下咽頭癌の放射線治療から半年、Aさんに何が起こる?
看護師国家試験 第106回 午後 第40問 / 成人看護学 / がん看護
国試問題にチャレンジ
Aさん(59歳、女性)は、半年前に下咽頭癌( hypopharyngeal cancer )で放射線治療を受けた。口腔内が乾燥し、水を飲まないと話すことも不自由なことがある。 Aさんに起こりやすいのはどれか。
- 1.う歯
- 2.顎骨壊死
- 3.嗅覚障害
- 4.甲状腺機能亢進症( hyperthyroidism )
対話形式の解説
博士
今回はがん看護の問題じゃ。Aさんは59歳女性、下咽頭癌で放射線治療を受けて半年経っている。
アユム
口腔内が乾燥して、水を飲まないと話すのも不自由だそうですね。
博士
これは典型的な症状じゃ。何を示唆しておる?
アユム
唾液が出ていないってことですよね?
博士
その通り。頭頸部照射では照射野に唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)が含まれるから、腺房細胞が障害され唾液分泌が激減するのじゃ。
アユム
唾液って、そんなに重要なんですか?
博士
重要じゃ。唾液には①自浄作用(食渣を洗い流す)②緩衝能(pH調整)③抗菌作用(リゾチーム・IgA)④再石灰化作用(カルシウム・リン酸の供給)がある。
アユム
それが全部落ちると、虫歯が増えますね。
博士
その通り!『放射線性う蝕』と呼ばれる多発性・進行性の虫歯が、特に歯頸部や切縁を中心に急速に進行する。
アユム
なるほど、だから答えは『う歯』なんですね。
博士
うむ。時期的にも半年=晩期合併症の時期と合致する。急性期の粘膜炎は治療中〜3か月でおさまり、晩期合併症に移行しておるのじゃ。
アユム
他の選択肢も見ていきましょう。顎骨壊死は?
博士
放射線性顎骨壊死(ORN)は重篤な晩期合併症じゃが、頻度はう蝕より低く、通常60Gy以上の高線量で抜歯などの侵襲が加わると起こる。本事例の主訴とは直結せぬ。
アユム
嗅覚障害は?
博士
嗅覚は嗅神経が鼻腔上部の嗅上皮で担当する。下咽頭の照射野には嗅上皮は含まれないから起こりにくい。上咽頭癌や副鼻腔癌ならありうる。
アユム
甲状腺機能亢進症はどうですか?
博士
これは引っかけじゃ。頭頸部照射で起こるのは機能『低下』症で、亢進症は逆じゃ。甲状腺細胞が照射で障害され、ホルモン産生が落ちるからな。
アユム
頻度はどれくらいですか?
博士
頭頸部放射線治療後の甲状腺機能低下症は5年以内に20〜40%に発症する。定期的なTSH測定が推奨される。
アユム
放射線性う蝕の予防法は?
博士
治療前の歯科チェックが基本じゃ。齲蝕治療と抜歯は照射前に終わらせる(照射後の抜歯は顎骨壊死のリスクになる)。治療中〜後はフッ化物塗布、唾液分泌促進薬(ピロカルピン)、頻回含嗽、保湿剤、低糖食などじゃ。
アユム
看護師はどんなケアをしますか?
博士
口腔ケア指導、含嗽励行、水分補給、食事の工夫(柔らかく・酸味を避ける)、歯科との連携、口腔乾燥に対する人工唾液やうがい薬の活用などじゃ。
アユム
治療が終わっても、QOLの支援は続くんですね。
博士
その通り。がん治療は『治すこと』だけでなく『生き抜くこと』を支える長期的な視点が必要なのじゃよ。
POINT
頭頸部放射線治療後の晩期合併症として、唾液腺障害による口腔乾燥症は放射線性う蝕(多発性う蝕)を引き起こしやすくなります。本問の正解は選択肢1で、Aさんの主訴である『口腔乾燥・会話時に水が必要』という症状がう蝕の重要なリスク要因となります。時期別の合併症整理(急性期:粘膜炎・口腔乾燥・味覚障害、晩期:う蝕・顎骨壊死・開口障害・甲状腺機能低下)と、予防として治療前の歯科介入・フッ化物塗布・口腔ケアの徹底が看護の要点です。がん治療は治癒後も続くQOLの課題を抱えるため、長期的なサバイバーシップ支援の視点が不可欠です。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:Aさん(59歳、女性)は、半年前に下咽頭癌( hypopharyngeal cancer )で放射線治療を受けた。口腔内が乾燥し、水を飲まないと話すことも不自由なことがある。 Aさんに起こりやすいのはどれか。
解説:正解は1です。頭頸部領域(下咽頭癌を含む)への放射線治療では、照射野に唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)が含まれるため、腺房細胞の障害により唾液分泌量が著明に低下します。唾液は歯のエナメル質を再石灰化する作用、食渣を洗い流す自浄作用、抗菌作用を持つため、唾液分泌低下(口腔乾燥症/ドライマウス)は『多発性う蝕(放射線性う蝕)』を引き起こしやすくなります。本事例は照射後半年という晩期有害事象の時期にあたり、口腔乾燥症状もあることから、う歯の発生リスクが最も高くなります。
選択肢考察
-
○ 1. う歯
唾液分泌低下により口腔内自浄作用・緩衝能・再石灰化作用が低下し、特に歯頸部や切縁を中心に急速に進行する放射線性う蝕が発生する。治療後の晩期合併症として頻度が高い。
-
× 2. 顎骨壊死
放射線性顎骨壊死(ORN)は頭頸部放射線治療の重篤な晩期合併症ではあるが、頻度はう歯より低く、通常は60Gy以上の高線量で抜歯などの侵襲が加わったときに発症することが多い。本症例の主訴(口腔乾燥)と直接結びつく第一選択ではない。
-
× 3. 嗅覚障害
嗅覚は嗅神経(第1脳神経)が担当し、鼻腔上部の嗅上皮で感知される。下咽頭の照射野に嗅上皮は通常含まれない。嗅覚障害は上咽頭癌や副鼻腔癌の治療で起こりうる。
-
× 4. 甲状腺機能亢進症( hyperthyroidism )
頭頸部への放射線治療で起こりうる甲状腺の合併症は『機能低下症(hypothyroidism)』。甲状腺細胞の直接障害により、治療後数年以内に数十%の患者で発生する。亢進症ではない。
頭頸部放射線治療の有害事象は時期で整理する。急性期(治療中〜3か月以内):口腔粘膜炎、口腔乾燥、味覚障害、皮膚炎、嚥下痛、咽頭痛。晩期(3か月〜数年):放射線性う蝕、顎骨壊死、開口障害(咀嚼筋線維化)、甲状腺機能低下、嚥下障害、誤嚥、皮膚線維化、二次がん。う蝕予防には、治療前の歯科チェック(齲蝕治療・抜歯は照射前に済ませる)、治療中〜後のフッ化物塗布、唾液分泌促進薬(ピロカルピン等)、頻回の含嗽、低糖食、保湿剤の使用などが推奨される。下咽頭癌は喉頭・食道・頸部リンパ節まで照射野が広がるため、嚥下障害や発声障害にも配慮した長期的支援が必要となる。
頭頸部放射線治療後の晩期合併症を問う問題。唾液分泌低下→う蝕という因果を病態生理から理解する。
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