外国籍患者さんへの病状説明、家族通訳でいいの?
看護師国家試験 第114回 午前 第118問 / 成人看護学 / 終末期看護
国試問題にチャレンジ
次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(64歳、男性、外国籍)は、1年前に日本に移住し、娘(36歳、会社員)と娘の夫(42歳、会社員、日本人)と3人家族である。娘の夫は海外に長期出張中で、娘は日本語での簡単な日常会話はできるが、Aさんはほとんど日本語が理解できない。 Aさんは、2か月前から時々腰痛があり、市販薬で様子を見ていたが、徐々に腰痛が強くなり、娘に付き添われて受診した。検査の結果、肺癌(lung cancer)と診断され、胸膜と腰椎への転移が見つかり、疼痛コントロールの目的で入院した。 病状について医師から説明を受けることになったが、娘から「夫はしばらく帰ってこないし、私は難しいことは分からないのでどうしたらいいですか」と質問を受けた。 看護師の助言で適切なのはどれか。
- 1.「ご主人に帰国してもらいましょう」
- 2.「医療通訳の方に同席してもらいましょう」
- 3.「娘さんからAさんにお話しされてはいかがですか」
- 4.「通訳できる知人を探して、同席してもらいましょう」
対話形式の解説
博士
今日は外国籍のAさんの病状説明じゃ。日本語がほとんど分からず、娘さんも「難しい話は分からない」と言っておる。どう対応する?
アユム
娘さんが通訳すればいいんじゃないかと思いましたが、難しい話はわからないって…。
博士
そう。まさにそこが問題なんじゃ。Aさんは肺癌・胸膜転移・腰椎転移という重い病状で、これから治療方針を決めなければならん。情報の正確性が命を左右する場面じゃ。
アユム
家族通訳ってよくないんですか?
博士
世界的にも推奨されておらん。理由は3つ。①医療用語を正確に訳せない、②家族が情報を選別して隠してしまうことがある、③通訳する家族自身の心理的負担が大きい。
アユム
娘さんが「夫の余命を父に伝えられない」みたいな状況もありそうですね。
博士
その通り。だから医療通訳という専門職を入れるのが世界標準なんじゃ。
アユム
医療通訳ってどうやって手配するんですか?
博士
自治体や医療機関、NPOを通じて派遣される。最近は電話通訳や遠隔ビデオ通訳もあって、24時間対応のサービスもあるぞ。
アユム
知人に頼むのはどうでしょうか?
博士
それも避けたい。守秘義務がないから、プライバシーが守れん。Aさんの病状が地域で広まってしまうリスクもある。
アユム
では「ご主人に帰国してもらいましょう」は?
博士
同席は望ましいが急な帰国は経済的・社会的負担が大きい。何より、医療通訳という専門職を使えば言語問題は解決する。優先順位として最適とは言えん。
アユム
正解は2の医療通訳ですね。インフォームド・コンセントの観点でも納得です。
博士
ICには3要素がある。①情報提供、②患者の理解、③自発的な同意。言葉の壁があると②と③が崩れてしまう。
アユム
通訳の質は意思決定の質を直接左右しますね。
博士
そう。さらに医療通訳は文化的背景や宗教的価値観も踏まえて訳してくれる。これは家族には難しい。
アユム
外国籍の患者さんへの看護で、他に注意することはありますか?
博士
痛みの表現や家族の意思決定への関与の仕方、食事制限など、文化によって大きく異なる。看護師は文化的感受性(カルチュラル・コンピテンス)を持つことが求められるんじゃ。
アユム
在留外国人が増えている今、医療通訳の活用は看護師にとって必須スキルですね。
POINT
外国籍でかつ日本語をほとんど理解できないAさんへの病状説明では、医療通訳という守秘義務と専門知識を備えた職種を介することが、インフォームド・コンセントの質と患者の自律的意思決定を保障する上で最も適切です。家族通訳は医療用語の誤訳・情報の意図的な取捨選択・心理的負担という問題を抱え、知人通訳はプライバシー保護の観点で不適切で、夫の急な帰国は経済的・社会的負担が大きいため最優先の選択肢にはなりません。日本でも対面・電話・遠隔ビデオ通訳といった医療通訳サービスの整備が進んでおり、看護師は地域の社会資源を把握して活用できることが求められます。在留外国人の増加に伴い、文化的背景や宗教的価値観に配慮した文化的感受性のある看護(カルチュラル・コンピテンス)の重要性も高まっており、医療通訳の活用はその第一歩といえます。患者の知る権利と自己決定を支える看護師の役割を、グローバル視点で捉え直す好例といえるでしょう。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(64歳、男性、外国籍)は、1年前に日本に移住し、娘(36歳、会社員)と娘の夫(42歳、会社員、日本人)と3人家族である。娘の夫は海外に長期出張中で、娘は日本語での簡単な日常会話はできるが、Aさんはほとんど日本語が理解できない。 Aさんは、2か月前から時々腰痛があり、市販薬で様子を見ていたが、徐々に腰痛が強くなり、娘に付き添われて受診した。検査の結果、肺癌(lung cancer)と診断され、胸膜と腰椎への転移が見つかり、疼痛コントロールの目的で入院した。 病状について医師から説明を受けることになったが、娘から「夫はしばらく帰ってこないし、私は難しいことは分からないのでどうしたらいいですか」と質問を受けた。 看護師の助言で適切なのはどれか。
解説:正解は 2 です。Aさんは肺癌で胸膜・腰椎転移が見つかり、これからの治療方針について正確な情報を本人が理解した上で意思決定する必要があります。日本語をほとんど理解できないAさんに対し、娘も「難しい話はわからない」と話しており、家族通訳では医療用語の正確な伝達が難しく、内容の取捨選択や省略・誤訳のリスクもあります。医療通訳は守秘義務を負い、医療用語に習熟した専門職であり、患者の自律性と知る権利、インフォームド・コンセントの質を担保する最適な選択肢となります。
選択肢考察
-
× 1. 「ご主人に帰国してもらいましょう」
娘の夫は日本人で日本語に堪能と思われるが、海外長期出張中であり、急な帰国は社会的・経済的負担が大きい。同席は望ましいが必須ではなく、まず利用すべき資源は医療通訳であるため、最優先の助言にはならない。
-
○ 2. 「医療通訳の方に同席してもらいましょう」
医療通訳は医療用語の知識と守秘義務を備えた専門職で、自治体や医療機関、NPOを通じて派遣・遠隔通訳サービスが利用できる。患者本人が病状と治療方針を正確に理解しICを成立させるための、最も適切な助言である。
-
× 3. 「娘さんからAさんにお話しされてはいかがですか」
娘は簡単な日常会話レベルで「難しい話はわからない」と訴えている。重要な医療情報の通訳を非専門家の家族に委ねると、誤訳・省略・心理的負担が大きく、Aさんの自己決定を阻害する不適切な助言である。
-
× 4. 「通訳できる知人を探して、同席してもらいましょう」
知人通訳は守秘義務がなく、プライバシー保護の観点で問題がある。また医療用語の正確性も担保できず、Aさんと知人の関係性によっては率直な意思表明が難しくなることもあり、適切ではない。
医療通訳は単なる言葉の橋渡しにとどまらず、医療文化・宗教的背景・健康観なども踏まえて翻訳する専門職である。日本でも厚生労働省が「医療機関における外国人患者受入環境整備事業」を進めており、対面通訳・電話通訳・遠隔ビデオ通訳が利用可能になっている。家族通訳は便利な反面、①未成年者を含む家族への精神的負担、②情報の意図的な取捨選択(特に予後など重い情報の隠蔽)、③医療用語の誤訳、といった問題があり、世界的に推奨されない。インフォームド・コンセントの3要素(情報提供・理解・自発的同意)すべてに関わる重要な視点である。
外国籍で日本語が理解できないがん患者へのインフォームド・コンセントを支援する上で、医療通訳という専門職の活用が最適であることを理解する問題。
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