自己決定を支える看護師のひと言!脊髄損傷からの復職支援
看護師国家試験 第109回 午後 第70問 / 成人看護学 / 慢性疾患とリハビリテーション看護
国試問題にチャレンジ
Aさん( 55 歳、男性)は、妻と 2 人暮らし。建築士として主にデスクワークの仕事を行っていた。脊髄損傷( spinal cord injury )のため下半身の不完全麻痺となり、リハビリテーション専門の病院へ転院した。電動車椅子を用いて室内の動作は自立できるようになった。退院調整部門の看護師との面接でAさんから「元の職場に戻りたい」と話があった。 Aさんの自己決定を支援する看護師の助言で適切なのはどれか。
- 1.「元の職場の仕事を在宅勤務に変更しましょう」
- 2.「デスクワークなので職場復帰は可能と思います」
- 3.「職場復帰にあたりAさんが課題と思うことを整理しましょう」
- 4.「元の職場にこだわらずAさんの障害にあった職場を探しましょう」
対話形式の解説
博士
今回は脊髄損傷で電動車椅子利用となったAさんの復職支援の場面じゃ。55歳建築士、主にデスクワークで、妻と2人暮らしという設定じゃな。
アユム
Aさんは「元の職場に戻りたい」と希望しているんですね。
博士
そう。ここで看護師に問われるのは「自己決定の支援」じゃ。患者の意思を尊重し、実現可能性を一緒に考える姿勢が求められる。
アユム
選択肢1の「在宅勤務に変更しましょう」は、親切そうに見えますが…。
博士
看護師が勝手に結論を出してしまっておる。Aさんは「元の職場に戻りたい」と言っておるのに、本人の希望を飛び越えて別案を提示するのは自己決定支援ではない。
アユム
選択肢2の「デスクワークなので可能です」もだめですか?
博士
楽観的な断定じゃな。デスクワークそのものは可能でも、通勤、職場のバリアフリー、トイレ、排泄管理、上肢の疲労、職場の理解など、実際には考えるべき課題が山ほどある。無根拠な保証は後で患者を失望させる可能性がある。
アユム
選択肢4は希望自体を否定していますね。
博士
そう、「元の職場にこだわらず」は自己決定の尊重に真っ向から反する。
アユム
選択肢3の「課題を整理しましょう」が正解ですね。
博士
その通り。Aさんの希望を尊重した上で、本人と一緒に課題を洗い出し、それぞれに解決策を考えていく。これが自己決定を現実の計画へ具体化するプロセスじゃ。
アユム
具体的にはどんな課題を挙げますか?
博士
①通勤手段:自家用車・福祉車両・リフト付きタクシー、②職場のバリアフリー環境:段差・エレベーター・多目的トイレ・駐車場、③排泄・排尿管理:自己導尿の時間配分、④上肢疲労・褥瘡予防、⑤業務内容の調整、⑥周囲の理解と配慮、といったところじゃ。
アユム
社会資源も重要ですね。
博士
ハローワーク障害者窓口、地域障害者職業センター、ジョブコーチ制度、障害者雇用率制度など、使える制度を知っておくと支援の幅が広がる。
アユム
産業医との連携も必要ですね。
博士
その通り。職場の産業医・産業保健師と連携し、復職前の職場訪問や業務内容の調整を行うことが成功の鍵じゃ。
アユム
看護師がすべてを決めるのではなく、患者の希望を起点に一緒に考える、という姿勢なんですね。
博士
うむ。自己決定支援は「患者の希望を傾聴する→課題と資源を洗い出す→情報提供する→多職種連携で調整する→最終決定は本人が行う」という流れじゃ。リハビリテーション看護の根幹じゃぞ。
アユム
身体の回復だけでなく、社会参加まで視野に入れるのがリハビリ看護なんですね。
博士
その通り。脊髄損傷はICFでいう「参加」のレベルまで支援することで、本人らしい生活の再構築につながるのじゃ。
POINT
脊髄損傷で電動車椅子利用となった55歳建築士Aさんの「元の職場に戻りたい」という希望に対し、看護師が行う自己決定支援の基本は、本人の意向を尊重しつつ課題を共に整理することです。一方的な代替案の提示(在宅勤務への変更)、楽観的な断定(復職可能です)、希望の否定(別の職場を探しましょう)はいずれも自己決定の尊重に反します。復職支援では通勤手段、職場のバリアフリー、排泄管理、業務内容の調整、産業医との連携、社会資源(ハローワーク障害者窓口・地域障害者職業センター・ジョブコーチ制度等)の活用など多面的なアセスメントが必要です。リハビリテーション看護は身体機能の回復だけでなくICFでいう「参加」のレベル、すなわち本人らしい社会生活の再構築までを支援する視点が不可欠で、自己決定支援はその中核となる看護援助です。状況設定問題では患者の言葉を起点に、傾聴・共同思考・情報提供のプロセスを意識して選択肢を吟味することが得点の鍵となります。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:Aさん( 55 歳、男性)は、妻と 2 人暮らし。建築士として主にデスクワークの仕事を行っていた。脊髄損傷( spinal cord injury )のため下半身の不完全麻痺となり、リハビリテーション専門の病院へ転院した。電動車椅子を用いて室内の動作は自立できるようになった。退院調整部門の看護師との面接でAさんから「元の職場に戻りたい」と話があった。 Aさんの自己決定を支援する看護師の助言で適切なのはどれか。
解説:正解は 3 です。自己決定の支援とは、患者自身の意思・希望を尊重し、その実現に向けて一緒に考えていく援助である。Aさんの「元の職場に戻りたい」という意向を起点として、復職にあたっての課題(通勤手段、職場のバリアフリー環境、仕事内容の調整、家族のサポート等)を本人と一緒に整理することが、自己決定を具体的な行動計画につなげる看護援助となる。選択肢1・2・4はそれぞれAさんの意向を勝手に変更・断定・否定しており、自己決定支援とは言えない。
選択肢考察
-
× 1. 「元の職場の仕事を在宅勤務に変更しましょう」
看護師が一方的に「在宅勤務」という結論を提示しており、Aさんの「元の職場に戻りたい」という希望と食い違う。自己決定を支援していない。
-
× 2. 「デスクワークなので職場復帰は可能と思います」
通勤手段・職場のバリアフリー環境・排泄管理など、車椅子利用者が実際の職場復帰に向けて検討すべき課題を考慮しておらず、楽観的な断定は患者の期待を誤らせる恐れがある。
-
○ 3. 「職場復帰にあたりAさんが課題と思うことを整理しましょう」
Aさんの希望を尊重しつつ、本人が課題を認識し解決策を一緒に考える姿勢。自己決定を具体化するプロセスを支援する最も適切な助言。
-
× 4. 「元の職場にこだわらずAさんの障害にあった職場を探しましょう」
Aさんの希望を否定し、別の選択肢に誘導している。自己決定の尊重に反する助言である。
自己決定支援の看護では、①患者の希望を傾聴し尊重する、②実現に向けた課題・資源を共に洗い出す、③必要な情報を提供する、④多職種と連携して調整する、⑤最終的な決定は本人が行う、というプロセスが基本となる。脊髄損傷後の復職支援では、通勤手段(バリアフリー車両・送迎・リフト付きタクシー)、職場の環境整備(段差解消・多目的トイレ・駐車場)、仕事内容の調整、排泄・排尿管理(自己導尿など)、褥瘡予防、上肢疲労対策、産業医や障害者職業センターとの連携が重要。社会資源としてはハローワークの障害者窓口、地域障害者職業センター、ジョブコーチ制度、障害者職業能力開発校、障害者雇用率制度(民間2.3%、令和6年から2.5%)などがある。リハビリテーション看護では身体的回復だけでなく、社会参加・就労継続を視野に入れた包括的支援が求められる。
状況設定での自己決定支援の基本姿勢を問う。患者の希望を尊重しつつ、実現に向けた課題整理を共に行う姿勢が正解の鍵。
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