亜急性連合性脊髄変性症を生じます。 ビタミンCの欠乏ではコラーゲン合成障害により壊血病を起こし、歯肉出血や創傷治癒遅延がみられます。ナイアシンの欠乏では皮膚炎・下痢・認知症を三徴とするペラグラが知られています。 葉酸の欠乏では巨赤芽球性貧血を生じ、妊娠初期の欠乏は胎児の神経管閉鎖障害の原因となるため、妊娠を計画する女性には妊娠1か月以上前から400μg/日の付加摂取が推奨されています。なお、葉酸の過剰摂取はビタミンB12欠乏症の神経症状をマスクするため、耐容上限量が設定されています。
脚気と膝蓋腱反射
膝蓋腱反射は、L2〜L4レベルの大腿神経を介する伸張反射です。ビタミンB1欠乏による脚気では末梢神経障害が生じ、膝蓋腱反射は低下・消失します。同様に糖尿病性末梢神経障害、ギラン・バレー症候群、腰部脊柱管狭窄症などでも腱反射は低下します。 一方、反射が亢進する場合は脳梗塞や脊髄損傷といった上位運動ニューロン障害を疑います。腱反射の低下・亢進から障害部位を推定できる点は国試で頻出です。
まとめ
日本人の食事摂取基準は厚生労働省が5年ごとに改定し、推定平均必要量・推奨量・目安量・耐容上限量・目標量の5指標を示します。推定エネルギー必要量は基礎代謝量×身体活動レベル(Ⅰ1.50/Ⅱ1.75/Ⅲ2.00)で求めます。ビタミンは脂溶性のDAKE(A・D・K・E)と水溶性のB群・Cに分かれ、耐容上限量はA・D・Eとナイアシン・B6・葉酸に設定されています。脂溶性ビタミンの欠乏(A:夜盲症、D:くる病・骨軟化症、E:溶血性貧血、K:出血傾向)と水溶性ビタミンの欠乏(B1:脚気・ウェルニッケ脳症、B12:悪性貧血、C:壊血病、ナイアシン:ペラグラ、葉酸:神経管閉鎖障害)を整理し、過剰症(Aの催奇形性、Dの高カルシウム血症)やワルファリンと納豆の相互作用、脚気での膝蓋腱反射低下といった臨床的重要事項を確実に押さえましょう。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
食事摂取基準において、過剰摂取による健康障害のリスクがないとされる摂取量の上限をという。
- 2.
推定エネルギー必要量は、基礎代謝量にを乗じて算出する。身体活動レベルⅠ(低い)は1.50、Ⅱは1.75、Ⅲは2.00である。
- 3.
脂溶性ビタミンはの4種類で、頭文字をとってDAKEと覚える。これらは体内に蓄積しやすい。
- 4.
脂溶性ビタミンのうち耐容上限量が設定されていないのはである。水溶性ではナイアシン・B6・葉酸に耐容上限量が設定されている。
- 5.
ビタミンA欠乏では暗所での視力低下、すなわちがみられる。妊娠初期の過剰摂取は催奇形性が問題となる。
- 6.
ビタミンD欠乏では小児で、成人で骨軟化症を生じる。過剰摂取では高カルシウム血症や腎障害をきたす。
- 7.
強い抗酸化作用をもち、欠乏すると溶血性貧血を引き起こす脂溶性ビタミンはである。
- 8.
血液凝固因子Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹの合成に必要で、欠乏すると新生児メレナを起こすビタミンはである。ワルファリン服用者は納豆の摂取を避ける。
- 9.
ビタミンB1欠乏により末梢神経障害をきたした脚気では、膝蓋腱反射はする。
- 10.
葉酸の欠乏は巨赤芽球性貧血のほか、胎児のの原因となるため、妊娠前から付加摂取が推奨される。
