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脳梗塞後のリハビリと退院支援

成人看護学 / 脳・神経

解説

脳梗塞は脳の血管が詰まることで脳組織への血流が途絶え、その領域の神経細胞が壊死してしまう疾患です。発症すると片麻痺、感覚障害、言語障害、嚥下障害などの後遺症が残ることが多く、急性期治療の後には長期にわたるリハビリテーションと、生活の場へ戻るための退院支援が必要になります。看護師は急性期から回復期、そして生活期へと続く一連の流れの中で、患者の身体機能だけでなく心理面・社会面まで含めた包括的な支援を担います。ここでは脳梗塞後のリハビリテーションと退院支援に必要な基本知識を整理していきます。

脳梗塞の病型とリスク因子

脳梗塞は発生機序によって大きく三つの病型に分類されます。一つ目はラクナ梗塞で、脳深部を走る穿通枝という細い血管が高血圧による動脈硬化で閉塞して生じます。二つ目はアテローム血栓性脳梗塞で、頸動脈や脳の主幹動脈に粥状硬化(アテローム)ができて狭窄・閉塞するもので、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などが危険因子となります。三つ目は心原性脳塞栓症で、心房細動などによって左心房内にできた血栓が脳動脈に飛んで塞栓を起こすものです。心原性は広範囲梗塞となりやすく、重症化しやすい点が特徴です。

心電図でRR間隔が不定で心拍数が増加している所見は心房細動を示し、心原性脳塞栓症の代表的な原因となります。脳卒中発症リスクの評価にはCHADS2スコアが用いられ、点数が高いほど抗凝固療法の適応が強くなります。

発症時のサインと急性期治療

脳卒中の早期発見にはFAST(Face顔のゆがみ、Arm片側上肢の麻痺、Speech言葉の異常、Time発症時刻)が国際的に用いられます。発症時刻の確認が決定的に重要なのは、発症から4.5時間以内であれば血栓溶解療法(t-PA静注療法)、24時間以内であれば血栓回収療法といった再灌流治療の適応が決まるからです。

発語の異常には大きく二つの種類があります。言葉を作り出す中枢の障害である失語と、発声発語器官の運動制御が障害される構音障害です。ろれつが回らないが言いたい言葉自体は選べている状態は構音障害で、唇・舌・軟口蓋・喉頭などを動かす神経筋の障害により発音が不明瞭になります。一方、失語は優位半球の言語野の障害で、典型的には左中大脳動脈領域の病変で生じます。

失語症の分類とコミュニケーション

失語症は代表的に二つに分けられます。**運動性失語(ブローカ失語)**は左前頭葉下部のブローカ野の障害で、聞いて理解する能力は比較的保たれますが、話す・書くといった表出が困難になります。**感覚性失語(ウェルニッケ失語)**は左側頭葉後上部のウェルニッケ野の障害で、流暢に話せるものの錯語が多く意味が通らず、聴覚的理解も低下します。

運動性失語の患者には、本人が言いたい言葉を推測して確認したり、はい・いいえで答えられる閉じた質問を活用するなど、表出を支える工夫が有効です。感覚性失語の患者には、短い文で簡潔に話し、絵カードやジェスチャー、実物など視覚的な手がかりを添えて理解を助けます。いずれの場合も本人が話し終えるまで待つ姿勢が大切です。

片麻痺患者のリハビリと生活援助

片麻痺患者の生活援助には大原則があります。それは「健側から起き上がる、健側から動かす」という考え方です。ベッドから起き上がる際は、健側の手で柵をつかみ、健側方向へ体を回転させ、健側下肢で患側下肢をすくい上げてベッド端へ下ろします。ベッド柵は健側にはつかまり用、患側には転落予防用と機能を分けて配置します。

車椅子への移乗では、車椅子を健側へ15〜30度の角度で配置し、ブレーキをかけフットレストを上げてから行います。脳梗塞後の早期離床時には起立性低血圧や再発のリスクがあるため、移乗前のバイタル測定が欠かせません。

心理的反応への支援

脳梗塞後の患者は身体機能の喪失から強い喪失感を抱き、抑うつ状態に陥ることがあります。フィンクの危機モデルでは衝撃、防衛的退行、承認、適応の四段階で障害受容の過程を捉えます。「何もできなくなってしまった」と語る承認の段階では、無理な励ましや情報提供よりも、共感的傾聴によって感情の表出を促すことが最優先です。患者の言葉を反復するリフレクションや感情の明確化、沈黙の活用といった技法が役立ちます。

退院支援と多職種連携

回復期リハビリテーション病棟では、急性期後のADL向上と在宅復帰の準備を目的に、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、薬剤師、管理栄養士、介護支援専門員などからなる多職種チームが関わります。退院前カンファレンスではこれらの職種が情報を持ち寄り、本人・家族の意向を中心に置いて退院後の生活設計を行います。

転院や紹介の際に医師が作成する公式文書が診療情報提供書で、診断名、発症経過、治療内容、投薬、検査結果などをまとめ、継続治療の根幹となります。看護面の情報は看護サマリーとして別途作成します。介護保険では脳血管疾患が特定疾病に該当し、40〜64歳でも要介護認定を受けられます。身体障害者手帳は発症後おおむね6か月を経て症状が固定してから申請します。

家族が退院後の介護に不安を抱いている場合は、機能訓練に取り組む患者の実際の姿を見学してもらうなど、本人の能力を家族が具体的にイメージできる関わりが効果的です。

まとめ

脳梗塞後の看護では、病型ごとの病態とリスク因子を理解した上で、急性期の再灌流治療、回復期のリハビリテーション、生活期への移行支援までを一連の流れとして捉えることが求められます。片麻痺患者では健側を活用した動作援助の原則を押さえ、失語の種類ごとにコミュニケーション方法を工夫します。心理的危機にある患者には共感的傾聴を基盤に関わり、退院支援では多職種チームで本人・家族の生活を支える視点が不可欠です。診療情報提供書や介護保険、身体障害者手帳といった社会資源の活用時期も整理しておくことで、切れ目のない支援が実現できます。

確認問題(穴埋め)

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  1. 1.

    脳梗塞は発生機序により、高血圧による穿通枝閉塞で起こる、動脈硬化による主幹動脈閉塞で起こるアテローム血栓性脳梗塞、心房細動による血栓が原因となるに分類されます。

  2. 2.

    心電図でRR間隔が不定となる不整脈はで、左心房内に形成された血栓が原因となり心原性脳塞栓症を引き起こします。

  3. 3.

    脳卒中の早期発見の指標であるFASTは、Face、Arm、Speech、の頭文字で、発症から4.5時間以内であれば血栓溶解療法であるの適応となります。

  4. 4.

    言葉は作れているが発音が歪み「ろれつが回らない」状態はで、唇・舌・軟口蓋などの発声発語器官の運動制御が障害されて生じます。

  5. 5.

    左前頭葉下部の障害で理解は保たれるが発話が非流暢となる失語を(ブローカ失語)、左側頭葉後上部の障害で流暢に話すが理解が低下する失語を(ウェルニッケ失語)といいます。

  6. 6.

    片麻痺患者の起き上がりや移乗の原則は「から起き上がる」ことで、車椅子は健側へ15〜30度の角度で配置します。

  7. 7.

    障害受容の過程を衝撃・防衛的退行・承認・適応の四段階で捉えるモデルをの危機モデルといい、承認の段階では共感的傾聴が最優先となります。

  8. 8.

    転院時に医師が作成し、診断名・経過・治療内容などをまとめた公式文書をといい、看護面の情報は別途として作成します。

  9. 9.

    介護保険において脳血管疾患はに該当し、40〜64歳の第2号被保険者でも要介護認定の対象となります。

脳梗塞後のリハビリと退院支援」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。