胸痛と頭痛の鑑別
成人看護学 / 周術期・救急
解説
今回は胸痛と頭痛の鑑別について解説します。胸痛と頭痛は救急外来や病棟でよく遭遇する症状ですが、その背景には命にかかわる重大な疾患から比較的軽症のものまで幅広い原因が隠れています。看護師としては、各疾患の代表的な症状の特徴を整理し、患者の訴えからどのような疾患を疑うべきかを判断できることが求められます。
胸痛をきたす疾患の整理
胸痛とは、前胸部や側胸部、背部などに感じる痛みの総称です。胸壁・心臓・大血管・肺・胸膜・食道・縦隔など、胸郭内にあるさまざまな臓器が原因となります。とくに見逃してはならない緊急性の高い胸痛は「killer chest pain」と呼ばれ、急性心筋梗塞、急性大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸、食道破裂の5つが代表的です。これらは短時間で生命を脅かすため、迅速な鑑別と対応が必要となります。
急性心筋梗塞
急性心筋梗塞とは、冠動脈がアテローム血栓などによって急に閉塞し、その血管が灌流していた領域の心筋が虚血に陥り壊死する疾患です。典型症状は30分以上持続する強い前胸部痛で、絞扼感(締めつけられる感じ)や圧迫感として表現されます。冷汗、悪心、嘔吐、呼吸困難を伴い、左肩・頸部・下顎などへの放散痛がみられることが特徴です。狭心症とは異なり、ニトログリセリンを舌下しても胸痛が改善しない点が重要な鑑別点となります。高齢者や糖尿病患者では典型的な胸痛を伴わない無痛性心筋梗塞もあるため注意が必要です。
狭心症
狭心症は、冠動脈の狭窄により心筋が一過性に虚血状態となり胸痛を生じる疾患です。労作時に出現する安定狭心症、安静時にも出現し心筋梗塞へ移行する危険のある不安定狭心症、冠動脈の攣縮で起こる異型狭心症(冠攣縮性狭心症)に分類されます。胸痛は数分から長くても15分以内におさまり、ニトログリセリンの舌下が有効です。放散痛は左前胸部から頸部・左肩・左上肢内側・下顎などへ広がり、内臓知覚神経と体性感覚神経が脊髄後角で収束することで生じる関連痛の代表例として知られます。
その他の胸痛をきたす疾患
急性大動脈解離は大動脈の内膜に亀裂が生じ、中膜内に血液が流入することで激しい引き裂かれるような胸背部痛を生じます。肺塞栓症は深部静脈血栓が肺動脈を閉塞し、突然の呼吸困難と胸痛を起こします。緊張性気胸では患側胸痛と呼吸困難に加え、気管偏位や血圧低下がみられます。
頭痛をきたす疾患の整理
頭痛は一次性頭痛と二次性頭痛に分けられます。一次性頭痛には片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛があり、二次性頭痛は基礎疾患を背景に生じます。急性に発症し緊急対応が必要な頭痛としては、くも膜下出血、脳出血、髄膜炎、そして眼科疾患である急性閉塞隅角緑内障などが挙げられます。
急性閉塞隅角緑内障
急性閉塞隅角緑内障とは、眼内を循環する房水の流出路である隅角が突然閉塞し、眼圧が急上昇する疾患です。眼圧が60mmHgを超えることもあり、激しい眼痛と同側の頭痛、悪心・嘔吐、視力低下、霧視、結膜充血、瞳孔散大などをきたします。中高年女性、遠視眼、浅前房の人に多く、暗所での散瞳や精神的緊張が誘因となります。頭痛と嘔吐が前面に出るため、消化器疾患や脳血管障害と誤診されやすい点が要注意です。治療は縮瞳薬(ピロカルピン)、高浸透圧薬、炭酸脱水酵素阻害薬で眼圧を下げ、根本治療としてレーザー虹彩切開術や周辺虹彩切除術を行います。
くも膜下出血
くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂が主な原因で、「バットで殴られたような」突然の激しい頭痛で発症します。意識障害や項部硬直を伴うことが多く、緊急対応が必要です。
鑑別のポイント
胸痛では、痛みの部位・性状・持続時間・放散の有無・誘因・随伴症状を丁寧に問診することが重要です。とくに放散痛の有無は虚血性心疾患を疑う重要な手がかりとなります。頭痛では、突然発症か徐々に発症か、これまでに経験したことのない強さか、随伴症状(嘔吐、視力障害、麻痺、意識障害)の有無を確認します。眼痛や視力低下を伴う頭痛では緑内障発作を、突然の激しい頭痛ではくも膜下出血を必ず鑑別に挙げます。
まとめ
胸痛をきたす代表疾患のうち、急性心筋梗塞は30分以上続く前胸部痛と放散痛・冷汗を特徴とし、狭心症は左前胸部から頸部・左肩・左上肢への放散痛を生じます。頭痛をきたす疾患では、急性閉塞隅角緑内障が眼痛・頭痛・悪心嘔吐・視力低下を伴って急性発症する点が国試で問われます。各疾患の代表的な症状パターンと放散痛の分布を整理し、患者の訴えから緊急性の高い疾患を見逃さないことが看護師に求められる鑑別の要点です。
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- 1.
急性心筋梗塞では30分以上持続する前胸部痛とともに、左肩や頸部、下顎などへ広がるがみられることが特徴である。
- 2.
急性心筋梗塞の胸痛は、狭心症と異なりの舌下が無効である点が重要な鑑別点となる。
- 3.
左前胸部から頸部・左肩・左上肢内側・下顎へ広がる放散痛を生じる代表的な虚血性心疾患はである。
- 4.
内臓知覚神経と体性感覚神経が脊髄後角で収束することにより、原因臓器と異なる部位に痛みを感じる現象をという。
- 5.
見逃してはならない緊急性の高い胸痛である「killer chest pain」には、急性心筋梗塞、急性大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸、の5つが含まれる。
- 6.
房水の流出が突然阻害されて眼圧が急上昇し、激しい眼痛とともに同側の頭痛、悪心・嘔吐、視力低下を引き起こす眼科疾患をという。
- 7.
急性閉塞隅角緑内障は中高年女性、眼、浅前房の人に多く、暗所での散瞳が誘因となる。
- 8.
「バットで殴られたような」突然の激しい頭痛で発症し、項部硬直を伴うことが多い疾患はである。
