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緩和ケア病棟における家族への予期悲嘆ケア

看護師国家試験 第113回 午後 第120問 / 成人看護学 / 終末期看護

国試問題にチャレンジ

113回 午後 第120問

次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(72歳、男性)は、妻と2人暮らしで子どもはいない。定年後は2人で旅行するのが趣味であった。Aさんは、1か月前から残尿感や夜間頻尿が気になり病院を受診した結果、前立腺癌(prostate cancer)と診断され根治的前立腺摘出手術を受けた。退院後は、手術後の補助療法として、外来で放射線の外照射療法を行うことになっている。 Aさんが放射線治療を終了して半年後、腰部と右大腿部の痛みが出現した。倦怠感と食欲不振が続いたため病院を受診し精密検査を受けた。骨転移していることが分かり、Aさんと妻に主治医から余命と治療方針の説明があった。Aさんはその場で「痛みを取り除いてほしい。つらい治療は受けたくない」と訴え、3日後に緩和ケア病棟に入院した。 入院翌日、受け持ちの看護師Bが、プリセプターである看護師に「今朝、奥さんの顔色が悪くふらついていたので声をかけると『夫の最期を受け入れられない気がして不安です』と打ち明けられました。昨夜も眠らずにAさんに付き添っていたようでした。奥さんにどう対応したらよいのでしょうか」と相談した。 プリセプターである看護師が看護師Bに助言する内容で適切なのはどれか。

  1. 1.妻がAさんの死を受け入れられるよう妻を励ますこと
  2. 2.妻がAさんへの思いを看護師Bに語る時間をつくること
  3. 3.Aさんの予後について再度主治医から妻へ説明するよう調整すること
  4. 4.妻がAさんの死を受け入れられるまで夜も付き添うよう妻に伝えること

対話形式の解説

博士 博士

最後の問題じゃ。Aさんは骨転移が分かり緩和ケア病棟に入院、妻は『夫の最期を受け入れられない』と語り、昨夜も眠らず付き添っておる。

アユム アユム

妻の方まで体調を崩しそうですね…プリセプターとしてどう助言しますか?

博士 博士

まず妻の心理段階を読み解いてみよう。余命告知から数日じゃ。キューブラー・ロスでいう『否認』や『取引』に近い急性の衝撃期じゃな。

アユム アユム

この時期って『頑張って』と励ますのはどうなんでしょう。

博士 博士

うむ、それが選択肢1じゃが、励ましは感情を封じ込めさせてしまう。否認のさなかにある家族には逆効果じゃ。

アユム アユム

選択肢3の『主治医から再説明』は情報提供として良さそうですが…。

博士 博士

妻は『理解できない』のではなく『受け入れられない』と言っておる。これは感情の課題であって情報不足ではない。優先度は低いのう。

アユム アユム

選択肢4の『夜も付き添うよう伝える』は?

博士 博士

すでに眠らず付き添って顔色が悪くなっておる。これ以上の付き添いを促せば家族自身が倒れてしまう。看取りには家族の健康も不可欠じゃ。

アユム アユム

残るは選択肢2の『看護師Bに思いを語る時間をつくる』ですね。

博士 博士

正解じゃ。感情を言語化する場をつくることが予期悲嘆ケアの基本。妻の揺らぎや夫への思いを受け止めるだけで、孤立感は大きく和らぐ。

アユム アユム

そのうえで休息の大切さを伝えたり、多職種に繋いだりするんですね。

博士 博士

そうじゃ。公認心理師やMSW、チャプレンと連携することも視野に入れるとよい。死別後のグリーフケアにもつながっていく。

アユム アユム

看護師自身も感情が揺れそうですが、振り返りも大事そうですね。

POINT

本問は緩和ケア病棟における家族支援の基本、すなわち予期悲嘆にある家族への第一選択は『傾聴と感情表出の場の保障』であることを問うています。正解は選択肢2で、妻がAさんへの思いを語れる時間を意図的につくることが、不安の表出・整理・信頼関係構築・今後の意思決定支援の土台となります。励まし・付き添い強要・再説明は、この段階の妻のニーズとずれており、いずれも適切ではありません。家族が倒れないよう休息・食事・多職種連携を含めた包括的ケアを提供し、死別後のグリーフケアへとつなげていく視点が求められます。

解答・解説

正解は 2 です

問題文:次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(72歳、男性)は、妻と2人暮らしで子どもはいない。定年後は2人で旅行するのが趣味であった。Aさんは、1か月前から残尿感や夜間頻尿が気になり病院を受診した結果、前立腺癌(prostate cancer)と診断され根治的前立腺摘出手術を受けた。退院後は、手術後の補助療法として、外来で放射線の外照射療法を行うことになっている。 Aさんが放射線治療を終了して半年後、腰部と右大腿部の痛みが出現した。倦怠感と食欲不振が続いたため病院を受診し精密検査を受けた。骨転移していることが分かり、Aさんと妻に主治医から余命と治療方針の説明があった。Aさんはその場で「痛みを取り除いてほしい。つらい治療は受けたくない」と訴え、3日後に緩和ケア病棟に入院した。 入院翌日、受け持ちの看護師Bが、プリセプターである看護師に「今朝、奥さんの顔色が悪くふらついていたので声をかけると『夫の最期を受け入れられない気がして不安です』と打ち明けられました。昨夜も眠らずにAさんに付き添っていたようでした。奥さんにどう対応したらよいのでしょうか」と相談した。 プリセプターである看護師が看護師Bに助言する内容で適切なのはどれか。

解説:正解は 2 です。妻は夫の余命告知から数日という急性期の衝撃のなかにあり、キューブラー・ロスの死の受容過程でいう『否認』や『取引』に近い段階にいると考えられます。この時期の家族支援で最も重要なのは、感情を抑え込ませたり結論を急がせたりすることではなく、語れる場を保障して傾聴することです。看護師Bが妻の思いを受け止める時間を意図的につくることは、妻の感情の整理を助け、孤立感を和らげ、その後の予期悲嘆のプロセスを支える基盤となります。

選択肢考察

  1. × 1.  妻がAさんの死を受け入れられるよう妻を励ますこと

    『頑張って』『受け入れましょう』といった励ましは、否認の段階にある家族の感情を否定することになりやすく、かえって孤立感や自責感を強める危険があります。共感的傾聴を優先すべき場面です。

  2. 2.  妻がAさんへの思いを看護師Bに語る時間をつくること

    感情を言語化する場は予期悲嘆のケアの基本であり、妻の不安・揺らぎ・ねぎらいの気持ちを安心して表出できる関係性をつくります。看護師との信頼関係構築にもつながり、今後の意思決定支援の土台となります。

  3. × 3.  Aさんの予後について再度主治医から妻へ説明するよう調整すること

    妻は医学的情報を理解できていないのではなく、情報を『受け入れられない』気持ちを訴えています。再説明は情報理解不足が課題の場合に有効で、この段階での優先度は高くありません。

  4. × 4.  妻がAさんの死を受け入れられるまで夜も付き添うよう妻に伝えること

    すでに昨夜も眠らず付き添っている妻に、さらに付き添いを勧めるのは心身の消耗を助長します。看取りを支える家族自身の休息と健康維持への配慮が不可欠です。

予期悲嘆(anticipatory grief)は患者の死を予測する時点から家族に生じる悲嘆反応で、否認・怒り・取引・抑うつ・受容といった段階(キューブラー・ロス)を行き来しながら進みます。家族ケアの原則は、1)安全で遮られない場で感情表出を促す、2)否定・評価・励ましを避け傾聴する、3)身体的休息(食事・睡眠)を保障する、4)患者との時間を意味づけ(メモリーワーク等)る、5)多職種(医師・MSW・公認心理師・チャプレン)と連携する、6)死別後のグリーフケアにつなぐ、など。看護師自身の感情も振り返る必要があります。

終末期の家族ケアにおいて、予期悲嘆のなかにある家族への第一選択は『傾聴と感情表出の場の保障』であることを問う問題です。